花の消費選好2023年~No.2 花の規格とアップサイクルの評価 Consumer Preferences for Flowers Japan 2023 - Preferences for size and upcycling
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花の消費選好に関する2023年版データ。旧「花の消費動向調査」の後継版。ポイント解説第2回目は、自宅用切り花で好まれるサイズ、アップサイクル(ロスフラワー、未利用部位の活用など)への評価と選好について。
サイズは、明らかに小ぶりが人気で、花では9割超、植物では8割超が40㎝未満が最適と考えている。
アップサイクル(ロスフラワー、スマートフラワー含む)の利点は、まず生活者にとっての「実利」(価格・利用面での合理性)。「サステナブル」「クリエイティブ」な要素はその次。
花束選択時の重要度は、スタイル(44%)>日持ち(36%)> アップサイクル(11%)>サイズ(9%)の順(コンジョイント分析)。アップサイクルや小さめサイズは、花束の魅力度アップに貢献することが明らかになった。
実施概要はページ下部に掲載。調査は、農林水産省の資金により、国産花き生産流通強化推進協議会が実施した(令和5年度持続的生産強化対策事業のうち「ジャパンフラワー強化プロジェクト推進事業」)。
Japanese Consumer Preferences for Flowers: 2023 Edition - Report 2. This report delves into several key aspects of consumer preferences in Japan, including the demand for upcycling, favored flower sizes, and the appeal of flower bouquets measured by attributes.
In terms of size, it’s clear that smaller options are preferred, with over 90% for flowers and over 80% for plants considering sizes under 40 cm as optimal.
The benefits of upcycling (including repurposed and smart flowers) are primarily viewed as “practical” by consumers, emphasizing affordability and usability. “Sustainability” and “creative” aspects come next in importance.
When selecting flower arrangements, the order of significance based on conjoint analysis is as follows:
Style (44%) > Vase life (36%) > Upcycling (11%) > Size (9%). Both upcycling and smaller sizes contribute to enhancing the attractiveness of flower bouquets. Funding for this research was provided by the Ministry of Agriculture, Forestry, and Fisheries in Japan. The study was spearheaded by the Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement, with Gerda Research being entrusted with the task of analyzing the survey.
引用について
基本的に自由。ご自身の責任でご活用ください。引用時は出典を記載
(引用例)出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2023)「花の消費選好 2023年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)
花の消費選好 2023年_報告書_Link_report
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5 物流対策テーマ サイズとアップサイクルの選好
(1) サイズ
2023年は、特設課題として、物流逼迫への対応が掲げられた。本調査では、効率的で持続可能な花の流通に向け、川下からのヒントとして、ホームユースの花について、最適な規格、アップサイクルの活用から価格感度まで、生活者の選好を調べ、マーケティング・データを共有する。併せて、物日のあり方に関して、母の日を例として、購入経験や花贈りへの生活者の意見を探った。
サイズは、明らかに小ぶりが人気。花では9割超が高さ「40㎝未満」を希望している。「30㎝未満」だけでも7割を超える。
植物でも、88%の人が「40㎝未満」が最適だと感じている。ただ、植物では1m超を飾るという人も2%弱おり、全体に花よりはやや大きめ。
図表 切り花 サイズ
図表 植物 サイズ
(2) 「フラワー・アップサイクル」の利点
いわゆるロスフラワーから、スマートフラワーのような規格見直しや、未利用部位の活用まで含め「アップサイクル」と位置付け、生活者が何をその利点とみなすか、探った。
分類すると、ざっくり(重複あり)、「実利」4割> 「サステナブル」3割> 「クリエイティブ」2割。
「実利」はコスパや飾りやすさ(コンパクト)、「サステナブル」は、資源の有効活用や花の持続可能性、「クリエイティブ」は未利用部位等を生かすことで、デザインや楽しみ方の自由度が増すという可能性への期待。
一方、「特に利点は感じない」という無関心派は、全体の4分の1以下(24%)。
見方を変えると、サステナブルな花を環境意識の高い層以外にも受け入れてもらうには、まず顧客に選択の合理性を納得してもらいつつ、環境配慮やクリエイティブさを加味した演出が大切ということかもしれない。
ロスフラワーという言葉はある程度広まっているものの、「ロス」や「規格外」の活用ということを強調すると、ロスフラワーはロス(効率の悪さ)を前提としていることになってしまう。そこで敢えて、「フラワー・アップサイクル」という耳新しい単語を使って、質問した。次のように、簡単に語の意味を説明してから評価してもらった。
フラワー・アップサイクルとは、「花の規格等を見直し、短い茎や未利用・廃棄部位も生かし、新しい価値として提案する取り組み」で、「流通や環境への負荷を軽減するとともに、多くの人々に、自由に花を楽しんでもらうことを狙いとする」
図表 アップサイクルの利点
(3) 小さいサイズやアップサイクルは、花束の魅力をどれくらい上げるか?
アップサイクルやサイズは、生活者が花を選択する際、どれくらい魅力的なスペックとなりうるだろうか?仮想実験の形で調べてみた。
日持ちやアップサイクルは、花の外観と違い、直接には見えない品質である。調査の結果が、流通品質、環境品質のような「品質」について、表示や認証、POP、日持ち保証販売のスリーブ、ウェブサイトやSNS等を通じて、生活者にどう伝えていくかを考える際の参考になればと願っている。
➀ 質問方法
自宅用の花束8通りの商品群から、良いと思える順番に、1位から3位までの順位を付けてもらった。商品はいずれも、「サイズ」「スタイル」「日持ち日数」「アップサイクル」という、4つの異なる「属性」と各2つの「水準」の組み合わせ。
1位=3点、2位=2点、3位=1点として商品の平均スコアを出し、属性水準の重要度を算出。
図表 属性(4つ)と水準(各属性2種類)
属性 | 水準1 | 評価 | 水準2 |
---|---|---|---|
属性1 サイズ | 小さめ | > | 標準 |
属性2 スタイル | 季節の花 | > | 目新しい花 |
属性3 日持ち | 5日 | < | 10日 |
属性4 アップサイクル有無 | アップサイクル | > | 通常品 |
➁ 属性の重要度
結論として、属性として重要なのは、以下の順(図「属性の重要度」)。
スタイル(44%)>日持ち(36%)> アップサイクル(11%)>サイズ(9%)
図表 属性の重要度
➂ 属性の要素ごとの魅力度
各属性中、好まれる水準(表参照)は、
季節の花、日持ち10日(長い方)、アップサイクル、小さめサイズ
属性の水準ごとに、魅力度を検討してみよう。「部分効用値」は、それぞれの要素が、商品の魅力度に与える影響の度合を表す。
部分効用値の比較図を見ると、商品の選好に際して、スタイルのうち「季節の花」の寄与度が最も大きい(0.22=22%)ことがわかる。
図表 属性・水準ごとの選好
この値の意味は、後の条件(属性水準)が同じ商品で合った場合、つまり、たとえばサイズ(小さめ)、日持ち(10日)、規格(アップサイクル)のスペックが同じだった場合、スタイルが「季節の花」だったら、22%その商品の魅力度が増すということ。
逆に、スタイルが「目新しさ」だったとした場合、「季節の花」の人気がとても高いため、比較すると、22% 魅力度が減じる形になる。
規格(アップサイクル)は、季節の花には及ばないものの、商品の魅力度を上げる。
「小さめ」「季節の花」「日持ち10日」という条件がすべて同じであった場合、その商品が「アップサイクル」(0.056)品なら、非アップサイクル品(通常規格)と比べて、5.6%×2 = 11.2%ほど選好されやすい。逆に、非アップサイクル品(-0.056)なら11.2%評価が下がる。
なお、サイズの「小さめ」は高さ25㎝以下、「標準」は25㎝~50㎝程度、通常品(非アップサイクル)は、市場の規格に沿い、一定の基準を満たした花と定義した。
この設問は、「コンジョイント分析」という実験計画法(シミュレーション)の手法に基づいて設計・解析した。好きな組み合わせを選んでもらうことで、店頭での選択環境に近づけた状態で、それぞれの属性の重要度を測ることができる。
➃ 商品としての評価
以上のスコアを、商品に落とし込んでみよう。最も魅力的な組合せは、
「小さめ」+「季節の花」+「日持ち10日」+「アップサイクル」
逆に、最も評価が低くなるのは、商品8。
「標準サイズ」+「目新しい花」(季節の花でない)+「日持ち5日」+「通常品」(アップサイクルでない)
図表 商品スペックと全体評価 ランキング
注:平均順位得点(目的変数)は、商品の選好に応じ、1位=3点、2位=2点、3位=1点とし、合計を全体回答者数で割って算出 組み合わせは直交表に基づいて割り付けられており、すべての組み合わせ(16通り)で質問しなくて済む 最高順位の組み合わせは、選択肢にはない
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2023)「花の消費選好」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)
➄ 補足 コンジョイント分析の回帰分析結果
コンジョイント分析とは、消費者の選好を理解し、最適な商品やサービスを開発するための市場調査手法である。属性(規格、スタイル、日持ちなど)と水準を設定し、それら(スペック)を組み合わせた商品プロファイル群から、消費者に選好を評価してもらう。スコアを計算し、数量化Ⅰ類(回帰分析)を行って、属性水準ごとのスコアへの影響度を一つ一つ算出する。実験計画法の一つで、店頭での選択状況に近い形で、特性の重要度を明らかにするもの。
【回帰分析結果】決定係数R2、自由度調整済R2はともに0.92以上、モデルのデータ適合度は十分 p値は0.1%水準で、結果は統計的に有意(p値は小さいほど統計的な確度が高い)
図表 コンジョイント分析 回帰分析結果
注:部分効用値は、係数から度数n(250ずつ)を加味して算出した加重平均を引き、水準間の値が0を挟んで対称になるように調整
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2023)「花の消費選好」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)
コンジョイント分析用に書いたプログラム(Python)は、著者のgithubページに公開。段階ごとに出力する形でやや冗長なコードになっているが、ステップを確認しながら進めることを優先した。
調査概要
花の消費動向と環境意識について、毎年継続調査。現在は農林水産省の実証事業として、国産花き生産流通強化推進協議会が実施。主要な継続設問の枠組み および2017年以前のデータについては、認証会社であるMPSジャパンから提供を受けた。
調査、分析、報告:青木恭子
実施方法
日時:2023年8月13日(月)~8月14日(火)
調査方法:インターネット・アンケート(インテージのモニター対象)
回答者:日本国内の20~50代男女、全500名
項目
消費関連の継続データを蓄積。一方、2023年は、物流2024年問題関連のセクションも設けた。一部項目はブログでは省略。
● 花、植物の購入(継続)
今年1年の花および植物の購入率、購入用途、経路、金額、頻度、購入する日や場面、重視点、購入内容
● 日持ち保証販売(継続)
家庭での花の管理状況、日持ち保証販売の認知率、利用率、利用意向
● 表示、認証、環境対応(継続)
表示の重視点、環境ラベルの認知率・購入率、栽培情報重視度
● 物流課題対処 最適サイズ、規格外・未利用部位ニーズ(2023年度特別調査) 好まれるサイズ、アップサイクルの選好、ホームユースの価格感度 物日の購入状況:母の日の花贈り状況
この記事の引用例 以下は例。著者の解釈も含める場合は、著者名でも可。この通りでなくてもよい。
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2023)「花の消費選好 2023年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)
出典:青木恭子(2023)「花の消費選好」国産花き生産流通強化推進協議会
Source: Aoki, Kyoko (2023) Consumer Preferences for Flowers Japan 2023. Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement.
本調査は、農林水産省の助成で実施された。
This research was funded by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan.
花の消費動向2023年_本文リンク_Link_report