産業連関表にみる 花生産の投入構造と販路構成 個人消費対業務用比率 Industrial relatioins analysis Input and output of flower industry in Japan

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花と植物の消費について、今回は公開統計(総務省「産業連関表」)を利用し、花き生産の費用投入構造、販路、業務用・個人需要比率を示す。


1 花き・花木 資材・物流を含む費用の投入構成 産業連関表(2020年)

2020年の統計表から、まず、花き産業の費用投入構造を見てみよう。この表では、人件費や利潤等粗付加価値は含まれていない。

一見して、プラスチックはじめ石油由来の製品やサービスが、多岐にわたって費用項目に計上されていることが見て取れるだろう。流通や種子、および太陽のエネルギーや水、土のような自然の生産要素を除けば、花は石油やガスで作られ届けられると言いたくなるほどである。

物流関連では、段ボール経費に占める比率が7.7%、自家輸送6.7%、その他貨物輸送が2.5%と、一定程度を占めることがわかる。
経産省で発表している「延長産業表」ベースでは、費用と構成比が多少異なっており、プラスチックの比率はさらに高い(プラスチックフィルム10.8%など)。

なお、産業連関表での「花き・花木類」に該当するのは、切り花、鉢物、花木成木、花き苗類、その他花き・花木類とあり、球根類は含まれていない(「種苗」扱いになる)。この数値は業務経費1533億円分の内訳で、これに、この統計で言う「粗付加価値」(賃金、営業余剰、税等)1680億円を加えた国内生産額は 3212億円となる。


図表 花き・花木 生産費用構成

経費項目金額(億円)経費に占める比率
小売20713.5%
種苗18812.3%
電気16310.6%
卸売1378.9%
プラスチックフィルム・シート1298.4%
段ボール箱1187.7%
自家輸送1036.7%
A重油915.9%
農薬714.6%
稲わら412.7%
機械修理332.2%
貨物輸送等(自家輸送除く)382.5%
化学肥料271.8%
有機質肥料171.1%
建設補修130.8%
プラスチック製雑貨120.8%
その他費用1459.5%
合計1,533100.0%
注:「花き・花木類」は切り花、鉢物、花木成木、花き苗類、その他花き・花木類(球根類は含まれず「種苗」扱い) 卸売・小売は、花き卸売市場や花店だけではなく、産業全体の商業マージン合計
データ:総務省「令和2年(2020年)産業連関表」 、作成:青木恭子(2024)「花の販路構成 産業連関表から」 ゲルダ・リサーチ(以下同)



2 花き・花木の販路構成

生産された花き・花木は、どんな相手に、どれくらい売られているのだろうか。
販路構成を調べてみた。業務用では、建築(5.9%)や公共事業(5.8%)の比率が高い。冠婚葬祭3.1%、レッスンは約1%ほか、表では省いたが、細々とさまざまな産業に買い手がいる。

業務用は、ビジネス上の取引としては国内需要の29%。これに、一般世帯に模した形で、企業がオフィスなどで自家消費として利用する分が5.2%とはじかれている。
両者を合わせて広義の業務用の比率は34%。つまり、国内需要のシェアは、家庭用 66 対 業務用 34 ということになる(2020年)。

国内需要に、輸出+商業マージン(卸・小売)および運賃を足し上げた需要合計は、7959億円とされている。これをどう受け止め、どう解釈するべきか…。

図表 花きの販路構成 国内需要に占める比率

図1_産業連関表_販路構成2020

大手の花店や園芸店チェーンは、店舗は消費者向けの顔で、実体としては、企画からデザイン、コンサルティングまで含めて、この業務用のビジネスを深化させ、花を核とした総合的な生活クリエイティブ産業志向を強めている。生活者の花体験を形作る中で、建築物、施設や公共空間などでの植物の活用は大きな役割を果たしうるが、これも一部の花店が積極的に取り組んでいる。

ここで一つ思うのは、業務用の売り先は、おそらく、消費者よりも、環境配慮の花や植物の受け入れポテンシャルが期待できるのではということである。環境配慮性能が品質の一要件となり、企業に対してCO2削減や生物多様性等の取り組みに関する情報開示と説明責任が求められる流れの中で、業務用の需要は、持続可能性の取り組みや環境認証制度と親和性を見出しうる領域で、ここの営業がなく未開拓なのは、いろいろな意味で残念だが、逆に見ると、伸びしろがあるということなのかもしれない。


3 注意点

産業連関表に戻って、最後に、以下の2点に特に注意しておきたい。
まず、この数値をそのまま受け入れてしまうのは、あまり適切とは言えそうにない。  

産業連関表の主眼は、最初に触れたように、経済波及効果の把握にあり、「取引関係の網の目」を定量化し、どこに投資すればどれくらいの付加価値が生み出されていきそうか、政策策定の根拠を得ることにある。産業横断的に行列計算(あるいは逆行列計算)を可能にするよう、特有の統一ルールがあり、たとえば、「各産業は、ただ一つの生産物を生産しているとみなす」というような強い仮定が置かれている。取引間で整合性ある各種の係数を得た後、内生的に定まる項目もある。また、作成省庁によって、値が若干異なる。 

こういう事情から、個別の産業、ここでは花きにフォーカスした試算とするには、主産物とそれ以外の財・サービスの計算や商業マージンの扱いをはじめ、補正が必要になるだろう。 家計消費は、家計調査等から導出されると思われるが、小売市場規模と同一視できない。実際、農水省で発表している花の生産~卸~小売の市場規模とは、価が異なる。末端の消費市場の売上高には、それまでの商業マージンが載せられてきているので、取引の段階ごとに引きはがして、付加価値を計算しなければならないと思われる。この作業の中身が、正直、よくわからない。

もう一つの注意点は、商業マージンの扱いについてである。流通についてはおおざっぱで、「卸売」「小売」の分類しかない。取扱商品や業態(個店、量販店、通販など)に関わらず、合算されている。また、「花き卸売」や「花店」だけの数字ではない。農産品だけでなく、機械、ソフトウェア等、生産流通にかかわるすべての財・サービスの卸、小売マージンの合算である。

たとえば、東証スタンダード市場に上場しているユニバーサル園芸社の事業ポートフォリオを見ると、主力のレンタルグリーン事業が売上高の67%(113億円)を占める(2024年7月期決算)。こうした場合、後の卸(6%)・小売事業(27%)の売上とまとめて、産業連関表で販路の0.5%を占める「賃貸リース」に 計上されていくということになるのだろうか。花・植物でも、重点や構成内容は異なっても、このような多角的なポートフォリオの法人は 無数にあると思われる。法人相手(オフィス、飲食・レストラン)の自家消費から、元請(ビルメンテナンス事業者、施工会社など)経由の受注まで、販売や契約の形式も多様だろう。
個別の調査・ヒアリングを積み上げて推計していったとしたら、産業連関表の数値と異なる値になっても おかしくない。

勉強不足で申し訳ないのだが、今のところ、よくわからないことがいろいろある…。


4 補足 産業連関表について

産業連関表は、国や地域の産業の規模・構造や経済波及効果の把握を目的に作成される。各産業の生産に際して、他の産業に投入した費用、販路別の額、付加価値が、行列の形(列が投入、行が販路)で表現される。
国が作成する産業連関表は、国内の全産業で1年間に行われたすべての生産活動と取引が対象で、米からレトルト食品、化学肥料、集積回路、武器、セメント、各種輸送、水道、持ち帰り飲食サービスから、ソフトウェア、企業内研究開発、非営利自然科学研究機関まで、産業間の取引関係が網羅的にマトリックスで表現されたもので、基本分類では行だけで67000行以上にわたる長大な表である。
この巨大な取引表により、ある産業で生じた需要が、取引の網の目を通じて、波紋が伝わっていくように連鎖的に、他の諸産業の需要を生み出していくかを弾き出すことができる。
国のものは主要省庁が連携し、様々な政府統計とヒアリング調査を駆使して、5年ごとに発表される(加工統計)。国際的に厳格な作成基準があり、日本政府が作るものは、海外政府のものと整合的なので、国際比較が可能である。地方自治体や民間組織でも、投資やプロジェクト(たとえば万博や花博のようなイベント、移住促進策など)の経済効果の試算には、産業連関分析の手法が幅広く応用されている。

産業連関表は、経済学者のレオンチェフが考え出した(ノーベル経済学賞を取った)。普及したのは第二次世界大戦後で、その当時の経済構造を反映した、製造業中心の体系となっている。そのためか、商業含め、サービスについてはおおざっぱな部分があるようにみえる。また、IT関連では、一般人からサービスと引き換えに無料でデータを得て、広告収入に結び付けるという、直接に貨幣を媒介としない、いわばバーター取引を核にした経済圏が形成されているが、この領域の付加価値について捕捉するのは難しい。産業連関表に限らず、今の経済統計全般にそうなのだろうが…。



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