花の消費の特異な構造 ー 年収が上がっても、中間層の購入額が増えていかない 家計調査長期トレンド分析 花の消費選好2024年 (4) The Japanese flower market paradox. Income growth loses its impact on spending: A long-term analysis of the Family Income and Expenditure Survey. Consumer preferences for flowers Japan 2024 Appendix
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花と植物の消費について、今回は公開統計(総務省「家計調査」)から、この20年の趨勢を追う。「消費選好調査」の回答者は20~50代の現役世代なので、60代以上も含めて分析した。約600の財・サービスと比較すると、切り花消費について、3つの特異な特徴が浮かび上がってきた。
1 勤労者世帯の支出が、年金生活者の多い総世帯より低いこと、2 中~高所得層の支出が、低所得層より少ない(所得弾力性が低い)こと、3 中間層の財布シェアをめぐる競争で、花は他の商品・サービスに対して負けていき、買い物カートに入らなくなっていっていること。
園芸植物も2000年初頭までのラグジュアリーの地位を失い、現在は切り花の消費構造に近づいてきた。厳しい話だが、挽回は不可能ではない。温泉銭湯やおにぎりは、かつては花と同じ境遇にあったが、今は活性化しつつある。花も植物も、決して品質で後退したわけではない。個人個人の消費選好と、その積み重ねの問題である。
花の消費選好2024年版は、旧「花の消費動向調査」の後継版。農林水産省の資金により、国産花き生産流通強化推進協議会が実施。概要はページ下部参照。
This study examines flower and plant consumption trends over the past 20 years using public statistics from the Family Income and Expenditure Survey by the Statistics Bureau of Japan. While our consumer preference survey focused on working-age respondents (20s-50s), this analysis spans all generations, including those aged 60 and above. Comparison with over 600 goods and services revealed three concerning characteristics of cut flower consumption: 1) working households spend less than total households which include pensioners, 2) middle to high-income groups spend less than low-income groups, which means minus income elasticity, and 3) In the competition for “working middle-class” wallet share, flowers are losing out to over 550 items out of some 600 goods and services surveyed, gradually disappearing from their shopping carts. Ornamental plants have also lost their status as luxury goods (high elasticity) held until the early 2000s, with consumption patterns now resembling those of cut flowers. While this presents a challenging picture, recovery is not impossible. Hot spring public baths and onigiri rice balls once faced similar situations but are now revitalizing. Neither flowers nor plants have declined in quality - the issue lies in individual consumer preferences and their cumulative effect.
Consumer Preferences for Flowers, Japan, 2024 Edition. This research was funded by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan, and conducted by the Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement. I served as the principal investigator responsible for planning, analysis, and report writing.
1 現役世帯<年金生活者含む総世帯
「消費選好調査」の回答者は20~50代の現役世代で、質問も花と植物に限定されている。そこで、シニア層を含めた生活者全体を対象に、総体としての消費動向に照らしながら、花と植物の需要の形を探ってみた。家計調査のデータを用い、縦断的(時系列)かつ横断的(他の財・サービスと比較)に分析すると、切り花消費の特異な特徴が浮き彫りになってきた。
何が、どう特異なのか。3点に分けて、説明していく。
まず第一に、切り花の年間支出額は、総世帯(8013円)が、現役世帯(勤労者世帯、5132円)を大きく凌ぐ(数字は2023年)。
園芸用植物では、それぞれ 3301円、2107円(用品と合わせると各7270円、4702円)で、切り花でも植物でも、総世帯の購入額は現役世帯の約1.6倍にあたる。
社会の高齢化が進む中、総世帯は高齢・単身の世帯を多く抱え込む。所得水準は、現役の方が上である。 にもかかわらず、 2000年以後の時系列の支出額推移を見れば、この傾向は少なくとも最近20年間、覆されたことがない。そして、この構図のまま、どちらも落ちていっている。
図表 切り花 支出額、100世帯あたり購入頻度推移 2002~2023年(総世帯、勤労者世帯)
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2024)「花の消費選好」 図表作成:青木恭子(以下同)
図表 園芸用植物・用品 支出額、100世帯あたり購入頻度推移 2002~2023年(総世帯、勤労者世帯)
2 弾力性の低さ 中~高所得層(1000万円前後~)< 低所得層
多くの品物やサービスでは、家計が豊かになるにつれて、支出も増えていく。花・植物ではどうだろうか?
実は、切り花では、2016年頃を境に、世帯年収が上がっても、購入額は上がらないという現象が定着しつつある。
(1) 支出構造 2002年 vs 2023年
過去20年間の約600の財・サービス支出動向について、年収区分別に調べていくと、花・植物は現在、中間層の花の購入が縮小しており 、今では「絶対額」で最低所得層を下回る状態が続く。
家計調査から、2023年の世帯年収別の支出額を調べると、年収最低層(世帯主の平均年齢69歳)の方が、最高層(同53歳)よりも、支出の実額が多い(総世帯)。花では2018年以降、この構図で膠着状態にある。
今世紀に入って20年間で、総世帯でみれば家計の年収も消費支出も減っているが、年収240万円にも満たず世帯人員は平均 1.2人という最低層では、切り花支出は 200円しか下がっていない。一方、最高層では 6000円近く落ちている。
植物では、階級1の世帯では、2002年5500円から、2023年は7000円と、この20年間に1500円も増えた。2023年にコロナ関係の行動制限が解除になったため、シニア層のリベンジ消費が起こった影響を割り引くとしても、驚きである。対照的に、最高層の方は、同じ期間に12700円から6900円とほぼ半減した。先に挙げた植物の支出額推移は、切り花に比べて、トータルではなだらかだったが、水面下では需要の主な担い手は劇的に入れ替わっていたと言えるだろう。中~高所得層は植物消費の牽引役の地位を退き、300万円台以下の比較的高齢の世帯が市場を支えていた(支出が最も多いのは、階級2の年収240~360万円の世帯)。そのため、総体としては変化が目立たなかったのである。
図表 支出構造 2002年 vs 2023年 ( 「家計調査」総世帯)
2002年(総世帯)
項目 | 階級1 | 階級5 | 階級5/ 階級1 |
---|---|---|---|
年収 | 280万円以下 | 839万円以上 | - |
世帯人員(人) | 1.5 | 3.6 | - |
世帯主年齢(歳) | 60 | 53 | - |
費目 | (円) | (円) | 比率(倍) |
食料 | 491,000 | 1,174,400 | 2.4 |
自動車 | 4,000 | 100,600 | 25.2 |
外食 | 94,000 | 264,000 | 2.8 |
洋服 | 26,600 | 122,200 | 4.6 |
教育 | 11,300 | 262,500 | 23.3 |
教養娯楽 | 175,200 | 563,300 | 3.2 |
切り花 | 9,500 | 14,200 | 1.5 |
園芸植物・用品 | 5,500 | 12,700 | 2.3 |
消費支出 | 1,722,900 | 5,099,700 | 3.0 |
基礎的支出 | 1,265,100 | 2,495,700 | 2.0 |
選択的支出 | 457,800 | 2,603,900 | 5.7 |
2023年(総世帯)
項目 | 階級1 | 階級5 | 階級5/ 階級1 |
---|---|---|---|
年収 | 239万円以下 | 735万円以上 | - |
世帯人員(人) | 1.2 | 3.1 | - |
世帯主年齢(歳) | 69 | 53 | - |
費目 | (円) | (円) | 比率(倍) |
食料 | 518,200 | 1,222,700 | 2.4 |
自動車 | 13,000 | 122,000 | 9.4 |
外食 | 61,400 | 288,500 | 4.7 |
洋服 | 12,000 | 75,700 | 6.3 |
教育 | 2,400 | 256,800 | 105.9 |
教養娯楽 | 159,000 | 508,500 | 3.2 |
切り花 | 9,300 | 8,300 | 0.89 |
園芸植物・用品 | 7,000 | 6,900 | 0.98 |
消費支出 | 1,657,300 | 4,608,400 | 2.8 |
基礎的支出 | 1,201,500 | 2,306,600 | 1.9 |
選択的支出 | 455,900 | 2,301,800 | 5.0 |
なお、物価高で消費支出額そのものが上がっても、消費が抑制基調を強めていることは、家計消費に占める食料費の割合であるエンゲル係数の上昇からも推測される。これは2人以上世帯勤労者世帯のデータだが、家計消費に占める食料費の割合で、2008年21.9%から2023年には26.5%と5ポイント弱上昇した。この間、世帯の人数が増えているわけではない。その分、食料以外の商品の圧迫要因となるだろう。
さらに、所得が上がった家庭でも、消費は資産形成と競合の度を強めているようである。家計調査では、社会保険料、税、土地家屋購入、貯金や株式投資は「非消費支出」として、別途集計されている。老後資金2000万円問題が指摘され社会に衝撃を与えた2019年、2020年前後を境に、非消費支出の動きは変貌を遂げ始めた。公表されている2人以上勤労者世帯についてみると、まず、平均消費性向(可処分所得に対する消費支出の割合)は、コロナ禍後に下降(2019年68% → 2023年64%)し、所得のうち消費に回る割合が落ちている。加えて、資産運用の税制優遇策を追い風に一部の家計の資金は投資に回り、2020年頃から有価証券の購入が倍増、家計の平均貯蓄率(可処分所得に対する貯蓄純増の割合)も上昇している(2019年31% → 2023年35%)。
一方で多くの家庭では家計が苦しく、他方、株高や所得アップの恩恵に浴した世帯では、その果実は資産形成に振り向けられやすくなっている。
こうして、何重にも消費の選別が厳しくなる中で、お金が切り花や植物に向かいにくい構造が生まれている。植物の株を育てることと株を増やすこととは、今のところ、あまり相性がいいとは言えそうにない。
(2) 切り花支出の所得弾力性 総世帯
総務省の公表値を使って、簡易的に支出の所得弾力性を計算してみた。
所得弾力性は、世帯収入の変化に対して、各支出項目がどれくらい敏感に反応するかを示す。
具体的には、所得が1%増加したときに、支出(需要)が何%増加するか(所得弾力性)を計算する。原データ(個票)は利用できず回帰モデルが使えないので、正式な値ではなく、あくまで簡易計算ではあるが、ある程度、消費の構造の大枠は把握できるだろう。
切り花では、2016年頃から弾性値が-0.01~-0.04、植物では2023年に初めて、-0.01とわずかにマイナスに転じている。
図表 総世帯 支出の所得弾力性の変化 2000~2023年 年収五分位階級5ー階級1
弾性値の解釈について説明しておく。詳細については、文末の解説を参照してほしい。
1を上回れば上級財(贅沢品)、家計調査では「選択的支出」と呼ばれ、所得の増加率よりも、支出の増加率が大きい。たとえば、弾性値 1.2 だったら、収入が1%増加すると、その品目の支出は1.2%増加する。つまり、所得の伸びよりも、その品目の支出の伸びのスピードの方が速い。典型的な例としては、教育や自動車購入が上級財に当たる。
弾性値が0~1 の間に収まるのが必需品、コモディティ(通常財)(「基礎的支出」)で、所得が増加すれば、程度の差はあれ支出額も増えていく。食料品や保健医療サービスが代表例で、多くの財がコモディティに該当する。
弾性値が0を下回りマイナスになる財では、所得が伸びる時、支出額が減る。経済学では、いい言葉ではないが、下級財と呼ばれる。たばこ(勤労者世帯)や信仰祭祀費(総世帯)は、マイナスになりがちである。切花も、今回の簡易計算による限りでは、このカテゴリーに陥っている。
図表 所得弾力性による財・サービスの分類
値 | 性質 | 特徴 | 代表的な例 |
---|---|---|---|
1以上 | 奢侈品(上級財) | 所得の伸びより支出額の伸びの方が大きい | 教育費(特に私立小中、補習)、自動車、スポーツ観戦、寄付 |
0~1 | 必需品(コモディティ、上級財・正常財) | 所得が増えれば、多かれ少なかれ支出額も増える | 食料、家事雑貨、保健医療など多数の財・サービス |
0以下(マイナス) | いわゆる下級財 | 所得が増えると支出額が減る | 家賃、信仰祭祀、プロパンガス、たばこ |
注意点として、ここでは世帯を年収別に五等分した集計値を利用しているが、最上位は年収「750万円以上」(2023年総世帯)で、たとえ年収1億円、10億円以上でもこの区分に含まれることになる。実際には、いちばん厳しいのは、一つ下の階級4の年収500~750万円世帯であって、最上位の階級5では彼らよりは少し購入額が上がる。区分を細かくして高所得層の上限区分を上げれば、おそらく花に低年収層より多くの額を使っており、弾力性はプラスになるだろう。ただ、その場合でも、セクション3で扱う、他の財との比較でみる中間層の需要不足という難問からは免れない。私の議論の主眼はそちらにあり、個別の弾性値やそのプラスマイナス自体にあるのではない。
(3) 勤労者世帯(現役世帯) 植物は「ラグジュアリー」から転落
現役世帯に絞れば、所得が上がると、ある程度花き支出も増えはする。しかし、先に見たように、そもそも現役世帯は、花も植物もそれほど買わない。年収1000万円を超える勤労者世帯(階級5)の切り花支出は6109円に過ぎず、年収240万円に満たない総世帯の最低年収層(階級1)の9280円に、遥かに及ばない。
また、長期的に弾性値が低下している。切り花については、2002年当時の弾性値は0.8で、食料(0.4)の倍、消費支出全体(0.6)を上回っていた。それが2000年代後半に下降していき、東日本大震災後には0.3となり、以後、食料を下回ることが常態化していった。
植物は、局面の変化が激しい。2000年代初頭には、ガーデニング・ブームの余韻で、 現役世代の弾性値は1を超えており、「ラグジュアリー」(上級財)の地位を享受していた。ブームが遠ざかるにつれて 「コモディティ」に転じ、大震災後に下がり、食料を下回る水準にまで落ちたが、コロナ禍中に息を吹き返した。中高所得層が癒しを求めて植物に向かい、園芸用品は一時的に、ラグジュアリーの水準を超える際まで跳ね上がった(1.0)。しかし結局、この追い風を安定した復活軌道に導くことができなかった。パンデミック収束後、ブームは息切れしてしまい、物価上昇のあおりを受けて、2023年の植物の弾性値は、少なくとも過去20年で最低となった(2023年 植物 0.2、用品 0.3)。
図表 勤労者世帯 支出の所得弾力性の変化 2000~2023年
3 中間層の購買力をめぐって、他の商品・サービスとの競争で失速
前述したように、仮に年収区分や計算方法を変えれば、花の弾性値はプラスに転じると考えられる。しかし、それでも残る問題がある。ここで用いた5階級だと、最上位の階級でも750万円程度からで、富裕層と言うより中間層のやや上程度の世帯まで包摂している。その分類で弾性値が0を下回ってしまう、ということの含意は深刻で、実質的に中間層、特に「現役の」中間層を充分に惹きつけられなかった、ということである。つまり、花きは、ある程度の購買力と人口の厚みがあり、本来ボリュームゾーンを構成すべきターゲット層のマーケットを育てそこねている。
家計調査の支出項目には、にんじんから口紅、私立小学校学費、鍼灸院料金、自動車まで、細分類で600を超える財・サービスが網羅されている。すべての支出項目について、過去20年にわたり、同じ方法で所得弾力性を計算してみたが、切り花のようにマイナスになっている財は、どの年でも、20~30品目程度に過ぎない(家賃やプロパンガス、柿、豆など)。
言い換えれば、たとえ消費支出総額が減り、家計が苦しくなっていても、大多数の財では、年収が上がれば多かれ少なかれ支出額は増す。少しずつではあっても、より多く買われるか(世帯人員が若干増す効果もある)、あるいは品目は同じでも、ワンランク上の商品が選ばれていくのである。
一方、花のような消費構造の財は、圧倒的少数派である。花は、「年収が上がると」、「他の財に対して」劣勢になり、失速して、中産階級の買い物カートに入れられなくなっていくという特異な構造に陥っている。下級財は劣等財とも呼ばれるが、ここでの劣というのは、品質とはまったく関係がない。中間層以上の家庭の財布シェアをめぐって、所得と支出額の伸びのスピード競争に乗り遅れ、他の財・サービスに劣後していく、その意味での「劣」である。
マイナスになっていく背景には、高齢化、少子化、地方の衰退など複合的な要因が作用していると思われる。
ちなみに、財・サービスのうち、もっとも階級差が激しいのが教育費で、これが中間層における他の支出の圧迫要因の一つになっているようにみえる。勤労者世帯(2023年)では、私立の中学校授業料で、年収最低層と最高層の支出額には400倍以上の開きがある。私立小学校では計算ができない。年収370万円未満の最低層では、支出が0円だからである。子供の有無や、学費無償化等の所得制限のような制度設計の影響があり、格差だけとは限らないが、補習教育でも26倍の差がある。
4 挽回は可能 おにぎり、温泉銭湯の例
ある品目が上級財になるか下級財になるかは、前述したように、品質とは関係がない。上級下級の区別は、一人一人の消費者の選好の集積の結果に過ぎない。また、人によって異なりうる。年収が増えていっても、カジュアルなファストファッションで構わない人たちにとっては、衣料は下級財となりうるだろう。
選好の問題であるならば、嗜好や習慣の変化やマーケティング努力によって、反転は可能だろう。ある種の財、例えば たばこは、勤労者世帯においては下級財として定着してしまっている。同じ轍を踏んではいけない。
締めくくりに、花と同じような境遇から挽回した例として、「おにぎり」と「温泉銭湯入浴料」を挙げておきたい。
両者とも、かつては弾力性がマイナスの状態をさまよっていた。銭湯は、バブル期の地価高騰以降、廃業が止まず、暗い時代が続いた。しかしランニングブームでランナーのリフレッシュ・ニーズの開拓に成功したのに続き、個性的な内装改装、ギャラリー併設や食堂とのコラボ、温泉水、薬草や冷水風呂、露天風呂、イオンシャワー設置など、オーナーたちが独自に数々の工夫を積み重ねて新しい顧客層を取り込んでいき、2010年代以降は、プラスに転じている。サウナを併設すれば、オプションで利用料を払ってでもリラックスしたい人は喜んで来るし、タオルや飲料、関連販売も見込め、こうした顧客の客単価はベースの入浴料の2~3倍にもなりうる。杉並区高円寺の小杉湯は、原宿駅近辺、表参道沿いの商業ビル内に支店を出して、話題になった。現在の銭湯は、出版不況にもかかわらず活況の独立書店に通じるワクワク感に満ちている。
おにぎりもまた、かつては低迷していたが、ご当地おにぎりや、新感覚の具材を訴求した専門店が数々誕生し、快進撃が続く。
このように、コラボや機能、関連販売の拡大、デザイン、新しい客層の取り込み、既存の商品ラインの自由な見直しを通じて、消費者の選好を変え、市場の再活性化につなげることは不可能ではない。
図表 挽回例 花きとおにぎり、銭湯・温泉
解説 所得弾力性について
【概念と計算式】
所得弾力性は、世帯収入の変化に対して、各支出項目がどれくらい敏感に反応するかを示す。 所得が1%増加したときに、支出(需要)が何%増加するか(所得弾力性)。ここでの計算式は以下。
\[所得弾力性(η、イータ) = \frac{Δ支出額変化分(階級5ー階級1)}{Δ所得変化分(階級5ー階級1)} \times\frac{変化前の所得(階級1)}{変化前の支出(階級1)}\]
η > 1: 贅沢品(上級財)、選択的支出 所得の増加率よりも、支出の増加率が大きい
0 < η <1 : 必需品、コモディティ(通常財)、基礎的支出 所得が増加すれば、一定の割合で支出も増える
η < 1: 経済学で言う下級財 収入の増加率より支出の増加率が小さい
【留保・注釈】
個票の元データは利用できず、回帰分析できない。ここでは、集計済公表値を用いて以下のような簡易計算をしており、様々な限定がある。
・年収帯から中央値(階級値)を設定して、支出と所得の変化率を算出する簡易計算。支出費目間の差を直感的に示すため、対数変換していない。
・年収と支出額について、非線形の変化は補足できない。切り花の場合、年収帯2と年収帯4で差が最も大きくなっており、直線的な変化をたどるわけではないが、あくまで年収階級1と階級5の間の線形の関係を仮定。
・総世帯の年収階級別公表値は5分位階級で、各階級の該当数が同じになるように、年収により5分割されている(そのため年収の幅は毎年代わる)。5分位の場合、最上位の年収5分位階級5は2023年総世帯では「750万円以上」で、富裕層も含まれる。本調査の簡易計算で弾性値がマイナスになっている項目でも、多くの場合、年収区分を細かくして、高所得層の所得区分の上限を上げれば、弾性値はプラスになると思われる(切花・植物とも)。
・階級値は、前後の階級の所得帯の中央値を求め、階級が上がった場合、等比で中央値が増えると仮定して設定。2023年の場合、総世帯では988万5000円、勤労者世帯では1042万円に設定しており、階級5は高所得層というより、中間層の中・上~高所得層が含まれる。総世帯の年収階級1は230万円以下のため、生活保護水準を下回らないよう、階級値は200万円とした。
【総務省の算出法(支出弾力性)】
「所得」のかわりに、「総支出額」に対する支出弾力性も広く用いられる。総務省の「家計調査」(参考表 用途分類項目の支出弾力性)では、毎年、2人以上世帯の主な支出項目について、支出弾力性が掲載されている。 この場合、各品目の支出弾力性(ηi)は、最低と最高を除いた16階級を対象に、対数線形回帰モデルで計算されている。 回帰式は、
ln(Cij) = consti + ηiln(Yj)
Cij:第 i 支出項目、第 j 年間収入階級の支出項目金額
Yj:第 j 年間収入階級の消費支出金額
ηi:第 i 支出項目の支出弾力性
総務省の表では、切花や植物の弾性値は掲載されていない。年収階級および世帯の区分の違いと対数変換計算のため、本調査での試算とは数値が異なる。たとえば、食料の弾性値は0.63(2人以上世帯)、本調査の試算では0.54(対数変換後)だった。総務省の計算では、2人以上世帯でコメや魚介類、海産物などで、同勤労者世帯でたばこや家賃地代は、弾性値がマイナスで、下級財となっている。
参考:総務省「家計調査 支出弾力性の計算方法及び基礎的・選択的支出の格付方法について(2020年(令和2年)1月から)」
https://www.stat.go.jp/data/kakei/kou2020/dan2020.html
「花の消費選好」 調査概要
・花の消費動向と環境意識については継続調査。現在は農林水産省の実証事業として、国産花き生産流通強化推進協議会が実施(令和6年度持続的生産強化対策事業のうち「ジャパンフラワー強化プロジェクト推進事業」)。主要な設問の枠組みと2017年以前のデータについては、認証会社であるMPSジャパンから提供を受けた。
・企画・調査設計・分析および報告:青木恭子
目的
・花・植物の購入行動(過去1年間)の基礎データ蓄積、実務への還元
・物流負荷低減に貢献しうる川下ニーズを探る
引用について
引用は自由 ご自身の責任で、自由にお使いください
出典記載例 著者の解釈も含める場合は、著者名でも可。この通りでなくてもよい
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2024)「花の消費選好 2024年」
Source: Aoki, Kyoko (2024) Consumer Preferences for Flowers Japan 2024. Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement.
本調査は、農林水産省の助成で実施された。
This research was funded by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan.