世界の花き認証 環境・社会認証の普及と多元化する「品質」(World floriculture certifications:The spread of environmental and social certification and the multiplication of quality dimensions)

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世界の花き社会環境認証について、調査論考を出版していただきました。歴史、内容、生産国、消費国、貿易ハブであるオランダの状況、日本の認証の現状とクリアすべき課題、展望を包括的に論じたものです。まったく注目されることはありませんでしたが、農林水産省の予算で実施することができた調査で、おそらくこのテーマでは国内初?の著作なので、要約を公開すべきと考えました。 内容は2019年3月現在。
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1. はじめに: 日本の花は、「品質」の「次元」が少ない

 農産物や食品の生産流通においては、サプライチェーンの持続可能性が真剣に問われるようになるにつれて、品質概念の多元化が進み、環境や社会的公正に対する対応が、新たな「品質」とみなされはじめた。花き産業でも、世界では環境・社会認証とGAPの採用が進み、外見や日持ちだけでなく、環境負荷削減や労働安全、人権と社会的公正、経営管理、法令遵守という基本的な要求水準を満たそうとしていない花は、総合的に見て「高品質」とは呼べなくなりつつある。ある観点から高度に「品質」を作り込んであっても、他の根本的な品質次元が欠けたままでは、せっかくの強みが十全に生かされない。

 日本では日持ち品質に特化した単機能認証が主流であり、世界の水準とは異なっている。その一方、日本の花き生産現場では、国際条約で製造・使用・輸出入が禁止されているPOPs(Persistent Organic Pollutants、残留性有機汚染物質)の残留検出や、失効・禁止農薬の使用事故は、時折起こっている。認証に参加していれば、日常的な取り組みや審査、土壌分析等を通じて、不備防止のチェックや対策、改善が可能だが、日本では、花きの認証そのものの普及度が低い。そのため、生産流通の実態は、第三者である取引先や消費者にとってはブラックボックスであり、品質管理に関して透明性を備えた担保手段がない。
 認証に関する世界の状況は、日本の輸出をしない生産者にとっても無関係とはいえない。輸入品に淘汰される恐れもあるからである。輸出の有無にかかわらず、生き残りの前提となる基盤は、時代の変化や不確実性に対処しうる、広い意味での「経営の質」の強化である。家族農業や小規模経営の比重が高い日本の花き産業では、団体認証を含め、認証を活用した品質管理への取り組みは、継続的な教育とスキル向上の場ともなるはずである。

2. 基準認証 考え方と枠組みの変遷

(1) 認証の機能と流れ

 農産物の分野において、認証は、品質への信頼を担保する制度、経営やリスク管理のツール、取引の事実上の「ライセンス」、サステナビリティの水準向上とその可視化、消費者やバイヤーに対する品質シグナルという機能を担っている。
 認証は1990年頃から台頭し、民間・任意の「ソフトな規制」枠組みとして、政府規制と相互作用しながら発展してきた。2000年代頃からは、サプライチェーン貫通型の認証枠組みや、サステナビリティ実現のための国際的イニシアティブが広がっている。
  一方、日本の花き認証の現状を鑑みると、サプライチェーンを通じた日持ち品質管理の枠組みがようやく軌道に乗り始めたところで、仕組みの進化という点では、世界の流れに照らすと、2000年前後の水準にあると考えられる。とはいえ、日本の花き産業において、環境・社会認証の取得はごくわずかにとどまり、GAP(Good Agricultural Practice、農業生産工程管理)の必要性も理解されていない。諸認証間の調整も欠けている。世界の花き認証の中心は環境・社会分野にあるが、この領域での日本の取り組み状況は、欧州だけでなく、南米、アフリカの主要生産国と比べても、10~20年遅れを取っている。

図表 認証枠組みの変化 政府規制 → 民間認証 → サプライチェーン包摂 → 国際イニシアティブ
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出典:著者(青木)作成。Abbott and Snidal (2009), 大元他(2016)、Hatanaka(2005)を参照。

(2) 多元化する品質

 製造技術の高度化につれて、品質の認証は、製品認証から当事者による工程管理へと認証方式が大きく変わった。また、「品質」の意味する内容も多元化しており、生産側、需要者側の価値観や取引段階等により、目指す「品質」は異なる。
 花の品質については、従来、「外的品質」、「内的品質」、「流通品質」が問われてきた。    外的品質は、花の形態、色合い、サイズ、香りなどに関するものである。
 内的品質には、日持ち性や遺伝的純度、斉一性、ウイルスや病原菌に汚染されていないこと、生理的障害がないこと、変異や病理検定の徹底などが含まれる。
 流通品質は、納期、納品量、安定供給、信用に関わる品質である。
 これらに加え、最近では、土・水・環境の保全や生物多様性を重視する「環境的品質」、そして労働者の搾取を防ぎ、衛生、安全、賃金を含む労働・生活条件の改善や社会的公正を志向する「社会的品質」に注目が集まっている。
 環境および社会的品質は花の生産の長期的な持続可能性を支える必要条件で、世界的には、環境および社会認証が花の国際認証の普及を牽引している。逆に言えば、地球のどこであれ、環境や人権を犠牲にして生産・流通する農産物や製品は、いかにその他の鑑賞上あるいは機能的品質が高くても、総合的にみて「高品質」とはみなされなくなりつつある。
 これら多元的品質を実現するには、「経営の質」の向上を含めた総合的な品質管理が必要とされることになるだろう。


図表 花きの品質

品質次元内 容
外的品質形態、色、サイズ、香り
 均一性、健全性、活着(苗)
 物理的・生理的障害、病虫害の有無
流通品質納期、納品量
 安定供給(量、質)、希少性
 信用、情報提供
環境・社会品質環境配慮(化学農薬・肥料削減、IPM)
 労働者の安全、人権保護
 生産履歴
経営品質経営戦略、経営の健全性、管理能力
 法令遵守、ガバナンス
知覚品質顧客・消費者が知覚する品質
情報品質生産・流通情報の把握、デジタル化、情報提示、コミュニケーション
出典:青木恭子(2019)『世界の花き認証 ~環境・社会認証の普及と多元化する「品質」』、国産花き日持ち性向上推進協議会、に加筆。外的、流通、環境・社会品質については、次の文献を参考にした。鶴島久男(2003)「栄養系花き苗の品質と品質管理」『農業および園芸』(養賢堂)第78巻第10号、1140~1146頁。土井元章(2016)「花卉の品質管理技術の発展と課題」今西英雄他『日本の花卉園芸 光と影』、ミネルヴァ書房。


3.世界の花き認証

(1) 日本の花き認証

 日本の花き認証の主流は日持ち品質管理認証で、「花のJAS」、「リレーフレッシュネス」、「日持ちさん」の3つの規格が並存している。国際認証としては、「MPS(ABC、GAP等)」があるが普及には至っていない。世界的には、MPSやグローバルGAPなどサステナブル認証が主流である。

図表 日本の花き認証

名称スキームオーナー対象区分参加件数内容
日持ち性管理切り花(花のJAS)農林水産省生産(流通・小売規格作成中)切花(鉢物規格作成中)(認証は未実施)日持ち生産管理
花き日持ち品質管理認証(リレーフレッシュネス)MPSジャパン生産~流通~小売切花生産135、流通37、小売94(団体認証含む)日持ち品質管理、サプライチェーン全体(生産~流通・加工・輸送~小売)
日持ち性向上品目別生産管理基準認証(日持ちさん)日本花き生産協会生産切花、鉢物12(団体認証含む)日持ち生産管理
花き産業総合認証(MPS)MPS(オランダ)生産、流通切花、鉢物生産 54、流通 21環境認証(国際認証)農薬等環境負荷低減、鮮度・品質管理、労働環境.GAP認証あり
注:認証者数は、2019年3月現在
出典:青木恭子(2019)


  • 新制度「花のJAS(日本農林規格)」の特長と政策の背景
     新しいJAS制度では、輸出ツールとしての活用も視野に、花だけでなく多様な農産物やサービスへ適応分野が拡大された。従来のJASと比べて、差別化、ブランド化、国際化、B2B対応が強化され、新設のJAS制度は、花だけでなく広く農産物とその加工品、関連サービスについて、民間提案による品質や使用、生産流通プロセスを規格化可能にする枠組みである。従来のJASと比べて差別化、ブランド化、B2B強化に応用できる仕組みで、品質や使用、生産流通プロセスを規格化することができる。輸出ツールという側面ももつ。
     JAS認証は、GAP、HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point、危害分析重要管理点)、GI(Geographical Indication、地理的表示)とともに、規格自体、政府の標準・認証戦略の一環として国際化が目標に掲げられている。花では、2018年度から切り花の日持ち品質管理JAS認証が施行された。認証業務はまだ始まっていない(2019年現在)。 

  • 日持ちさん
    日持ちさんは、日本花き生産協会(JFGA)の品目別生産管理基準である。生産管理、衛生管理や前処理等が定められ、80%以上実施している生産者や団体が認証取得を申請可能である。

  • リレーフレッシュネス(花き日持ち品質管理認証)
     リレーフレッシュネスは、花き日持ち品質管理に関わる民間の第三者認証である。花きの日持ち性向上対策、品質管理がなされている申請者(個人、団体)に対して、認証を授与する。生産、流通(市場、仲卸、加工場、輸送)、小売の3部門がある。MPSジャパンが運営。

図表 「リレーフレッシュネス」 花き日持ち品質管理認証 管理基準項目(例 生産部門)

項目チェックポイント基準
ハウス(圃場)清掃ハウス(圃場)は清掃されているか
採花採花時間朝、夕の気温の低い時に採花しているか
 バケツに入れるまでの時間30分以内
 冷蔵庫に入れるまでの時間夏季25℃以上の場合は30分以内
前処理バケツ水揚げの清潔度ルミノメーター1000RLU以内
 前処理剤の使用適正な前処理剤の使用
 バケツの水替え頻度水道水使用、適宜交換
 バケツの保管清潔な場所に保管
選花場清掃清掃されているか
 温度・湿度25℃以下(15℃以下が望ましい)
ハサミハサミの洗浄度ルミノメーター1000RLU以内
保管庫温度・湿度適正温度、10℃以下
滞留日数採花から出荷までの時間2日以内(直接市場出荷の場合は3日以内)
出荷前冷蔵冷蔵温度・時間3時間以上冷蔵
輸送時花持ち剤花持ち剤の使用(湿式)湿式輸送での適正な花持ち剤の使用
出荷所までの輸送温度直射日光に当てない(概ね1時間以上要する場合は5~15℃)
採花日記録採花日記録採花日の記録がされているか
お客様対応コミュニケーション商品の情報発信、評価の情報収集
 クレーム処理対応を含めて記録しているか
 栽培記録農薬・肥料使用量を記録しているか
出典:MPSジャパン「花き日持ち品質管理認証」

(2) 国際認証

  • MPS(花き産業総合認証、オランダ発)
     MPSは、世界44か国約4,000以上の参加者に広まっており、名実ともに世界トップレベルの花き認証である。日本では、2007年からMPSジャパンが導入し、国際認証として、MPS-ABC(環境認証)とMPS-GAPが利用可能で、約80軒がMPS-ABC認証を取得している。MPSはオランダ語の「Milieu Programma Sierteelt(ミリイュウ・プログラマ・シールティルト)」の頭文字を取った語で、意味は「花き産業環境プログラム」。MPSは1994年に生まれ、2004年に花き流通業のISOと呼ばれる認証システムFlorimarkと合体、さらに、グローバルG.A.P.のベンチマーク認証となり、環境認証プログラムの「MPS-ABC」を核に、鮮度・品質保証、顧客対応、トレーサビリティ、労働環境もカバーして、「花き産業総合認証」として、その認証の幅を広げてきた。  MPS-ABCでは、化学農薬・肥料やエネルギー、水資源の負荷低減への取り組みが評価され、認証される。 MPSは、認証取り組みによる環境負荷削減状況を数値化して生産者にフィードバックする一方、全体の定量データを定期的に発表している 。「MPS-MIND」という環境負荷インジケーターは、作物保護剤の有効成分量や物質特性(毒性、移動性、分解速度、生体内蓄積)、環境への分散の程度、人と環境への潜在的リスク因子を総合的に勘案して、負荷状況を算出するツールである。
     こうしたシステムにより、MPS生産者は、2012年から2016年の間に、潜在的な環境影響度を31%減少させることができた(n=2,074)。特に、高リスク薬剤の使用が激減したという。MPS本部のデータによれば、作物保護剤の面積当たり使用量は、トータルで14%の削減(2018年、2014年比)につながっている。特に、ネオニコチノイド系や有機リン系など重点的削減目標の農薬については、2016~2018年の3年間で35%の低減を記録した。
     MPS-GAPは、グローバルG.A.P.(花き・園芸植物)にベンチマークされている。MPS-ABCへの参加が、MPS-GAP取得の前提条件となる。GAPは、生産過程におけるIPM(Integrated Pest Management、総合的病害虫管理)を基本とした環境配慮、労働者の安全と公正な扱い、法令遵守および基本的な経営管理に関わる認証スキームである。
     MPSには、MPS-Q(品質認証)という花きの鮮度・品質および経営管理が一体化されたシステム認証もある。トレーサビリティ保証機能を備え、MPSのアドオン型のモジュールとして、単体でも取得可能な国際認証で、日本の日持ち認証の次のステップと位置付けることも可能である。

  • 社会認証
     MPSの他、海外では、主要生産国の認証やグローバルG.A.P.花き、フェアトレードなどさまざまなスキームがある。日本のように、日持ち品質のみというのは珍しい。
     社会認証(MPSではMPS-SQ)は、労働者の雇用や健康、安全管理や企業の社会的責任に関する認証である。社会認証は、通常、国際労働機関(ILO)協定をベースにしていることが多い。従業員による組合設立の権利、雇用上の差別や強制労働、児童労働の禁止、適正な賃金支払い、休暇や医療・住宅補助の実施、従業員の安全・健康対策や、農薬等危険物の取り扱い規定に関する義務遵守が求められる。労働者保護に関する法制度の水準や執行体制に課題を抱える新興国との取引にあたっては、社会認証は特に大きな意味を持つ。日本においても、法人経営が拡大し、外国人をはじめ外部からの労働者が増えれば、社会認証が担保しようとしている労働者保護の重みは増していく。

  • フェアトレード
     フェアトレードは、交渉力が弱くなりがちな生産者(特に新興国)と継続的な取引を行い、その農産物や商品を適正価格で購入し、生産者や労働者の生活条件の改善や環境保全を図るための枠組みである。コーヒーのような熱帯産品で普及しているが、花でもフェアトレード・インターナショナルなど国際認証団体が手掛けている。

  • 有機認証
     有機認証では、化学農薬・肥料を3年以上使わない等の条件を満たす必要がある。有機認証は歴史が長く、政府認証であることが多い。国際食品規格の基準や指針作成を司る国連コーデックス委員会を通じて、各国の基準間の国際的調整(同等性など)も早くから進んでいる 。日本では、有機は食品安全のための制度と受け止められがちだが、こうした理解は正確ではない。有機は、基本的には、環境負荷削減とともに、生物多様性の維持を含めた生態系の公益的機能増進を目標としている。
     日本では花の有機認証は稀で、観賞用よりも、エディブル・フラワーのような食品として取得されることがある。米国やEUの有機認証は観賞用の花きも含むが、流通実態としてはあまり広がっていないと思われる。

  • アドオン(付加型)単機能認証
     特定の環境、社会課題に関する規範は、メインの認証に付属するオプションのモジュールとして用意されている場合がある。たとえば、GRASP(GLOBALG.A.P. Risk Assessment on Social Practice)はグローバルG.A.P.のアドオンで、労働者の健康、安全、福祉を焦点にした農業生産企業の社会的責任に関わる基準である。
     MPS プロダクト・プルーフは、MPS-ABCのアドオン認証で、栽培過程において、ネオニコチノイド系農薬など特定の活性物質を使用していないことを、取引業者や小売に対して証明するシステムである。こうしたオプション認証は、小売で取引条件になることがある。

  • 規範
     企業行動や調達、労働、人権など特定領域における行動原則を規格化した規範も、広く採用されている。花きにおいては、倫理的貿易イニシアティブ(ETI)がその典型である。ETIは、ILO(国際労働機関)の基本条約を踏まえ、企業に労働規範の原則策定と実施を要求するもので、いわゆる認証ではない。量販チェーンなどがサプライチェーン上の企業に対して準拠を求める。ETIは、欧州や英国の量販で調達基準に包摂されているケースが多い。
     認証を取得したり規範を採用しても、さまざまな遵守事項が直ちに遂行されるわけではなく、認証や規範は必ずしも品質の担保にはならない。一方で、継続的なコミットメントにより、中長期的には管理の改善に向かう傾向がある。いずれにせよ、環境の保全や労働者の安全や権利が守られなければ、長期的に持続的な生産は難しい。そのため、以上の制度はサステナブル認証の大きな柱となっている。

4.世界の認証動向

(1) 世界の現状

 世界的に認証は氾濫しており、調整局面にある。社会環境認証には、さまざまなラベルがある。世界の花業界で採用されている主な国際認証としては、グローバルG.A.P.(花き)、サステナブル認証のMPS、Veriflora、KFC(ケニア・フラワーカウンシル)、FSF(コロンビア)、FLO(フェアトレード)、レインフォレスト・アライアンスなどが挙げられる。サステナビリティ推進と花き認証のベンチマークの枠組みとして、FSI2020が台頭している。


図表 世界各地の有力な花き認証

分類認証発祥設立組織特徴
GAPグローバルG.A.P.(花き・観賞植物)ドイツ2003FoodPLUS GmbHの認証枠組み 生産者対象グローバルG.A.P.の花き版 経営管理、労働環境、環境保全に関わる国際標準
環境、社会MPSオランダ1995生産者と市場サステナブル認証として花きの事実上の国際標準 欧米の大手量販でMPS取得が取引条件
環境、社会Veriflora米国2005北米生産者と小売主にShopKoホームセンターで扱い。認証機関のSCSが運営
環境、社会KFC(ケニア・フラワーカウンシル)ケニア1998ケニア花輸出業者の連合グローバルG.A.P.ベンチマーク、テスコ「Nature’s Choice」採用(2006)
環境、社会FSF(フロルベルデ・サステナブル花き認証)コロンビア1998Asocolflores、コロンビア花き生産者の連合グローバルG.A.P.ベンチマーク
フェアトレードFLO(フェアトレード・ラベル)オランダ他2006フェアトレード機関、生産者ネットワーク、NGO2006以前はマックス・ハベラーがFLP、MPSと組んで認証
環境、社会FLP(フラワー・ラベル・プログラム)ドイツ1996ドイツの輸入卸売業者、NGO、組合ICC(切花国際行動規範Internatilnal Code of Conduct for Cut flowers)に準拠。活動停止
環境、社会FFP(フェア・フラワーズ、フェア・プランツ)オランダ、ドイツ2005~2017UNION FLEURS(国際花き取引協会)、NGO、組合ICCとMPS-Aを元にした環境、社会ラベル。2017年末解散
環境、社会レインフォレスト・アライアンス 2001環境NGO生物多様性と生産者のサステナブルな生計のための認証
出典:青木(2019)。以下の資料を参考。ITC Standard Map およびRiisgaard, L. (2009) How the market for standards shapes competition in the market for goods: Sustainability standards in the cut flower industry. DIIS Working Paper 2009:07. Copenhagen: Danish Institute for International Studies.


  

(2) FSI 2020:花き産業サステナビリティ・イニシアティブ

 世界の花き産業における大きな組織的動向として、「FSI2020(花き産業サステナビリティ・イニシアティブ2020、The Floriculture Sustainability Initiative 2020、以下FSIと略)」に注視すべきである 。FSIは、「2020年までに、花きの90%を環境・社会に責任ある形で生産流通させる」ことを目標に、2012年に結成された民間組織(本部ベルギー)で、生産・輸入・卸流通・小売・資材企業、NGOなど、花き分野のステークホルダーの集合体である。FSIの活動は特に、労働環境改善(賃金、女性労働者、健康と安全)、IPM (Integrated Pest Management、総合的病害虫管理)による防除と農業用化学物質の削減、水利用、水質汚染対策、気候変動対策、CO2 排出削減に重点を置く。
 2019年3月現在、FSI参加メンバーは51企業・団体にのぼる。参加メンバーは、欧州、アフリカ、南米の生産者団体から、オランダを中心とした貿易団体、ダッチ・フラワー・グループやアールスメール花市場、ラボバンク、Union Fleursなど世界の花取引に影響力のある主要団体・企業、イケアやアホールド・デレーズ(傘下にアルバート・ハインなど)をはじめとする小売、IPMや温室栽培などの技術企業やクリザールのような資材会社、種苗会社、NGOやフェアトレード団体、主要な認証スキームの所有団体まで、花き業界のステークホルダーが幅広く加盟している。

 
図表 FSI参加メンバー

分類参加企業・団体
生産者Afri Flora(エチオピア・バラ生産)、Asocolflores(コロンビア花き輸出協会)、(オランダ 花き生産者協同組合)、Anthura(ラン・アンスリウム協会)、AIPH(国際園芸家協会)、Decorum(オランダ 花き生産者協同組合)、EHPEA(エチオピア園芸生産輸出業者組合)、Expoflores(エクアドル花き生産者・輸出業者協会)、Floriculture(ラン協会)、Holla Roses(エチオピア サステナブル フェアトレード バラ生産)、KFC(ケニア・フラワーカウンシル)、Salm Boskoop(ポルトガル、オランダ ラベンダー、植物生産販売)
貿易ADOMEX(葉物輸出)、Ancef(イタリア花き輸出入業者協会)、BGI(ドイツ花卸売・輸入貿易協会)、E den Dekker(オランダ 植物輸出入)、FleuraMetz(オランダ 花サプライヤー)、Pfitzer(オランダ 切花貿易)
卸・流通、総合ダッチ・フラワー・グループ、VGB(オランダ花き仲卸・買参者連盟)、Rabobank(オランダ 農業協同組合銀行)、Royal Flora Holland(オランダ アールスメール花市場)、Royal Lemkes(オランダ 園芸植物流通)、Tuinbrance Nederland(オランダ ガーデニング協会)、Union Fleurs(ベルギー花き国際取引促進協会)、VGB(オランダ花き仲卸・買参者連盟)
小売アホールド・デレーズ(オランダ)、アルディ(ドイツ、小売)、BRO(スウェーデン 花き小売)、eflorist(オランダ eコマース)、FLEUROP-INTERFLORA(スペイン 花小売・配送ネットワーク)、イケア、Pflanzen-Kölle(ドイツ 園芸植物生産、ガーデニングセンター)、toom(ドイツ REWEグループDIYストア)、Waterdrinker(オランダ 花き、園芸植物販売)
資材、技術、コンサルクリザール、Dudutech(ケニア IPM技術)、Flower Trade Consultant花き取引コンサルティング)、フラワーウオッチ(オランダ 花き日持ち品質管理技術)、Glastuinbouw(オランダ温室園芸技術)、Greenyard(ベルギー 生鮮青果・花き流通サービス)、Koppert(オランダ IPM農業技術)、Marginpar(オランダ アフリカ産花輸入)、Verdel(オランダ 花き小売卸売ソリューション)、Verdel(オランダ 花き小売卸売ソリューション)
認証グローバルG.A.P.、Max Havelaar(オランダ 国際フェアトレード認証)、MPS-SQ(オランダ ソーシャル認証)
種苗Dümmen Orange(育種、種苗)、Royal Van Zanten(オランダ 品種開発、栽培技術)、シンジェンタ(スイス 農薬、種子製造販売)
NGO、フェアトレードBSR +her project(女性社会進出促進)、Hivos(アジア、アフリカ、中南米 平等、サステナビリティNGO)、Partner Africa(英国 倫理的貿易)、WWF(世界自然保護基金、スイス 国際NGO)
注:FSIのメンバー情報を参照(2019年3月現在)。
出典:著者(青木)作成(2019)



 FSIの活動で特徴的なのは、花き産業のサステナビリティを高めるプロセスで、「FSI基準認証バスケット方式」を提案し、世界の主な花きの基準認証間のベンチマークを行っていることである。基準認証のハーモナイゼーションを促進し、調整を担う。また、SDGsで掲げられる労働環境改善や環境保全型生産を進めるうえでも、認証枠組みへの業界関連セクターの関与が核になっている。長期的戦略の決定に際しては、FSIが指針を明確化し、花の各認証スキームに対して指導的立場に立つ。バスケットには14の基準認証が選ばれ、それらを「環境」と「ソーシャル」のカテゴリーに分けたうえで、「環境」基準はグローバルG.A.P.花き・植物に、「ソーシャル」基準はGSCP(Global Social Compliance Program、グローバル・ソーシャル・コンプライアンス・プログラムのBレベルがリファレンス)にそれぞれベンチマークしている。各基準認証は、ベンチマーク基準と同等またはそれ以上の水準が要求される。
 ところで、次世代のバスケットには、2019年3月現在、USDAとEUの有機認証が含まれていない。有機認証は、GAPとのベンチマーキングができない(GAPには、有機では許されていない農薬等が含まれている)ためである。とはいえ、サステナビリティを推進しながら、有機が除外されれば不自然なので、FSIにおける有機の扱いは、これから討議されていくらしい。

 

図表 FSI基準認証バスケットと、FSI2020以後の新バスケット
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注:FSIのサイトをサイト参照(2019年3月現在)。
出典:著者(青木)作成(2019)



「90%」という目標は、FSIメンバーにおけるサステナブルな花きの取扱比率を90%(平均)にするということを意味している。「サステナブルな花き」とみなされるには、端的にはFSIバスケットの基準認証品であることが重要である。扱い比率は、FSIバスケットの認証品、FSIバスケット以外の認証品、非認証品、不明品の4区分で算出される。2018年段階で、FSI参加メンバーにおける平均目標達成率は60%に達した 。FSIメンバーの市場で、取扱量の多いフロラホランドの場合、達成率は本数ベースで花40%(2017年33%)、植物63%(2017年53%)である。トータルでは数量で40%、金額ベースで48%という結果である。目標の90%にはまだ及ばないものの、最近1年で急速に扱いシェアが伸びている 。その後、フロラホランドは、サプライヤーに対して、認証品の扱い要求をさらに強化している。  

 FSIバスケットは、2020年以後改訂され、「社会」「GAP」「環境」の3つのグループ構成になる。近い将来、認証の信頼性を担保する手段は、現行の監査とブラックリストのチェックに基づく方式に代わって、日常的・継続的な生産データによる管理に移行するという。環境負荷削減とサプライチェーンの透明化は、データ駆動型の認証システムによって担われることになる。FSIは今後、記録管理とGAP的手法に基づき、サステナビリティを深化していくものと考えられる。つまり、法令遵守をはじめとする農業規範や、記録管理とデータに基づく継続的な改善手法を推進しながら、本格的なIPM推進により、環境重視の生産管理システムを構築していくということである。

(3) 主な輸入国

 米国は、日本の花の最大の輸出先である。量販は、取引に際し、何らかのサステナブル調達規範や認証要求を設けている場合がある。基準認証の縛りは弱いが、国産推進認証の活動が活発化している。


 欧州は、世界の花き輸入の7割を占める。FSI2020は、欧州の花き卸売市場や企業、主要生産国組織、NGOなどのステークホルダーを広く糾合して立ち上げられたイニシアティブで、サステナブル認証が流通での取引条件になってきている。欧州市場では、取引先によっては、最低でもGAP、近い将来には「環境認証+GAP」の組み合わせが求められる。
 もともと花きでは、他の農産物貿易と比べて、米国やケアンズグループ(自由化を主張する豪州、アジア、南米などの生産国集団)の圧力がない。関税も低めである。また、欧州の市場シェアが高い。花は、開放度の高い自由競争市場でありながら、FSIの台頭に伴い、基準認証に関しては、強力な企業や業界の市場支配力に基づくデファクト・スタンダード(事実上の標準)ではなく、多国間枠組みや公的組織を包摂して市場のルールを構築する「デジュール・スタンダード」(公的世界標準)が席巻するというユニークな構図になっている。デジュール・スタンダードは、伝統的に欧州が得意とする競争戦略である。欧州の花き貿易では、サステナブル認証を軸にデジュール・スタンダードが構築されている。花きの基準認証制度対応が遅れている日本にとっては、これが実質的な参入障壁として働く。


 中国はこれからの市場だが、新興のスタートアップが斬新なビジネスモデルを打ち出している。「FlowerPlus」(花加)は2015年創業の上海の花オンライン販売企業で、旬の花をサブスクリプション(定期購入)モデルで販売する、「情報流~物流~資本流」の統合的経営を身上とする、花業界におけるシリコンバレー型のテック系スタートアップである。自社大型貯蔵基地、加工場を持ち、摘み取り~納品まで、32の品質管理工程を設定している。こうした新しいネット企業は、ITやAI技術を統合した独自の生販直結型物流システムと品質規格を構築し始めている。
 香港、シンガポールは障壁が低いが、認証への評価は不明である。ロシアには日持ち保証販売はあるが、認証ニーズは見通せない。

(4) 主な生産国

 花きの貿易構造を分析すると、上位輸出国5か国(コロンビア、エクアドル、ケニア、エチオピア、オランダ)の輸出シェアは8割を超える。南米やアフリカの主要生産国は、自国輸出に占める花き輸出の比率が大きく、高位の比較優位を有し、生産や品質管理水準を上げてきている。環境・社会認証取得が進んでおり、労働安全や環境負荷削減においてある程度の効果は見られたものの、まだ改善余地も多い。上位の生産国は、次のステップとして、自国ブランド化や、先進国市場依存からの脱却を模索している。一方、負担感から、認証をやめる生産者も出ている。
 

  • コロンビア
     米国では、輸入花きの6割がコロンビア産である。コロンビアのフロルベルデのFSF(Florverde Sustainable Flowers)は、 FSI2020の認証バスケットにも入っている。FSF認証の花は、クローガーなど量販調達規範に対応している。2018年のコロンビアの花き輸出のうち、本数ベースで39%(9万4224トン)、金額ベースで38%は、FSF認証品である。FSF認証を取得した生産者や花束加工業者は、規定により、栽培または取引する花き全量のうち、最低でも70%をFSF認証品にしなればならない。認証基準には、環境・社会分野の要求事項の他、収穫後の鮮度管理と経営管理も含まれる。
    コロンビア花き生産の8割を占めるボゴタ周辺自治体を対象としたコロンビア政府統計局の報告書によると、調査時点の2009年で、花き農場 認証取得または取得に向けて準備中の農場は全体の76.8%で、ほとんどが国際認証である(図表Ⅳ-41)。FSFは当時すでに、24.2%が取得済、準備中も含めると40.8%に広がっていた。
    FSF認証は、地下水の使用の削減、労働者の衛生安全環境改善、労働者の地位向上、労働組合結成の権利などのポジティブな変化をもたらしたと言われる。

図表 コロンビアの花き農場 認証取得・準備中の農場数(2009年)

基準認証取得済(軒)準備中(軒)取得済・準備中 計(軒)取得・準備中農場の比率 (%)
フロルベルデ(FSF)1278721440.8%
グローバルG.A.P.44115510.5%
ETI(倫理的貿易イニシアティブ)1512275.1%
レインフォレスト・アライアンス835513826.3%
ISO286346.5%
EUREPGAP(当時)73101.9%
その他882411221.3%
いずれか認証取得・準備中 計  40376.8%
認証なし・取得準備なし  12223.2%
花き農場 合計  525100.0%
注:ボゴタ周辺28自治体の調査(サバナ・デ・ボゴタ、クンディナマルカ)
出典:著者作成(2019)。データは以下。Departamento Administrativo Nacional de Estadística (DANE), Colombia (2010). Informe de Resultados: Censo de Fincas Productoras de Flores en 28 Municipios de la Sabana de Bogotá y Cundinamarca. 2009.



  • ケニア
     ケニアからの輸出先はオランダが48%で突出、次いで英国9.7%、ドイツとロシアがともに7.5%を占め、欧州の比率が高い(2016年、生鮮切花)。ケニア・フラワーカウンシル(KFC、ケニア花き園芸協会)はケニアの花き業界を代表する団体で、1996年に設立され20年以上の歴史がある。KFCは、ヨーロッパの政府、自国企業、量販が組み、が組み、援助スキームを介してケニアの花き産業を近代化し、小農を先進国のサプライチェーンに組み込んでいく一連の動きの中で、現地パートナーとしての役割を果たしてきた。現在、KFCの認証はFSIバスケットに参加し、花き産業サステナブル化の動きの一翼を担う。ケニアの目標は、欧州以外への輸出先多様化、直販ルートの開拓、そして「ケニア産」ブランドの確立で、米国や中国は、ケニアにとっての重要ターゲット市場である。
     EUは環境保全のためIPMの要求が高く、割高な減農薬資材の使用を求められるうえ、検疫も強化されてきたため、ケニアの生産者の間では、サステナブル認証に負担感が強まっているという指摘がある。ケニアに限らず、アフリカやラテンアメリカの生産国の農場は、買手の取引条件を満たすため、複数の認証への対応を余儀なくされている。反動として認証を見直す動きがあり、一部の生産者は認証から離脱した 。一般に、フェアトレードでも、生産者へのプレミアム価格支払いの実現が思惑通り進まず、同じような問題が浮上している。

(5) オランダの基準認証戦略

 オランダは、世界の花き貿易のハブである。生鮮切り花の輸出額は 34億ドル(2016年)で、世界(76億ドル)の44%を占める。オランダは、花き貿易のハブの地位を梃子に、種苗~知財~援助・国際政策~小売の調達活動を有機的に結合し、サプライチェーンの各段階に基準認証スキームを有効にはめ込みながら、独自の強みを築いてきた。新興国の生産者に対しては、援助を通じて認証スキームの要求事項遂行能力の向上を図りつつ、欧州の購買力を背景に、彼らを世界の花市場の構造に組み込んだ。オランダは、世界の花市場において、利用しうる資源を有機的に結合しつつ、積極的にルール・メーカーとなることで、他の追随を許さない地位を築こうとしている。認証スキームは、彼らがルールを組み立てた花き取引のプラットフォームにおいて、中核的なカードとして機能している。サステナビリティをを軸にした基準認証戦略と、新しいビジネスモデルの構築能力において、オランダは卓越した強みを持つ。同国の戦略を整理する。

  • 標準化: 基準、プロトコル、規定
     オランダでは、VBN(オランダ花き市場協会)が中心になり、日持ち試験をはじめとして、花きの品質試験の標準化を担ってきた。VBNの基準は花き業界で権威を持つ。
    国際標準戦略の観点からは、オランダは、種苗開発~生産~検疫・知財~援助・国際政策~マーケティングという花き産業の川上~川下の流れにおいて、各段階で基準認証スキームが有効にはめ込まれ、有機的に結合しているところに独自の強みを持つ。現在、花きにおける基準認証は、環境・社会分野を中心にサステナビリティに関する認証が標準になっている。花きの分野において、世界の認証はオランダのMPSをはじめとしてサステナビリティを軸としたスキームが主流となり、現在のFSIバスケットに至るベースが築かれていった。FSIの本部はベルギーだが、メンバー会員にはオランダ系の企業が多く、事務局トップもオランダ人である。新興国間の花き貿易の規模はまだ小さく、現状では、花き流通のゲームのルールを決めるイニシアティブはオランダが掌握している。

  • サプライチェーン川上からの品質管理システム
     サプライチェーンの上流の種苗段階から品質管理の仕組みが確立されており、知財管理と連動していることも、オランダの花き貿易システムの強靭さを下支えする強みである。オランダでは、親株段階の公的品質工程管理認証の整備が進んでいる。生産段階以降はGAP、MPSなどの標準・認証があり、品質を担保する制度的インフラが、サプライチェーンを通じて、ほぼ切れ目なく、重層的につながっている。Naktuinbouw(オランダ園芸検査機関)は、花きの公的な品質管理インフラとして世界的に稀有な重要性を持つ。繁殖材料(種子および植栽材料)段階から切り花や植物の健康を試験し、花きの無病の苗・親株素材の工程管理に基づく品質管理認証は、Elite Certificeringと呼ばれる。この認証は、MPS参加の種苗会社でも、MPSと併せて取得されている。種子生産における公認圃場検査規格も利用できる。 また、MPS-GAPでは、繁殖素材は原則としてMPS-ABC、MPS-GAPまたはグローバルG.A.P.およびそれらと同等性が認められる認証品に限られる。
    オランダでは、生産段階以降はGAP、MPSなどの基準認証が整備され、サプライチェーンを通じて多元的な品質管理制度が揃う。このため、品質の信頼性を他の段階に繋ぐ仕組みが、ほぼ切れ目なく重層的につながっている。

  • 開発援助を通じ、新興国における認証遂行体制構築
     オランダは、開発途上国向けに輸入促進センターを作り、マーケット情報、研修などの支援を行ってきた。援助活動を梃に、新興国の生産者や輸出関連企業の能力開発を進め、認証要求事項の遂行体制を整備し、オランダが主導権を持って進める生産・流通のフレームワークに取り込む仕組みを着々と築いてきた。

  • 認証と国際政策・組織との一体化
     オランダでは、政府の開発援助を通じた新興国の花き生産者の組織化や、IDH(持続可能な貿易イニシアティブ)、国連SDGs(持続可能な開発目標)など、政府・国際組織との連携が進む。FSIも参加するIDHのイニシアティブはオランダ政府が牽引し、花きや熱帯産品を中心に、サプライチェーンにリスク要因を抱えるコモディティについて、分野ごとにNGOや業界団体、生産者、流通業者、メーカーなど主要なステークホルダーを糾合し、持続的な貿易体制の構築に向けて、数値目標を掲げて取り組む。全体としては、「2020年までに、持続可能な方法で生産された生産物の輸入を25%増やす」ことを目標としている。
     オランダ政府社会経済審議会(SER)は、OECDデュー・ディリジェンスに準じ、サプライチェーンでの環境や人権保護の枠組みを作っている。SERの花き部会の議長は、FSIのユルン・アウトフースデン事務局長である。花き生産者、労働組合、市民社会組織、フロラホランド、MPSに、農業省、外務省も加わって、2019年に協定を締結して、企業や組織には国際法を守り尊重し良いビジネスを行う責任が、政府には市民の環境を尊重し、保護する責任が生じる。

  • 認証と市場のリンク:大手流通企業の取引条件化
     MPSをはじめとする国際的な基準認証は、大手流通企業の取引条件になっている。
     取引先や業界、他者の評価は、認証の取得を促す主要な要因の一つである。筆者が実施した生産者調査では、認証取得を検討する条件として、生産者は「取引条件として求められることが増える」こと(67.1%)を最も重視している。

図表 花き認証を要求する欧州量販 例

名称国(本部)業 態要求認証
アルバートハイン(アホールド)オランダスーパーMPS-A + GAP + SQ
アルディドイツ、オランダ、ベルギースーパーMPS-A or GLOBAL.G.A.P.+ MPS-SQ. MPSフロリマーク(流通)
Blume 2000ドイツ花店チェーンMPS-A + MPS-GAP または MPS-SQ
イケアスウェーデンDIYMPS-A or B + MPS-GAP + MPS-SQ
イントラタウンオランダガーデンセンターMPS-ABCまたはGAP、MPS Product proof
ユンボオランダスーパーMPS-A/B+ GAP+ SQまたは Milieukeur(エコラベル)、MPSフロリマークGTP(流通)
メトロ/リアルドイツハイパーMPS-ABC + GAP + SQ 、MPSフロリマークGTP(流通)
ネット/エデカドイツスーパーGAP + GRASP(社会的責任リスク評価) または SQ
Pflanze-KölleドイツガーデンセンターMPS-ABC または GAP
PlantagenスウェーデンガーデンセンターMPS-ABC
PraxisオランダDIYMPS-A + GAP
レーベグループ(レーベ、ペニー、Toom)ドイツスーパー/DIYMPS-A、MPS-SQ、GLOBAL G.A.Pまたは GRASP、MPSフロリマークGTP(流通)
トリュフォーフランスガーデンセンターMPS-ABC または Plantes Bleu
TuinbrancheオランダガーデンセンターMPS-ABC、MPS Product proof
注:MPS Product proofはMPS-ABCのアドオン認証で、ネオニコチノイド系農薬など特定の物質が花きや栽培製品に含まれていないことを、取引業者や小売に対して証明するシステム。GRASP(GLOBALG.A.P. Risk Assessment on Social Practice)はグローバルG.A.P.のアドオン認証で、労働者の健康、安全、福祉を焦点にした農業生産企業の社会的責任の基準。
出典:MPS本部(オランダ)資料(2018)

5.課題と展望

(1) 制度設計上の課題

 日本の花き認証は全体ビジョンに欠け、海外展開には考慮すべき課題が山積している。
 制度上の課題の第一は、JASを含めた3つの日持ち品質管理認証の並存である。部分的には、日持ちと経営管理を統合した国際認証MPS-Qとも重複する。混乱回避のため、位置付けを明確化すべきである(例:リレーフレッシュネスと日持ちさんを花のJASのエントリー認証と位置付け)。
 Harbaugh, et al.(2011)によれば、基準の異なるラベルが並存すると、実際以上に良いように表示することができるため、消費者(需要者)にとってはラベルが疑わしいと受け止められ、不確実性が増す。マイナスの側面は、ラベルが広まり、ラベル付きとラベル無しの製品が混在すると、ますます不確実性が高まり、ラベルの情報価値が減衰してしまう(Harbaugh, R., Maxwell, J. W., & Roussillon, B. (2011). Label confusion: The Groucho effect of uncertain standards. Management Science, 57(9), 1512-1527.)。この議論を敷衍し、花きにとっても有効な対応策を考えると、まずなすべきことは、認証全体のスペクトラムの中で、中心になる1つの認証を「フォーカス」=参照点にして、そこに情報の受け手の視点を誘導することである。フォーカスになるのは、必ずしも最高の基準でなくてもよいが、企業が当然とるべきと期待される「単一の」基準でなければならない。農業生産上の規範領域をバランスよくカバーしているGAPが、花き認証全体の中核となる認証であるべきということになるだろう。認証にゴールド、シルバーなどグレードを付け、上下関係を明確化することも推奨される 。花きでも、KFCなどでこの手法は導入されている。


 第二に、サプライチェーン上、川上(植物素材)~生産の品質管理スキームが事実上欠けている。


 第三に、世界の主流であるサステナビリティ対応とGAPについては国際認証のMPSのスキームが利用可能であるが、普及していない。団体認証を備えた国内GAPがなく、GAP取得のハードルが高い。そのため、「法令遵守」、「経営」、「環境」、「労働安全」に関わる「品質」の信頼性を、取引先や第三者に対し、客観的に提示できない。


 第四に、GAPが実質的に空白であるため、花の認証全体が、焦点のないアンバランスな構造になっている。

図表 日本と世界の花き認証 課題領域のカバー状況
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注:日本では、MPS-GAP(国際認証・審査員海外)、フェアトレード、有機の花もあるが、いずれもまだほとんど普及していない。MPSは国際認証のため、「世界」に分類。
出典:著者(青木)作成(2019)



 輸出では、現実的対応策として、モジュール型の認証活用が考えられる。国際認証の環境・社会認証やGAPを採用し、JASは日持ち品質特化型政府認証としてアドオン的に用い、日本独自のトータルな付加価値提案につなげる。認証取得のインセンティブや教育、普及支援制度も必要である。
 取引先や業界、他者の評価は、認証の取得を促す主要な要因の一つである。MPSジャパンが実施した生産者調査では、認証取得を検討する条件として、生産者は「取引条件として求められることが増える」こと(67.1%)を最も重視している。
 輸出に認証を用いる場合、日本独自の付加価値提案としての体系が考えられる。つまり、国際認証の環境・社会認証やGAPをベースとし、JASは日持ち品質特化型政府認証として位置付け、アドオンとしてトータル的な付加価値提案につなげる方法である。

図表 花き認証取得の検討条件(日本の花き生産者、n=149)

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注:2018年度農林水産省日持ち向上対策実証事業の一環として、「花き日持ち性向上対策推進セミナー」(全国9か所)の参加者を対象にアンケートを実施し、品質管理の実態や花の認証の認知度、評価、支払意思額を調査した。回答者数は149名。
出典:著者(青木)作成(2019)。MPSジャパン(2019)『平成30年度農林水産省日持ち向上対策実証事業 花のJAS受容可能性調査 日持ち品質管理とJAS認証受容性 生産者~消費者調査結果』2019年3月。


(2) マーケティングとコミュニケーションの課題

 サプライチェーンの各段階で認証のインフラを整備した後は、認証品が最終需要者まで「認証品」として流通し、その価値(バリュー)が伝達されるマーケティングの仕組みを作ることが望ましい。
 認証品の流通において、サプライチェーンをバリューチェーンとして機能させるには、何が必要か。
 それには第一に、段階別認証インフラの存在が前提になるだろう。民間認証のリレーフレッシュネスでは、生産者、市場、小売それぞれの段階での認証制度が運用されている。生産者段階では収穫後管理の規定があり、市場や加工等の流通、輸送、小売では、それぞれの業務内容に応じた要求事項が定められている。こうして、全体として、認証が実現しようとする「日持ち性」の品質を、サプライチェーンの流れに沿って同じ目線で「リレー」するコンセプトで運用されている。
 MPSでは、サプライチェーンのさらに上に遡り、苗や資材の段階から生産、市場、流通まで認証システムが連続的に機能している。市場や加工など流通段階ではMPS-GPAやフロリマークGTP/Trace Certがあり、ISO9001に準じた経営管理システムとしても機能している。より踏み込んだ制度として、グローバルG.A.P.やFSC(森林)、MC(水産物)などの認証では、生産の後の段階で、CoC(Chain of Custody)と呼ばれるシステムがあり、認証生産物が加工・流通段階でも適切に管理され、非認証原料の混入やラベルの偽装がないことを認証している。


 第二に、「商品」にフォーカスした流通システムを考えるべきである。認証品が、流通過程を通して認証品として扱われ、最終需要者にまで確実に届く仕組みがあることが望ましい。認証品が常時店頭にあり、顧客にブランドとして認識され、評価されていくことは、生産者のモチベーション向上にも資する。有機や非遺伝子組み換え品などでは、IP (Identity Preserved)ハンドリング(分別生産流通管理)のシステムがある。IP農産物は、種子の段階から生産~加工~流通に至る全過程を通じて、慣行品とは別に分別管理され、段階ごとの証明文書が義務付けられており、認証品の価値とアイデンティティが確実に最終段階にまで伝えられる。サプライチェーンにおける価値連鎖のメカニズムが機能しなければ、生産から流通過程(B2B)あるいは小売店頭(B2C)を通じての生産情報の伝達や共有が難しくなり、消費者への認知も進まない。農畜産物の「生産情報公表 JAS規格」 は使用農薬や肥料の情報公表に関する第三者認証だが、生産段階で JAS 認証品であっても、流通段階でJAS認証業者が足りないと、結局は認証品としての流通が困難になり、付加価値が実現できないという指摘がなされていた(今井、四方、2010) 。生産者が認証に取り組んでも、流通、小売段階で識別され、区別されて扱われなければ、生産者の意欲を削ぐ。

 

図表 認証品の品質目標を川上~川下まで伝達する仕組み(IP農産物 vs 日本の花き認証)
● 有機(IP農産物)の場合
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● 比較:花の日持ち品質管理認証(日本)の場合
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注:日本では、MPS-GAP(国際認証・審査員海外)、フェアトレード、有機の花もあるが、いずれもまだほとんど普及していない。MPSは国際認証のため、「世界」に分類。
出典:著者(青木)作成(2019)


(3) 技術進歩への対応

 サプライチェーン管理技術は日々進歩している。認証でもデータによる裏付けの重要性が増す。認証における信頼性担保の主要な手段は、従来、監査が中心だったが、今後はデータ活用の比重が高まっていく。日本の花き業界、特に生産においては、認証取得はおろか、認証という仕組み自体、理解が進んでいない。記録管理は、認証取り組みの基本は記録管理に基づく改善で、それが実施されなければデータ活用は難しく、経営改善やサプライチェーンの透明性確保に疑問符が付く。ITによる省力化も進まない。こうした状況が続くことは、外の社会で起こるイノベーションの、農業分野への波及を妨げうる。
 著者が実施した日持ち品質管理に関する生産者調査の結果は、花き生産において、記録管理やデータ活用は進んでおらず、IT化も遅れていることを示唆している。農薬肥料管理や苦情処理のように、義務あるいは必要性が高い項目ではある程度記録されているが、それ以外のほとんどの項目で、活用はおろか記録・保存さえままならない。記録が保存されなければ、比較可能なデータがなく、継続的な経営改善の前提条件を欠く。  

図表 日本の花き生産 記録管理の状況 (n=45)
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出典:著者(青木)作成(2019)。MPSジャパン(2019)『平成30年度農林水産省日持ち向上対策実証事業 花のJAS受容可能性調査 日持ち品質管理とJAS認証受容性 生産者~消費者調査結果』2019年3月より引用。



 品質管理に関わる考え方やアプローチは、急速に変貌している。サプライチェーンの透明性や製品の統合性に関わるテクノロジーは、農産物の世界にも導入されていく。これは、今までの認証のあり方にも影響を与えるだろう。かつて、花きの国際流通において、STSと低温流通による品質管理技術の発展は適地栽培と遠距離貿易を利し、政策の変化を追い風にして、世紀の変わり目を分水嶺に、業界地図を塗り替えた。技術やイノベーションは、既存の生産流通のパラダイムと構造を根本から変容させかねない起爆力を秘めている。
 今後、農産物の認証制度にインパクトを与えうる技術革新の一つが、サプライチェーン上のデータ共有による管理である。大手流通企業では、入庫品を確認し、その内容や成分、表示が真正かどうかを検査し、調達上のリスク分析を行い、管理を可視化する整合性監査システムの開発や導入が始まっている。鮮度指標やセンサー技術研究と併せたリアルタイム鮮度評価計測法や、残留農薬や病原菌の検出技術も進歩している。輸出先によっては、日持ち品質管理認証であれ、環境認証であれ、認証の主張する品質内容と、店頭の商品現物の品質が整合しているかどうか、統合性試験やデータで真偽が問われるようになりつつある。
 国際環境NGOのFoE(フレンズ・オブ・ジ・アース)やグリーンピースは、ミツバチの集団死との関連が疑われるネオニコチノイド系の農薬使用に反対し、消費者へのPR活動を継続的に展開し、不買などのアクションを取ることを呼び掛けている。こうしたNGOは、主要な花き園芸品店を回っては植物を購入し、残留農薬成分の分析を行い、結果を公表する。欧州グリーンピース(アムステルダム)の2014年のレポート「A Toxic Eden(有毒なエデンの園)」には、ミツバチに害のある残留農薬検出植物を販売していた小売チェーンとして、イントラトゥインやObiのような大手花き園芸品店がリストに名を連ねた。ユンボ、Toomなど、現在のFSIのメンバーや、FSIと緊密な協力関係にあるミグロのような小売の名も掲げられた。こうした残留農薬分析には、QuEChERS(キャッチャーズ=Quick,Easy,Cheap,Effective,Rugged,Safe)前処理法が用いられている。簡便な多成分同時分析方法の普及は、FSIが環境対応とサプライチェーンの透明化を推進する背景要因の一つになっている。
 花きでも、病害等の検出技術の開発が進む。オランダの花き園芸植物の品質管理や検疫技術を管轄するNaktuinbouwは、DNA技術の研究開発に力を入れており、繁殖素材の品種純度や品種同定、植物の病原菌感染および無病徴の状態での病原体の発見を目指して、投資を続けている 。花きは品種が多く、この研究開発は技術的にも投資対効果の点でも実用化はまだ遠いとされているが、長期的には、こうした技術が検疫や輸出入関連の現場で応用される可能性は否定できない。


 農産品の品質は、工程管理で担保される時代が続いたが、一連の技術革新の延長線上で、実物モニタリング(必要に応じて、それが実施可能な能力)で工程管理の質が問われる事態が現実になるかもしれない。つまり、認証の目指す品質(日持ち性など)が、商品現物において実現されているかどうか、管理技術とデータによるエビデンスが問われるケースが出てくると予想される。 技術の進化により、将来的には、表示の真偽とともに、認証スキーム自体の信頼性や存在意義が試されることになる。このことは、新技術導入のコスト負担が可能な大手流通企業が情報優位に立ち、生産者や取引先との間で力の不均衡が拡大しかねない懸念もはらむ。  

 さらに、花きの国際認証でも、データとエビデンスに基づく科学的な認証システムへの移行が進んでいる。MPSは、花き産業をサステナブルにするというミッションの核ととして、「透明性」「独立性」とともに、「測定可能性」を重視している。MPSオランダ本部は、データに基づく総合的アプローチを可能にする研究開発に積極的に投資している。MPSの環境負荷削減システム(MPS-MIND)では、作物保護剤等については、毒性、残留性、移動性を考慮した化学的特性およびロケーション要因(地表水への距離、地下水の深さ、土地の傾斜=流出、有機物質の含有量、被覆植物、灌漑水の再循環)をパラメーター化して、リスクが定量的に算出される。毒性に関しては、人間・哺乳類(急性・慢性)、鳥類、水性および土壌生物、共生菌や益虫に対する影響を元に判定し、影響度をグレード化し、削減に取り組んでいる。フィプロニル(蜜蜂の蜂群崩壊症候群との因果関係が疑われている)や、ネオニコチノイド系、有機リン系を中心とする農薬は重点的削減対象とされ、2018年には、MPS全体で35%の削減(2016年比)に結びつけている。作物保護剤の重量とリスク因子係数を元に数値化される環境インジケーターでも、環境負荷低減の傾向が認められている。


 LCA(ライフサイクル・アセスメント)による環境負荷の定量評価も、認証の新しいテーマである。LCAは、生産方法や輸送手段、廃棄やリサイクル状況まで含め、総合的な負荷の定量化ツールとして、広く普及している。個別の製品やサービスについて、原料採取~生産~加工~輸送~流通~消費~廃棄・リサイクルに至る各段階で、環境負荷量の算出基準が定められている。MPSやコロンビアのFSFのような国際認証スキームのオーナーは、花き産業におけるLCA(ライフサイクル・アセスメント)計測の研究開発投資を行ってきた。現在は、花の生産者ごとにライフサイクルの各段階での環境負荷を定量評価し、結果を可視化するシステム構築が進められている。FSFは、認証の中で、土壌の炭素貯留機能促進など気候変動対策もカバーしている。
 FSIは2020年以降、記録管理と法令遵守の方向を強化しながら、IPMを核として環境対応を一層前進させる方針であるとされる。PM移行の鍵は、データ駆動型の認証方式である。FSIによれば、スポット的な確認にすぎない監査や、禁止農薬等のブラックリスト照合に頼った認証方式には限界があるため、生産現場から日々生成されるデータをチェックしながら、継続的な改善を進めつつ、透明性を確保するという。

(4) 国内における競争力基盤:団体認証活用による職業教育+組織マネジメント

 輸出以前の課題として、輸入品や花に替わりうる他の商品・サービスに淘汰されないよう、国内の競争力基盤強化=経営体の知識とスキル向上を図らなければならない。
 世界の農業の大半は、家族経営の小規模農家によって担われている。一方で、現状では、認証に取り組むのは、比較的規模の大きな生産者や輸出志向のある企業に偏りやすい。各国の花き栽培面積・経営体数を元に試算したところ、日本の花き生産者の生産規模は1経営体当たり平均0.5haで(法人経営では1.9ha)、世界平均の2.17haより小さい(図表Ⅴ-7、Ⅴ-8)。対照的に、コロンビアの主要産地では、1経営体当たりの栽培面積は9.3haと日本の平均と比べて19倍広く、認証取得・取得準備中農場の比率(2009年当時)は8割近い。

  図表 国別 1経営体当たり栽培面積(花き園芸植物)

国・地域面積(ha)経営体数(軒数)1経営体当たり栽培面積(ha)
ドイツ6,5883,6681.80
オランダ6,7003,1302.14
エチオピア1,695--
ケニア4,309--
オーストラリア4,2965797.42
中国181,84080,8682.25
日本27,50554,8300.50
米国29,40726,8841.09z
コロンビア4,9055259.34
世界 合計650,000300,0002.17
注:世界合計はAIPH(2018)。コロンビア、日本は政府統計から著者試算。欧州、中国2017年、オーストラリア、日本2015年、米国2012年、コロンビア2009年主要産地、日本は花き・花木計。
出典:各統計から著者(青木)作成(2019)。AIPH&Union Fleurs.. International Statistics Flowers and Plants 2019.日本は農林水産省『農業センサス2015』、コロンビア国家統計局(DANE). Censo de Fincas Productoras de Flores. 2009”.


  

図表 日本 花き・花木の栽培面積と経営体数(2015年)

区分経営体数(軒数)栽培面積 (ha)1経営体当たり栽培面積(ha)
栽培経営体54,83027,5050.50
法人経営体2,1364,0621.90
法人以外の経営体52,69423,4430.44
注:栽培面積は、露地、施設合計。
出典:著者(青木)作成(2019)。元データは農林水産省(2016)『2015年農林業センサス』



 小規模農家の立場からすれば、認証の要求事項は、必ずしも家族経営の農場の経営実態に即していない面がある。また、認証に伴うコストや事務処理の負担が相対的に大きい。日本の花き生産者の過半数は、販売金額規模300万円以下で、1億円以上は0.7%に過ぎない。そうは言っても、コンスタントな品質向上や環境負荷削減、法令遵守や経営改善を図る何らかのスキームに家族農業が包摂されなければ、業界全体での改善は進まない。小規模経営者が、取引先や市場の需要に応じた品質管理手法やスキルを継続的にアップデートすることを支援する仕組みがなければ、長期的に生産性を上げていくことは難しい。
 業界では花きの国産化推進がうたわれているが、それには、すでに国内で一定の管理水準が維持され、機能していることが前提となるべきである。英国でも国産の花の復活の兆候があり、全国的な農業者の連合であるNFU(National Farmers’ Union)が、花や野菜、オーガニック、畜産を含む部門横断的な国産品推進キャンペーンを掲げ、スーパーに対し、国産品調達率をあげるよう要請している。ただ、英国はGAP発祥の地であり、日本とは背景が異なる。NFUは、環境・食糧・農村地域省と組んで、英国におけるGAPにあたるレッドトラクター認証を推進してきた母体である。
 翻って日本の花きの場合は、環境配慮型農法が普及しておらず、認証の歴史も浅い。花き業界関係者によれば、日本では過剰施肥や大品目の連作に起因する障害で土壌が劣化しており、生産の持続性に関する懸念が広がっているという。また、禁止農薬の土壌残留や使用に対するチェック体制も、徹底されていない。失効農薬や禁止農薬についても、認識や確認が曖昧なために、管理不備で使用されていることがある。たとえば、環境中で分解されにくく、生物の体内で蓄積濃縮されやすい化学物質であるPOPs(Persistent Organic Pollutants、残留性有機汚染物質)は、国際条約で製造・使用・輸出入が原則禁じられているが、日本の花き農家の土壌から残留が検出されることがある。
 POPs以外にも、失効・禁止農薬の使用事故は、花き生産者の間で時折発覚している。海外で廃止または厳しく規制されている強力な土壌燻蒸剤(野菜、果樹、花き用)も、曝露防止のための資材や使用方法は生産者任せになっており、農家や周辺住民への健康被害を防止できていない 。禁止農薬が見つかるのは問題だが、見つからないのはチェックの体制がないからとも解釈しうる。このような状態では、高度な栽培技術でいかに美しい花を作ったとしても、総合的に見て「高品質」とは言えなくなる。認証に参加していれば、日常的な取り組みや審査、土壌分析を通じて、こうした不備へのチェック体制があり、対策や改善が可能だが、日本の花き生産においては、認証は普及していない。


 法人経営では、環境対応や外国人を含む労働者尊重の担保のため、認証を活用すべきである。家族農業や小規模経営体にとってメリットのある品質管理スキームの普及には、現段階では、既存組織の漸進的改革の中で、団体認証を活用することが有望な選択肢であると考えられる。

 団体認証は、生産者やスタッフに対しては継続的な職業教育手段として、JAや小売などの経営体にとっては組織マネジメントのツールとして機能しうる。生産者にとっては、農業分野での知識や経験だけでなく、ITや経営上の知識やスキルセットが必要になる時代が近づく。そうした知識は、市場の需要やビジネス環境の変化を取り込み、アップデートしていかなければならない。また、団体認証によりサプライチェーン貫通型の認証スキームに取り組む場合、川上から川下まで、他の段階のプレーヤーと共通の概念や目標を共有でき、対話のベースになるという効果もある。
 団体認証の事務局、つまりJAや同業者グループの側から見れば、団体認証は組織のリエンジニアリングのツールとしても利用できる。参加メンバーの構成やコミットメントの度合、産地としての指向性に応じて、リーダーシップを強めたり、逆に自由度の高い組織にするようデザインすることもできる。実際、JGAPでは、団体事務局が高齢農家や兼業農家等を束ね、負担を軽減しつつ、GAPを組織管理に生かしている 競争力の本質的な源泉は、むしろソフト面のイノベーションとその伝播にある。認証は、国内における花き産業全体の経営の質の底上げという、重要な役割を担うインフラである。

図表 日本 販売金額規模別 生産者の割合

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出典:著者(青木)作成(2019)。元データは農林水産省(2016)『2015年農林業センサス』


(5) 中長期的ビジョン

 先進国では、企業投資における無形資産の比重が上昇傾向にある。これは、本質的な付加価値創出の源泉が、製品および生産設備や不動産のような有形資産をベースにした経済から、知財や情報技術、ブランドなど無形資産経済に移りつつあることを示唆している。このことは、現在、世界株式時価総額において上位に立つのがアップル、グーグルなど、ITの無形資産を核にハードやサービスとの結合に成功した企業群であることを思い起こせば、直観的に理解しやすいだろう。
 農業に敷衍して考えると、新たな付加価値を生んでいくイノベーションの源泉は、育種、種苗、生産に関わる研究開発と技術革新、マーケティング、リテール技術、ブランディングおよびこれらの改革に関わる広義のビジネスシステムのデザインであると推測できる。本書のテーマである認証との関連では、組織改革や、意識や技術向上のための教育研修、および生産物や生産流通プロセスの信頼性を担保するスキームが、無形資産に包含される。無形資産のイノベーションを、多くのステークホルダーが関わる既存のリアルな産業の再定義にどう結び付けるかにどう結びつけるが、その産業の未来を形作る生命線となっていく。この課題に対して認証制度が特に重要性を持つのは、教育・学習およびネットワーク上の信頼担保の領域だろう。技術や社会構造の変化ペースが加速する一方、寿命の伸びに伴い就労年数も長期化していく世界において、競争力の要は継続性のある職業教育と学習である。農業とその周辺領域においても、不確実性に対処し、イノベーションを吸収する素地を養い、変化に対応した知識ベースの継続的更新を可能にするインフラの重要性が増すであろうことは、想像に難くない。認証は、そのピースの一つである。
 信頼は、開かれた社会における公共財である。認証とは、社会関係を開き、外部の取引相手と新しい関係を結ぶための、ネットワーク上の信頼構築のツールでもある。


 植物はアイデンティティを持って生産され流通し、トレーサビリティとエビデンスが重視される時代が、既に一部では始まっている。誰に向け、どのような品質を達成したいのかを明確にし、規範を共有して、自らのコミットメントを外部に示していくことが必要な時代になっている。基準や約束のない花、アイデンティティの曖昧な花は、世界の花きの品質競争の中で埋没しかねない。認証の普及には、長期的ビジョンに基づく政策的支援と、業界の価値共有がなければならない。

 日本の花は、芸術、地域の生活文化と結びついて育まれてきた品種の多様さや育種の厚み、湿潤な国土に根差した豊かな遺伝資源に恵まれている。さらに、日本の花き産業では、自国内に育種、生産、流通、小売のインフラが機能しており、それぞれの段階で、高い技術と人材の蓄積があり、海外のプランテーション型生産流通システムとは一線を画す。もし、バリエーションの豊富さを生かせるシステムができれば、大品目集中による連作障害や多投入に伴う土壌劣化などの問題を回避しつつ、中山間地の農業に活路を開き、サステナブルな生産流通につながりうる。日本の花きの潜在力を生かすためにも、世界の潮流を視野に入れた、新たな多元的な「品質」への対応が求められる時代が来ている。

図表 日本の花き認証制度の課題

領 域テーマ課 題
制度設計諸認証間の調整重複の調整、グレード化
 管理体系現状は日持ち品質のみ。環境、社会、安全、経営、法令遵守の管理体系の普及が急務(環境・社会認証、GAP)
輸出対応輸出先の規制・規範対応輸出先国の規制・規範のチェックの仕組み
 輸送国際的品質管理の標準に対応した規格・要求事項
 認証機関の認定認証機関自体の適合性認定
普及・教育動機付け、インセンティブ目標と規範の明確化
 業界での認識共有認証の目標の周知と共有、啓発、取引条件化
 政策啓発・普及のための、長期ビジョンに基づく政策的支援
 普及、教育、学習指導、助言、普及員養成。IT化、学習システムの強化
価値連鎖バリューチェーンの形成認証の価値共有、認証品が認証品として流通する仕組み
コミュニケーション需要者、消費者啓発が必要
 認証内容の伝達認証内容とメリットのコミュニケーション
 ターゲット海外市場のターゲット明確化(米国、欧州、アジア)
 関係者の連携、組織化ステークホルダーの協働
 政府の役割方針策定、補助金・税制・普及政策、国際連携など
技術革新サプライチェーン管理技術トレーサビリティ対応。病害、鮮度管理技術との整合性
 認証コンセプトの変化データに基づく継続的改善ツールとしての認証
中長期的課題川上の品質管理インフラ種苗~生産段階のオープンな品質管理スキーム、国内のベーシックなGAP
 家族農業・小規模経営対応小規模経営者にとってメリットのある仕組み構築。認証と連動した教育・学習機会の提供。組織経営への利用
 国産・ローカル志向対応国産化と多元的品質管理の両立
 広い意味でのリスク・マネジメントグローバル化の限界、新興国台頭、保護貿易、気候災害、サプライチェーン分断など不確実性への対応能力
出典:著者(青木)作成 (2019)



レポートの引用は自由です。以下の例のように、クレジットを記載してください。
<引用例> 出典:青木恭子(2019)『世界の花き認証:環境・社会認証の普及と多元化する「品質」』、国産花き日持ち性向上推進協議会
Reusers must attribute the work by providing a credit line where it is due, as in the example below. Recommended citation: Aoki, Kyoko (2019). World floriculture certifications: The spread of environmental and social certifications and the multiplication of quality demensions. Council for the Vase-life Improvement of Japanese Flowers.
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