子供時代の花植物環境、人生で印象に残っている花(自由回答) 花の消費選好2024年から(3) Consumer Preferences for Flowers 2024 - Childhood flower experiences and memory of flowers among Japanese
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現在、生活の中に花があるかどうか、子供時代の花環境はどうだったか。生活者に振り返ってもらった。子供時代に花が飾られていた家庭で育った人の花の購入率は、平均を大きく上回ることが明らかになった。一方、花や植物のない環境で育った(と感じている)人の4割は、生涯で今まで一度も花を購入していない。2009年、2016年の過去調査との比較からも、花のある環境で育つ人の減少傾向が懸念される。
人生で印象に残った花・植物に関する自由回答を分析すると、8月という調査時期から朝顔とひまわりが突出したものの、少数の頻出品目の後に様々な花植物が広く薄く連なる、ロングテール分布になっていた。洋花や観葉植物とともに、花屋に並ばない花や、万葉集・古今集時代から親しまれてきた和花、樹木が多く言及されている。物流の持続性(本農水省事業の主題)には、安定した需要量の維持が不可欠である。中長期的に見て、花・植物体験の種を蒔き豊かさを培うことは、花き産業の基盤を支える礎石なのだが。
花の消費選好2024年版 は、旧「花の消費動向調査」の後継版。農林水産省の資金により、国産花き生産流通強化推進協議会が実施。概要はページ下部参照。
We examined the prevalence of flowers in people’s current and childhood home environments. Results showed that people raised in households where flowers were regularly displayed are significantly more likely to purchase flowers as adults than the average (+12 percentage points). Notably, nearly 40% of respondents who recall growing up without flowers have never purchased flowers in adulthood. Comparing data from 2009 raises concerns about the declining number of people growing up in flower-rich environments.
Analysis of memorable flower experiences revealed a long-tail distribution: while morning glories and sunflowers were frequently mentioned (partly due to the August survey timing), responses included a wide variety of plants. Traditional Japanese flowers such as cherry blossoms and wisteria cherished since the Man’yō-shū (7-8C) and Kokin-shū (10C) poetry collection eras, trees, and plants not typically sold in flower shops were cited alongside ornamental plants of foreign origin. Given that sustainable logistics, the focus of this year’s project, requires steady demand volume, fostering rich plant experiences in early life appears to stand as a crucial pillar for maintaining the floral industry’s foundation.
Consumer Preferences for Flowers, Japan, 2024 Edition. This research was funded by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan, and conducted by the Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement. I served as the principal investigator responsible for planning, analysis, and report writing.
1 子供時代と現在の花環境 生活者の知覚
子供の頃、花は身近にあったかどうか、また、現在はどうか。生活の中の花環境について尋ねた。
・家の中に定期的に飾られていた/いる
・家の中に時々飾られていた/いる
・庭やベランダに花が咲いていた/いる
・周囲の環境は花や緑に囲まれていた/いる
・花が身近になかった/ない(排他選択肢=他と同時に選べない)
(1) 子供時代と現在の花環境
「子供時代」と比べて、「現在」の花・植物環境は(主観として)貧弱化しているようである。
生活者の体感・知覚として、自分の「子供時代」と比べて「家に花が飾られている」環境は、5ポイント程度減少している。
一方、「花が身近にない」は、「子供時代」には33%程度だったが、「現在」は半数に迫る(47%)。
図表 家や周囲の花・植物環境 子供時代 vs 現在
注:「定期的」/「時々」)は、どちらか一方のみ選択、「花が身近になかった/ない」は排他選択肢(他と同時に選べない)
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2024)「花の消費選好」(以下同)
子供時代については、同じ質問を、2009年と2016年の調査でも聞いている(当時はMPSジャパンで実施)。過去2回と比べても、花・緑環境は貧弱化しているように見える。子供時代に、「家に花が飾られていた」(定期的+時々 合計)人は、2009年の 59%から2024年には37%に、庭・ベランダに「花が咲いていた」人は、同じ期間に69%から39%になり、激減と言ってもいい。一方、「花が身近になかった」人は、かつては10%しかいなかったが、今回は39%に達し、2009年の3倍以上になった。
この間、花の購入率が落ちていき、花から人々が心理的に遠ざかり、疎遠になってきた。わずか15年間でここまで変わるのは、現実の花環境の貧弱化と、花についての記憶の薄れが組み合わさった、負のスパイラルの帰趨ではと疑う。
実際に住環境から花・緑が失われているだけでなく、植物への感受性が弱まっていて、現実に周囲に花があっても、それを知覚したり認知したりしなくなっているのではないだろうか。コロナ禍の最中で、花や植物の癒しの力に支えられたり、近所を散歩しながら植物観察して、道端の花々の生命力や美しさを(再)発見した人々は、当時少なからずいたはずである。コンクリートに覆われているようであっても、街中にも路上にも、あらゆるスキマに花や植物は溢れている。花が環境にないという認識は、自然に対して特定のイメージを抱いていて、身の回りの緑が意識のフィルターから抜け落ちてしまっているか、単に関心がないかで、「知覚されていない」状態の表れでもあるのかもしれない。
図表 子供時代の花植物体験 変遷 2009~2024年
(2) 子供時代に花が身近にあった人は、花の購入率が高い
子供時代に生活に花があったかどうか、あるいは周囲の花に気がつく感性が培われたかどうかは、大人になってからの花の購入行動に影響を与える可能性がある。因果関係の証明は難しく、断言はできないのだが。
花が「家の中に飾られていた」人の現在の花の購入率は48%で、平均を12ポイント上回る。「周囲の環境に花や緑があった」人の購入率は45%で、平均+9ポイントとなった。
「花が庭やベランダに咲いていた」人では、39%で平均とあまり変わらない。ただ、「飾られていた」「周囲にあった」「庭に咲いていた」人たちの間では共通して、未購入率(「花を購入したことがない」)が4~7%と顕著に低い。平均(18%)の半分~3分の1以下にとどまる。
対照的に、花が身近にない環境で育った人では、購入率は21%と低調な半面、未購入率はの4割(平均の倍以上)に達している。花を買ったことがない人(89名)の7割以上は、花が身近になかった人で占められている。
図表 子供時代の花・植物環境と 現在の花の購入状況
2 人生で印象に残っている花・植物体験 自由回答から
調査対象者全員に、これまでの人生において、目にしたり育てたりした中で、特に心に残っている花・植物は何だったかを尋ねた(自由回答)。その花・植物の特徴と、どんなところが印象に残ったか、(あれば)思い出やエピソードも含めて綴ってもらった。
(1) 印象に残っている花・植物
印象に残っている花のトップは朝顔、ついでひまわりである。調査は8月実施で、季節要因は割り引いて考えるべきだろう(機会があれば、季節を変えてまた聞いてみたいものである)。
自分で育てた経験は、それぞれの花・植物への感情的な結びつきの基盤になっている。結婚や卒業のような人生の節目や、家族や友人など人と結びついている花も多い。時計草や月下美人のように個性派の花のインパクトや、金木犀に象徴される香りの喚起力も、記憶に刻まれやすい要素のようである。
花店の定番の花への言及頻度は必ずしも高くない。例えば、カスミソウを挙げたのは 1名のみである。一方、オクラは2名いた。オクラの花は数時間でしぼんでしまう(実になっていく)ため、花屋に出回る花ではないが、淡いレモンイエローのふんわりした姿が美しく、野菜として育てる中で魅せられたのだろう。
特筆すべきは「サントリーミドリエ」で、これを挙げた2名とも「企業名+ブランド名」のセットで記憶している。「サントリーミドリエ」は、生活者の頭の中と生活空間の中に、家電やコスメのような「製品」に近い形で入っていき、独自のポジションを得たものと思われ、他の花も樹木もすべて品目の総称で記憶されているのとは対照をなす。
なお、ビバーナム・スノーボールを除けば、品種まで綴った例は皆無だった。
図表 人生で印象に残った花 自由回答抜粋
花・植物 | 度数 | 主な内容 |
---|---|---|
朝顔 | 39 | 小学校 育てる 色 |
ひまわり | 22 | 大きい ひまわり畑 元気 |
チューリップ | 13 | 球根 公園 咲く 色 |
バラ | 12 | 庭 結婚式 恋人 卒業式 |
桜(桜、枝垂れ桜等) | 9 | 春 家族 成長 幻想的 |
カーネーション | 8 | 母の日 あげる 子供 |
百合(百合、山百合) | 7 | 花粉 香り 葬式 |
紫陽花 | 7 | 庭 |
コスモス | 5 | 庭 コスモス畑 |
観葉植物 | 5 | 育てる 水やり 枯らす |
ガーベラ | 4 | 可愛い 結婚式 ブーケ |
キンモクセイ | 4 | 香り 庭 懐かしい 秋 |
サボテン | 4 | 育てる 枯れる 成長 |
ハイビスカス | 4 | 大きな花 育てる 沖縄 |
パンジー | 4 | 子供時代 育てる |
アロエ | 3 | 育てる 火傷 実用 花 |
オリーブ | 3 | |
ガジュマル | 3 | |
ポトス | 3 | |
マリーゴールド | 3 | |
月下美人 | 3 | |
胡蝶蘭 | 3 | |
多肉植物 | 3 | |
藤 | 3 | |
梅 | 3 | |
彼岸花 | 3 | |
オクラの花 | 2 | |
シクラメン | 2 | |
タンポポ | 2 | |
トルコキキョウ | 2 | |
ネモフィラ | 2 | |
パキラ | 2 | |
ミニバラ | 2 | |
フリージア | 2 | |
ブルーベリー | 2 | |
ミモザ | 2 | |
ムクゲ | 2 | |
ムスカリ | 2 | |
菊 | 2 | |
時計草 | 2 | |
水仙 | 2 | |
銀杏 | 2 | |
サントリーミドリエ | 2 | |
カスミソウ、コーヒーの木、サルスベリ、 | ||
ジャーマンアイリス、芍薬、スイートピー、 | ||
スズラン、ドクダミ、苔、花虎の尾、花水木、 | ||
ビバーナム・スノーボール、椿、蘭等 | 各1 | |
なし・わからない | 212 |
注:コメントあり 288件、「なし、わからない」など 212件
挙げられた花・植物を頻度順にプロットしてみると、ロングテールの分布になっていることが確認できる。書籍と同じように、限られた数の「ベストセラー」に続き、ニッチな品目が薄く広く長く連なっていく。
朝顔の栽培は江戸園芸文化の名残り、チューリップや薔薇は明治、大正以後広まった花、紫陽花は日本の自生も舶来もある。カタカナの洋花や観葉植物名がちりばめられている中に、古層として、万葉集・古今和歌集の時代以来連綿と日本の土地で愛されてきた、桜や藤、梅をはじめとする伝統的な和の花々や木々が混じり合い、野菜の花も加わって、日本人の植物を巡る意味世界の多層性が垣間見える。
ここに上がってきたのは、名前を言える範囲での花々である。育てた植物なら覚えていやすいが、「点」で出会う花屋の花々のなかには、心に残っていても言語化できなかったものもあるだろう。生活者が見てきた画像やログを分析対象とすれば、また違う植物との関係が浮かび上がってくるかもしれない。
参考:松田修『古今・新古今集の花 (カラー版古典の花)』、国際情報社、1982年。この本によると、詠まれている花の上位は、万葉集では 萩、梅、橘(柑橘)、薄、桜。古今集になると桜、紅葉、梅、女郎花(おみなえし)、萩。源氏物語に頻出するのは萩、菊、女郎花、をぎだが、この調査で挙げられたのは菊2件のみだった。萩はマメ科で初秋の山を彩る赤紫の可愛い花だが、存在感が薄れてしまった。品種改良や逆輸入で、同じ花でも今とは外観はかなり異なるかもしれない。 国会図書館デジタルコレクション https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001572468
図表 人生で印象に残った花・植物 分布
注:自由回答 8月実施のため季節の影響あり 回答者500名中、記入があった288名分について集計 1人で複数挙げている場合も、言及された花・植物ベースでカウント
(2) 共起ネットワーク 花・植物 記憶・連想のマッピング
回答に挙げられた花・植物が、どのように特定の場面や時代、人と結びついていくか。言葉と言葉のつながり方に着目して、マッピングしてみた。こうしたグラフは共起ネットワーク図と呼ばれ、テキストマイニングにより単語を抽出して切り分け、語同士の関連性や出現パターンの類似性を視覚的に表現したものである。花や植物のイメージの広がりや背景の文脈を、直感的に理解しやすくなるかと思う。単語(ノード)は円で囲まれ、円の大きさがその語の出現頻度を表す。一緒に出現しやすい単語のペアは、線(エッジ)で結ぶ。
朝顔は「育てる」「咲く」や「子供の頃」といった言葉と強く結びつき、一大グループを構成している。生まれて初めて育てた植物としても、朝顔は記憶に残りやすいようである。
結婚をはじめとする記念日の花束として、薔薇は独自のポジションを形成している。
ひまわりは、自分や家族が育てていたり、ひまわり畑の迫力に圧倒されたりと、大きさや生命力への驚きとつながっている。
金木犀のネットワークは小さいが、香りによる思い出の喚起力で、一つのクラスターになっている。
葬儀や墓の供花は、生々しい存在感が仇になり、不気味という感覚と結びつくことがある。
「祖父母」と「好き」のつながりは非常に興味深い。これは「祖父母が好きで育てていた」という文脈で、その先に、個別に異なる花々が想起されている。おじいさん、おばあさんの実家で触れた花や植物が、孫の記憶に深くとどめられているということを意味する。植物の広い世界への導入役として、祖父母が大切な役割を担っている様子が透けて見える。この年代には、植物好きで知識豊富な人が珍しくない。彼らは世代を超えて花の記憶を継ぎ伝え、孫たちに広い意味での花育を施してきたということなのだろう。
図表 花・植物と記憶 共起ネットワーク
大きな画面で見る=丸(言葉)をドラッグするとネットワーク図が動きます(新しいウィンドウで開きます)
注:自由回答 コーディング後、上位語の共起関係をプロット 8月実施のため季節の影響あり 回答者500名中、記入があった288名分
3 結語
2024年度の本農水省事業の主題である物流の持続性には、積載作業効率化をはじめ様々な論点があるが、定常的な需要のボリューム維持が不可欠である。中長期的に見て、花・植物体験の種を蒔き豊かさを培うことは、花き産業の基盤を支える礎石といえるのではないだろうか。
調査概要
・日時:2024年8月26日(月)~8月29日(木) ・調査方法:ネットモニター・アンケート(インテージ)
・回答者:関東一都六県在住20~50代男女 500名
実施主体
・花の消費動向と環境意識について、毎年継続調査。現在は農林水産省の実証事業として、国産花き生産流通強化推進協議会が実施(令和6年度持続的生産強化対策事業のうち「ジャパンフラワー強化プロジェクト推進事業」)。主要な設問の枠組みと2017年以前のデータについては、認証会社であるMPSジャパンから提供を受けた。
・企画・調査設計・分析および報告:青木恭子
目的
・花・植物の購入行動(過去1年間)の基礎データ蓄積、実務への還元
・物流負荷低減に貢献しうる川下ニーズを探る
設問項目
一部項目はブログでは省略。
● 花、植物の購入(継続)
今年1年の花および植物の購入率、購入用途、経路、金額、頻度、購入する日・場面、重視点、購入内容
● 日持ち保証販売(継続) 鮮度保持剤の利用と評価、日持ち保証販売の認知率、利用率、利用意向
● 表示、認証、環境対応(継続)
表示の重視点、環境ラベルの認知率・購入率、栽培情報重視度
● 物流課題対処 需要分散ニーズ(2024年度特別調査) カジュアルギフト 最適サイズ、価格感度、他カテゴリー商品との組み合わせの選好と値頃感 物日の購入状況 ● 花にまつわる原体験 「子供時代」と「現在」それぞれの花・植物環境、印象に残っている花・植物とそれにまつわる体験
※2022年前後の購入率(花、植物)落差は、一部、調査会社+性比変更の影響があることに注意。また、2023年未既婚比を調整した(52:48→47:53へ)。この比率で補正すると、2022年購入率は0.9%押上効果がある。
補足 継続質問部分の一部変更と補正について
2008年より毎年、マクロミルに委託し、毎年同社のモニターを対象に実査を行ってきたが、2022年に調査会社をインテージに変更した。サンプル数は500から600に増やし、懸案であった男女比(4:6)を改め、実際の比率に近い5:5にした。年ごとに小テーマを設け一部で新しいトピックを取り入れるが、購入、日持ち、環境対応関連の設問については、基本的に継続とし、同じ枠組みで行っている。画面デザインも、大きく変更しないようにしている。
2022年は調査会社等を変更し、継続データ(特に購入率)が変動した。
引用について
引用は自由 ご自身の責任で、自由にお使いください
出典記載例 著者の解釈も含める場合は、著者名でも可。この通りでなくてもよい
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2024)「花の消費選好 2024年」
Source: Aoki, Kyoko (2024) Consumer Preferences for Flowers Japan 2024. Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement.
本調査は、農林水産省の助成で実施された。
This research was funded by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan.