花店利用者調査~3.CSポートフォリオ分析 Flower shop customer survey 2022 Japan: Excerpt 3 CS portfolio analysis
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「花店利用者調査」2022年版から。サマリーの第3回目は、企業・業態別に、重視点と顧客満足(CS)との相関が高い項目をまとめ、CSポートフォリオ分析を行った。
重視度の平均ベースでは、企業・業態間に大きな差異は見られず、上位には「品質管理」や「鮮度」をはじめ、公約数的なベーシックな項目が並ぶ。 一方、顧客満足との相関という観点からみると、特徴がより明瞭になる。日比谷花壇では「バラエティ」や「季節感」を大切にする人が、満足の度合が高い傾向がある。イオンでは、「少量で買えること」が、顧客満足との相関が最も高い。カインズの顧客の間では「情報提示」。つまり、情報を吟味し、価値を判断しながら買い物できる環境を重視する傾向が、満足度と連動しやすい。
通販ネットは、評価ポイントが実店舗と若干異なっているため、参考値ではあるが、「ロスの防止」や「エコな花・植物」のCS相関が上位になっている。
独特なのが複合店で、「植物のケアの相談ができること」や「スタッフのスキル」のCS相関がかなり強い。複合店の利用者の間では、パーソナライゼーション、つまり、一人一人の関心や好み、ニーズに合わせて、商品を提案したり情報を提供したりできるスタッフの能力やサービス環境が、顧客体験の向上に結び付きやすい。
3. CSポートフォリオ分析:満足度と重視度の相関
(1) 内容
今回は、企業・業態別に、花店利用時重視点と顧客満足(CS)とを統合して、CSポートフォリオ分析を行う。
(2) ポイント要約
企業・業態別に、重視点と顧客満足との相関が高い項目をまとめておく。重視度の平均ベースでは、企業・業態を通じて、大きな差異は見られない。上位には、「品質管理」や「鮮度」をはじめ、ベーシックな項目が並ぶ。 一方、顧客満足との相関という観点からみると、企業・業態の特徴がより明瞭になる。
日比谷花壇では「バラエティ」や「季節感」を大切にする人が、満足の度合が高い傾向がある。
イオンでは、「少量で買えること」が、顧客満足との相関が最も高い。
カインズの顧客の間では「情報提示」。つまり、情報を吟味し、価値を判断しながら買い物できる環境を重視する傾向が、満足度と連動しやすい。
独特なのが複合店で、「植物のケアの相談ができること」や「スタッフのスキル」のCS相関がかなり強い。複合店の利用者の間では、パーソナライゼーション、つまり、一人一人の関心や好み、ニーズに合わせて、商品を提案したり情報を提供したりできるスタッフの能力やサービス環境が、顧客体験の向上に結び付きやすい。
(3) 4つの象限
このセクションでは、店の商品やサービスに対する満足度と、各顧客の項目重視度をマッピングすることで、改善点や強化を図るポイントを可視化してみよう。
どんなポイントが、顧客の満足と連動しやすいのか、CSポートフォリオとして、4象限に分けて分析する。縦軸に項目の重視度を、横軸に評価項目と顧客満足の相関(連動)を取って、各項目のポジションをプロットする。図の読み方として、上に行くほど、その評価項目の平均的重視度が高い。右に行くほど、重視項目と顧客満足との相関が強い。相関が強い項目は、顧客満足に影響を与えやすい可能性がある。
CSポートフォリオ分析では、下図のようなマトリクスを作り、4つの証言をイメージしながら解釈するとよい。
・第Ⅰ象限(右上) 相関も重視度も高く、重点的に維持・追及すべき項目。
・第Ⅱ象限(左上) 重要度は高いが、CSと低相関 この象限の項目は、満足を下げる要因になっていないかどうか検討し、もしそうなら、改善を考える。
・第Ⅲ象限(左下) 重視度もCS相関も共に低い。現状では対応の優先度は低いのだが、将来のニーズの萌芽となる可能性を秘めた項目も含まれうるため、目配りが必要。
・第Ⅳ象限(右下) 重視度は低めだが、CSとの相関が相対的に高い。重視度についても、満足度指標と同様、平均だけでなく、支持の「濃度」の勾配に注意を払うべきだろう。全体的にさほど重視されていない(現状維持)のか、それとも、一部の上顧客や有望な潜在ユーザー層から支持され、満足を押し上げる訴求ポイント(戦略)なのか、考えてみるとよい。平均でならすと重視度は低く見えても、経営上大切なセグメントには効いているかもしれない。
図表 重視項目―顧客満足マトリクス 象限の解釈
相関とは、2つのデータや現象について、一方の変化に応じて、他方が規則的に変化する関係を表す。 相関係数(r)は、0から1の間の値を取り、1に近づくほど正の相関が強い。つまり、xが大きいとき、yも大きい傾向があるということになる。大体の目安として、0.2~0.4は弱い相関、0.4~0.7は相関あり、0.7~1は強い相関。
符号がマイナスの場合は、負の相関(xが大きいときyは小さい傾向がある)。
(4) 企業・業態別 CSポートフォリオ
➀日比谷花壇
日比谷花壇の利用者にとって、顧客満足との相関が高い項目は、「バラエティ」(0.61)、「季節感」(0.60)、「外れがなく安心」(0.57)。その他の多くの項目で正の相関が顕著で、第Ⅰ象限にプロットされるものが多い。全体的に、花店への期待値が高いと言えるかもしれない。
図表 日比谷花壇 CSポートフォリオ
➁青山フラワーマーケット
青フラの顧客層は他より若い。華やかな店舗空間の「雰囲気」が、第Ⅰ象限のよいポジションにあり、満足につながりやすくなっている。バラエティやスタッフのコミュニケーション力も、強みの源泉になりそうである。 「SNSでシェアしたくなる」が第Ⅳ象限に来ており、シェアや推しのカルチャーを持つ利用者層の存在が窺われる。SNSシェアが正の相関を示す(0.4以上)のは、青フラの他には、日比谷花壇とカインズだけである。
図表 青山フラワーマーケット CSポートフォリオ
➂花専門店
花専門店(日比谷花壇、青フラを除く)の利用者間では、品質管理や鮮度といった、ベーシックなポイントをしっかり押さえることが、顧客の満足に資すると思われる。ただ、花専門店は店のタイプも顧客も多様なので、こうした公約数的なポイントが浮上しやすいのかもしれない。
図表 花専門店 CSポートフォリオ
➃イオン
イオンではまず、「少量でも買いやすい」(0.62)ことが大切である。他の業態ではここまでの相関は見られない。イオン独自の特徴といえよう。次いで、季節感(0.59)も、満足につながりやすい。
量販であっても、スタッフのスキルや応対など対人コミュニケーションが求められており、イオンでは、花や植物の「ケアについての相談」(0.53)も、第Ⅰ象限(重点)に入った。多くの重視項目で、満足度との相関が比較的高い。
図表 イオン CSポートフォリオ
➄スーパー
スーパーでは、「アクセスのしやすさ」が、重視度もCS相関も最上位にある(0.45)。あとは、価格設定のわかりやすさや鮮度など、基本的な品質項目を強化することが、満足に結びつきやすい。ただし、全体に重視度も相関も低い。言い換えると、花や店への関心や期待は、まだまだ薄いのではないか。
図表 スーパー CSポートフォリオ
➅カインズ
カインズでは、「店頭での情報提示」が、最も強く満足と連動している(相関係数0.54)(図表45~46)。情報提示への平均的な重視度は、62%と全体平均にほぼ等しい。そのため、平均ベースではならされて、右下の「維持/戦略」象限にプロットされているが、情報感度の高い顧客セグメントが一定割合いて、彼らには、「響く」項目となっている可能性がある。
「商品・包装の無駄防止」(0.49)や「エコな花・植物」(0.48)も、同じ右下の象限に位置する。SDGsや持続可能性に関わる課題について、感応性のある利用者層が、育ってきているのかもしれない。
「季節感」の相関(0.52)が、品揃えの「バラエティ」(0.46)を上回っていることにも注意しておきたい。
図表 カインズ CSポートフォリオ
➆ホームセンター
ホームセンターでは、「外れのなさ」(0.57)、「買い物のスムーズさ」(0.56)、「価格設定の明確さ」(0.52)のようなベーシックなサービス品質が、顧客の充足感と連動しやすい。カインズで「情報提示」や「季節感」が上位だったのとは、対照的である。 一方、一般のホームセンターの利用者の間でも、カインズ同様、「商品・包装の無駄防止」(0.48)や「エコな花・植物」(0.50)のような項目が、満足度と正の相関をもつ水準に至っている。
図表 ホームセンター CSポートフォリオ
➇通販、ネット 重視点項目は、基本的に対面販売を前提とした項目が多いため、通販、ネットのCSポートフォリオ分析は省略。
➈複合店
複合店では、「植物についてのケアの相談ができること」が、最も満足に貢献しやすい構造がみられ、興味深い。相関係数は0.6で、やや強めの正の相関がみられた。「季節感」(0.57)への感度も鋭い。
ベーシックな管理項目以外には、「スタッフのスキル」(0.59)、「スタッフの応対」(0.56)、「雰囲気」(0.52)など、コミュニケーションや店舗空間の体験価値が大切にされている。品質管理や外れのなさは大切だが、標準化された店舗運営よりもむしろ、個々のニーズや植物の状態に応じて、パーソナライズできる柔軟なサービスに感応しやすい。
全体に、第一象限にポジショニングされる項目が多く、花や植物に対して、潜在的に関心や期待を持つ顧客層の存在が窺われる。実際、Q8でみたように、花・植物への愛着度(平均)は、複合店の利用者間で最も高く、花専業の企業を凌ぐ。複合店は、提案次第でさらに伸びる、可能性を秘めた業態と言えるのではないだろうか。
図表 複合店 CSポートフォリオ
(5) 顧客満足と連動しやすい重視項目
重視度の平均ベースでは、上位項目を見る限り、企業・業態を通じて、大きな差異は見られない。上位は「品質管理」や「鮮度」をはじめベーシックな項目が並ぶ。
一方、顧客満足との相関をみると、企業・業態の特徴がより明瞭になる。
日比谷花壇では「バラエティ」や「季節感」を大切にする人が、満足の度合が高い傾向がある。
イオンでは、「少量で買えること」が、顧客満足との相関が他社・業態より顕著に強い。
カインズの顧客の間では「情報提示」。つまり、情報を吟味し、価値を判断しながら買い物できる環境を重視する傾向が、満足度と連動しやすい。 独特なのが複合店で、「植物のケアの相談ができること」や「スタッフのスキル」のCS相関がかなり強い。複合店の利用者の間では、パーソナライゼーション、一人一人の関心や好み、ニーズに合わせて、商品を提案したり情報を提供したりできるパーソナライゼーションの能力やサービス環境が、顧客体験の向上に結び付きやすい。複合店は、花店よりさらに「サービス」に軸足を移した業態と言えるかもしれない。
図表 重視点CS相関 上位項目
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2022)「花店利用者調査」
調査の概要
・日時:2022年1月31日(月)~2月2日(水)
・調査方法:インターネット・アンケート(マクロミル)
・対象企業・業態:花専門店、量販、ネット通販、複合店
・回答者:花・植物を扱う店で、過去1年に購入した人 1005名(本調査)
・主な調査項目:利用状況、顧客満足関連指標、サービス品質項目評価、よい点、改善してほしい点
・農林水産省の実証事業として、国産花き生産流通強化推進協議会が実施(令和3年度持続的生産強化対策事業のうち「ジャパンフラワー強化プロジェクト推進事業」)。
・企画・調査設計・分析および報告:ゲルダ・リサーチ 青木恭子
花店利用者調査2022年_本文リンク_Link_full text
https://www.researchgate.net/profile/Kyoko-Aoki/research
対象企業・業態 回答者数
企業・業態 | 回答者数 n | 構成比 % | 男:女 % | 平均年齢 | |
---|---|---|---|---|---|
全 体 | 1005 | 100.0% | 46:54 | 40.3 | |
1 | 日比谷花壇 | 103 | 10.2% | 47:53 | 37.8 |
2 | 青フラ | 110 | 10.9% | 36:64 | 35.1 |
3 | 花専門店 | 114 | 11.3% | 39:61 | 41.4 |
4 | イオン | 114 | 11.3% | 51:49 | 40.3 |
5 | スーパー | 115 | 11.4% | 50:50 | 42.0 |
6 | カインズ | 113 | 11.2% | 56:44 | 40.5 |
7 | ホームセンター | 110 | 10.9% | 59:41 | 41.7 |
8 | 通販、ネット | 114 | 11.3% | 49:51 | 42.6 |
9 | 花・植物とカフェなどの複合店 | 112 | 11.1% | 31:69 | 40.4 |
引用について
引用は、基本的に自由。ご自身の責任でご活用ください。(以下、引用例をいくつか挙げますが、この通りでなくても結構です)
・出典:国産花き生産流通強化推進協議会「花店利用者調査 2022年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)
・出典:青木恭子(2022)「花店利用者調査」国産花き生産流通強化推進協議会
・Source: Aoki, Kyoko (2022) Flower shop customer survey 2022: Purchasing behaviour and customer evaluations by business category. Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement. https://www.researchgate.net/profile/Kyoko-Aoki/research