花き認証の課題 低迷する購入率と「認証」への信頼低下~「花の消費動向2022年」から Challenges for flower certifications in Japan:Sluggish purchase rates coupled with the overall erosion of confidence in certification

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花の消費動向と環境意識に関する継続調査2022年から、課題3点。1.離脱・休眠ユーザー、未購入者 最近1年間の花購入率35%に対し、「今年買っていない」人がほぼ半数を占めるに至った。市場の今後を考えれば、休眠ユーザーの意識や行動を知りアプローチすることが急務なのだが、現調査の枠組みでは今の購入者中心になるジレンマ。 2.日持ち保証販売について、利用者中の再利用意向の低さ 3.花き認証が普及しないことと、認証全般への生活者の信頼の低下。「消費動向調査」の内容については、前ブログ花の消費動向2022年_ポイント に要約してある。 報告書全文はこちら


1. 離脱・休眠ユーザー、未購入者

2022年現在、花を「今年買っていない」人がほぼ半数に達し、購入者(35%)との比率が逆転している。現状では、購入者に用途や利用日を聞いていく形なので、データの精度が落ちる。また、どちらかといえばミドル~ロイヤルユーザーの動向に焦点が置かれることになる。

一方で、今後の市場のあり方を考えれば、未利用~離脱客や、現ユーザーのうちでも「ライトユーザー」とのコンタクトポイントを探り、「裾野」を広げていかなければならない。そのためのデータは不足しているが、現在の定点調査の枠組みでは限界がある。インタビューや定性調査(自由回答)をはじめ、違うアプローチが必要だろう。

図表 花の購入率

花購入率_2022

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2022)「花の消費動向 2022年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)



別途行った「花店利用者調査2022」では、花専門業態に伍して、雑貨やカフェ、本、アパレルなどと花・植物を同時に扱う「複合店」の評価が高いことがわかっている(たとえば「花店利用者調査~4.利用している店のよい点、改善してほしい点(自由回答テキスト分析)」参照。本調査でも、複合店は、購入者中の購入経路として、前年2.5%から今年は6%になっている。複合店は、いわゆるライフスタイルショップから農園カフェまでさまざまな形態を包摂しており。他の商品カテゴリーの顧客の行動の動線上で、花・植物との新しい接点・出会いの場となりうる。こうした市場の新陳代謝の動向を可視化するような切り口を、模索していければと考えている。


2. 日持ち保証販売の継続利用意向の低さ(利用経験者)

日持ち保証販売を利用したことがある人59名のうち、「また利用したい」は 7%にとどまり、4分の3は「わからない」と答えている。花が実際に日持ちして、制度の恩恵(交換)を実感しなかった可能性はある。 日持ち保証販売に取り組むことで、その店やチェーンのサービスに対して、顧客が感じる品質知覚や、バリュー感が上がっているとすれば、取り組む価値があるのは間違いない。とはいえ、個店やチェーンで力を入れているところはあるにしても、全体でみればまだまだ、ユーザーの実感として、「日持ち保証販売」=「日持ちがよい」という約束(ブランド)として認識されていないのが実情のようである。 「日持ち保証販売」の存在と品質の裏付けについて、生活者向けに継続的なアピールを考えるべき時かもしれない。サプライチェーンを通じて取り組んでいる場合は、店頭だけでなく、生産者や流通の方にとってのモチベーションを上げるという意味も含めて、である。


図表 日持ち保証販売の利用意向

日持ち保証販売_利用意向_認知利用経験別_2022

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2022)「花の消費動向 2022年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)



3. 「認証」への信頼低迷

花のエコラベルは普及していない。MPSやリレーフレッシュネスの購入率は、1%以下にとどまっている。認知率(ロゴ提示)はそれぞれ8.3%、5.3%である。回答者数(サンプルサイズ)が600、認知率8%の場合、統計的に、実測値から±2.2ポイントが誤差の範囲となる。MPSの認知率場合、母集団の推定値は6.1%~10.5%までの範囲で幅がある。加えて、認知率は、回答者の記憶で「見たことがあるような気がする」場合も含まれうるため、あまり知られていない認証では、実際の認知率はもっと低くなるのではないか。
残念ながら、この疑念には裏付けがある。2021年まで、エコラベルの設問には、ダミーとして「FFP」(フェア・フラワーズ、フェア・プランツ)という欧州の花きラベルを入れていた。日本ではまず見る機会はなく、既に活動を休止していたにもかかわらず、2021年のFFPの認知率は6.6%、購入率0.4%で、MPSとあまり変わらなかった。正直に言って、認知率というのはおそらく、2桁台に乗らなければ、ノイズを測っているようなものなのではないかとさえ感じている。


図表 認証の認知率、購入率

エコラベル認知率購入率_2022

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2022)「花の消費動向 2022年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)



それ以前の問題として、一般的に「環境認証」表示の重視度は、凋落の一途にある。花との比較のため取っている野菜のデータでは、環境認証を重視する人の割合は、2008年の35%をピークに、以後コンスタントに下落を続けており、2022年にはわずか6%にまで下がった。
2008年が特に高かったのは、この年「北海道洞爺湖サミット」が開かれ、広報活動も活発だったからだろう。サミットには世界から首脳が集まり、地球温暖化対策が議論された。
製造業の分野では、三菱電機、東レ、日野自動車始め、名だたる大企業で、不正取得のような理由で認証が取り消しになる事件が相次いでいる。環境認証に対しても、生活者があまり信頼を置かなくなってきたとしても、不思議ではない。

図表 購入時重視点の推移と環境認証の後退(野菜)

野菜_重視する表示_推移_2022

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2022)「花の消費動向 2022年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)



SDGs認知率はこの3年で4倍になり、サステナブルへの関心は芽生えていても、それは「認証」ニーズを意味しない。 サステナブルな花をアピールしようとしても、日本の大多数の生活者にとって、「認証」ベースでは自然に受け入れてもらえない。別のアプローチと併用することが望ましい。たとえば、当協議会で2021年度に行った「花店利用者調査」では、花や植物では、「旬」や「オーガニック」がエコ連想と結びつきやすいということが明らかになった(「花店利用者調査~5.スクリーニング調査から、ホームユース許容価格帯、エコな花のイメージ」参照)。「減農薬」は、生活者向けのアピールとしては、やや弱い。

近年伸びた認証は、戦略を持ち、継続的普及活動を続けてきた。MSC海のエコラベルは、東京オリパラの食材調達基準への採用、消費者向けキャンペーン、ビジネス向けでは大手小売(イオン、7&iなど)で取引基準とされている。認知率は、2008年10%から、現在は19%(その間、MPSは7%から8%)にまで伸びている。

図表 認証の認知率推移

エコラベル認知率_推移_2022

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2022)「花の消費動向 2022年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)



オランダのMPSのように、ビジネス向けの認証として、広域取引のネットワーク上で、サステナブルな取り組みに対する信頼性担保やリスクマネジメントの手段に徹するという道もあるが、サステナブルというのは環境だけを意味するわけでない。労働安全、働く人の生活や権利の尊重から、経営~顧客対応体制まで考慮しなければ、本当の意味でサステナブルと言えるかどうか。2019年に、オランダでFSI( Floriculture Sustainability Initiative)事務局長のユルン・アウトフースデンさんにインタビューした(「FSIの活動について」)。FSIは、世界の花きを社会や環境に対して責任ある形で生産・流通させることを目標に、花き業界のステークホルダーを糾合して活動している国際NGOで、設立以来10年の間に目覚ましい活動を展開している。日本の花き認証の方途について尋ねると、ユルンさんは「包括的システムを作り、MPSとGAPを接合すべき」と答えた。同感である。GAPはIPMから生活賃金、人権、記録・経営管理まで包摂するからである。ある程度の広域的な取引ネットワークを前提とした場合、長い目で見て、GAPなし、農業が守るべき最低限の規範が日本では明示的に存在しないという状態が、ずっと続いていいものなのだろうか。考え込んでしまう。

花の認証でも、ビジネス向けと生活者向けの両方で、継続的な広報・普及活動や、政策連携を考えるべきではないか。農水省は「みどりの食料システム戦略」を打ち出しており、化学農薬・肥料削減やRFIDデータ連携などの目標を掲げ、食料~加工~輸送・資材から、林業漁業まで、広い分野が包摂されている。私が日本の花の生産や流通の現実を知らないので、素人考えなのかもしれないが、今までの調査結果やインタビューから敷衍して言えることは、花の認証も、政策スキームを視野に入れながら、長期的な普及戦略を考えていった方がよいのでは、ということである。




引用例

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2022)『花の消費動向 2022年』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)

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