FSI事務局長 ユルン・アウトフースデンさんインタビュー FSIの活動について (Interview with Mr.Jeroen Oudheusden, FSI (The Floriculture Sustainability Initiative), Executive Officer)

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FSI事務局長 ユルン・アウトフースデンさんインタビュー 「FSIの活動について」2019年5月19日、オランダ アムステルダム ダッチ デザイン ホテル アルテミス
Interview with Mr.Jeroen Oudheusden, FSI (The Floriculture Sustainability Initiative), Executive Officer. Dutch Design Hotel Artemis, Amsterdam, the Netherlands.
内容は、2019年5月当時のもの。取材・原稿:青木恭子。FSIについてより詳しい内容は、「世界の花き認証」 参照。


FSI2020について

FSI2020(The Floriculture Sustainability Initiative)は、2020年までに、花きの90%を、社会及び環境に対して責任ある形で生産・流通させることを目標に、花き業界の25のステークホルダーが集まり、2012年に設立。欧州を本拠とする国際NGO。FSIは、2021年以降、「FSI2025」として、責任ある生産・取引・行動および統合報告(財務・非財務情報を合わせ、経営活動と持続可能性を包括的に社会に提示すること)を柱に、脱炭素や賃金水準の適正化など新たなゴールを追加し、精力的な活動を続けている。
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1 FSIに移るまで

(1) FSI創設の頃の状況

 FSIの関係者を通じて、FSIで働くことになった。2013年の立ち上げ以来、事務局長を務めている。私は創設者ではない。創設したのは、ケニア、エクアドル、コロンビア、オランダなどの20の組織だ。
 彼らがFSIを創立したのは、花産業のサステナビリティを懸念していたからだ。環境も労働者も十分に配慮されていなかった。何らかの対策を講じなければ、グリーンピースのようなNGOのターゲットになる。また、ミグロや大手量販からのプレッシャーもあった。
 グリーンピースの他に、HIVOSという社会的企業(注:FSIのメンバー)は、ケニア政府が女性を適切に扱っていないとして大きなキャンペーンを張っていて、メディアでも報道され、消費者は花の代わりに別のものを買うようになった。
 こうした状況は、花セクターにとって、大きなリスクとなる。そこで、FSIを立ち上げ、基準認証団体が協働し、要求水準のバーを挙げるとともに、透明性を高める仕組みにした。どこかで何かがうまく機能していなければ、改善を助ける。
 現在、FSIには54 以上の企業や団体が会員になっている。

(2) アールスメール卸売市場時代

 ユルンさんは、アムステルダム自由大学卒。アールスメール卸売市場に勤務した(フロラホランドでe-ビジネスを担当)。
 だが、彼らの戦略に賛成できなかった。会社が正しい方向に向かっているとは思えなかったので、離職した。今、卸売市場の業績は下がっていっている。
 また、私はオンライン顧客部門の担当で、もっと顧客経験を重視し、顧客志向に変えたかったが、組織が大きすぎ、官僚的でうまくいかなかった。顧客としては、今日はスポット市場、次はブローカー市場で買うとか、エキストラのサービスを必要としていたりする。顧客のニーズに応じて、組織も変えなければならないが、会社はマーケットや顧客の声を聞こうとしない。会社が大きくなりすぎ、1人がトップで、皆ボスの方ばかりみて、顧客の求めるものをみていない。
 私は、花業界を助ける仕事をしたかった。サステナビリティという点で、FSIはとてもいい。フラワーウオッチでも、しばらく働いた。
(編注:ユルンさんは、大田市場などで勤務経験あり。2年間日本在住で日本語が堪能)

2 オランダ政府と花き産業セクターを結ぶ

(1) オランダ政府社会経済審議会で、「責任ある企業行動」協定取りまとめ議長

 FSIと並行して、ここ2年半ほど、オランダ政府の社会経済審議会(SER)での仕事もしている。社会経済審議会は、オランダにおける最上位の諮問機関である(Sociaal-Economische Raad (SER,The Social and Economic Council) 。ここで、国連およびOECDの「責任ある企業行動規範のためのデューデリジェンスガイダンス」に基づく協定締結にむけて、花き部門の議長を務めている 。この会議は20社・組織のグループで、生産者、労働組合、市民社会組織、農業省、外務省、フロラホランドのような業界組織が加わって、半年前にスタートした。
 2019年の7月2日には、20のメンバーと共に農務省と外務省の大臣が署名し、OECDガイドラインと国連の原則に沿って、よりよい行動のための協定が締結される。協定には、MPSも参加している。協定締結は、将来的に大きなステップである。2019年の9月には、協定が発効する予定だ。企業や組織には、国際法を守り尊重し、良いビジネスを行う責任が、政府には市民の環境を尊重し、保護する責任が生じる。
 同時に、「デューディリジェンス」(Due Diligence、投資の決定に際し、投資先の事業、財務などリスクや価値、あらゆる情報を調査すること)に則り、サプライチェーンにおけるリスクの分析を行い、環境や社会に害を及ぼしそうな場合は、それを避けるため、やるべきことの優先順位をつけ、個別企業ごとあるいは、まとまった方が効果的な場合は共同で行動に移すことになる。
 この協定で特に焦点を当てているテーマは、「農薬の環境負荷削減」と、「賃金水準を上げ、(生活が維持できる)生活賃金水準を満たすこと」で、この2つの領域で作業グループごとに動いている。

(2) FSIとIDH(持続可能な貿易イニシアティブ)

 FSIは、国際的イニシアティブである。一方、この社会審議会の協定は、オランダ政府の施策だが、サプライチェーンが関連する点では国際的な面ももつ。オランダ政府はこの協定を支持している。金属、鉱山採掘、天然石、繊維など、サプライチェーンにリスクを抱えるコモディティについて、対処しようとしている。
 IDHは、オランダ政府関与の多国間政府・企業共同のパートナーシップによるサステナビリティ・イニシアティブで、FSIもこれに参加している。IDHとFSIは別の組織だが、関連は近く、緊密に協力している。IDHはよいパートナーだ。

FSIとIDH(持続可能な貿易イニシアティブ)(オランダ) 位置づけとパートナーシップ
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出典:FSIおよびIDHの資料を元に著者(青木)作成

3 認証のあり方が変わる:監査から、データ駆動型IPMへの移行をFSIが牽引

(1) 認証は保証ではない:FSIの役割

 認証は、生産者が記録文書を作り、スキームオーナーがその情報を共有して、継続的に農業の生産活動の改善を図るためにある。認証は同時に、市場での認知を得る機能もある。
 しかし、重要なことは、認証は目標ではなく、企業が害のある行為をしないと目的を示すものにすぎない。つまり、認証があるからといって、サプライチェーンの質が担保されるわけではない。一般的に、人は認証を害のある行為がないという保証だとみなしがちだが、それは違う。
 もしフェアトレードの認証を持っていたとしても、環境についてはあまり問われない。社会的要求についてもジェンダー平等の点で課題がないかどうかの保証はない。
 国連のガイドライン(編注:国連のビジネスと人権に関する指導原則(UN Guiding Principles on Business and Human Rights:UNGPsのことか)は、基準認証は、よい企業行動を支持する手段にはなるが、その保証にはならず、十分ではないとしている。

さらに言えば、認証はビジネスである。生産者が適応できる以上の速さでは進まない。認証は、法令より上でなければならない。小売の要求にも応えなければならない。また、消費者や世論、市民団体の影響も受ける。
 そういうわけで、認証機関はつねに、法令以上、生産者の対応能力、市場の要求、世論の動向からなる四角の内側のスペクトラムで揺れ動いている。そのために、認証機関は、皆に合わせようとして、少し低い水準に留まりがちで、物事をよりよくしていこうという内発的な力に欠けている。
 こういう理由で、FSI側は、市場の要求に耳を傾け、社会面と環境面で基準を設けた。その基準に従い、よいプラクティスのところと、あまりよくないところを分けて、良くないところには、基準に達するよう助けるのが、FSIの役目である。

(2) 監査からデータへ:認証のあり方の転換点

 FSIバスケットは、先週、変更が発表された(編注:FSIバスケットは、FSIに認められた認証スキームの集合)。従来の「社会」と「環境・GAP」の2グループから、「社会」「GAP」「環境」の3つのグループ構成になる予定である。
 GAPは法令遵守や農薬保管、保護具着用などベーシックな事項をカバーしているが、さらに重要なことは、IPMや記録管理だ。将来的に、基準や認証スキームにおいて、監査の重要性は下がり、継続的なデータに基づいて運用されるようになるだろう。
 すでに、監査は過去のものになりつつある。これからは、継続的なデータのチェック、記録、データ化に基づく、生産者およびサプライチェーンによる透明性確保が新たな標準になるだろう。
 FSIや私自身が、スキームや監査システムも変えることができるわけではない。そこで、FSIの新しい方向性として、記録、透明性、データ利用、残留農薬テストなど、すべての面で新しい基準を作り、各認証スキームを指導している。彼らが文書に署名したら、2年以内に(2020年)この新しい規制要件に従うことができるようにして、承認されれば、FSIバスケットの環境スコープに包含されることになる。

 一方で私は、現在、英国のマークス&スペンサーズ、テスコ、セインスベリ―、ドイツのエデカ、スイスのミグロなどの大手量販と検討を重ねている。彼らはこのアプローチが非常に気に入っている。彼らは1つの認証だけでは不安だと感じている。なぜかというと、現在の認証はブラックボックスだからだ。MPS-AでもMPS-SQの認証を持っていても、実際に法令遵守かどうか、農薬の使用量を削減しているか、(小売にとっては)確証はない。重要なのは、適切な記録管理がなされていることである。認証はよい管理ツールではあるが、サステナブルな行動の保証ではない。だから、小売側はデータを見たがっている。彼らは、使用農薬やエネルギー、肥料、さらに農場の労務管理のデータを見て、理解したがっている。
 データ所有を生産者に戻し、認証団体はデータを見て、生産者が次のステップをとれるように、助ける。監査では、監査の時だけ体裁を整えて済ませてしまう可能性もある。監査は残るが、将来的にはすでに残留農薬等のデータに基づいてわかっていることについて、確認する役割に代わるだろう。

 このように、認証の考え方が変化し、監査からデータへと重点が移っている。データ駆動型認証への移行に際し、FSI側では、「何を」記録しなければならないか、基準を細かく定めるが、「どうやって」つまり、データ取得の方法については、各認証団体に任せている。良い意味で、認証スキーム間の競争がある。この進め方は、非常にうまく機能している。

(3) データを基盤に、IPM、漸進的環境負荷削減へ

 最近、環境面での規制基準(編注:後で文書を送付してもらう予定)を設けて、現在、FSIバスケットの環境グループには、MPS-ABCとMPS-GAP、ケニア・フラワーカウンシル(KFC)、コロンビアのフロルベルデ・サステナブルフラワーズの3つの組織が登録した。レインフォレスト・アライアンスやフェアトレード、英国のBOPP、エチオピアのEHPEAなどは、どう対処すべきか考慮中である。しかし最大手の3つのスキームが入ることを決めたので、いずれ彼らも参加するだろう。認証の仲間同士の間でのピア・プレッシャーが働く。

エチオピアから帰った後、スイスの生協に対して、農薬に関するプレゼンテーションをする予定だ。彼らは、我々の農薬削減アプローチが気に入っている。小売の旧来のスタンダードなアプローチというのは、ブラックリストを見て、残留農薬の過剰をチェックしていた。それでは解決にならない。なぜなら、もし生産者がある農薬を使えなくなれば、別の農薬を使う可能性があるからだ。同じ量の害虫を駆除するのに、3~4倍の量を使うかもしれない。また、毒性のある物質を混ぜてカクテルにして使ったりすると、環境へのダメージはますます大きくなる。
 我々のアプローチは、IPM(総合的病害虫・雑草防除:耕種的、生物的、化学的、物理的な防除法を組み合わせて、害虫や雑草を低レベルに抑制する管理システム)である。ブラックリストや農薬残留量を基準にするのではなく、総合的に環境負荷を減らす。IPMに取り組むには、マインドセットを根本的に変えなければならない。生物的防除や病害虫の予察(scouting)の技術を用いる。
我々は今、エチオピア、中央アメリカ、オランダで、農薬の使用と環境負荷を減らす試験をしている。スイスの生協とドイツのREWE(レーベ)は、このアプローチの重要性を強く認識しており、FSIとともに特定のプロジェクトを進める予定である。これは次のステップだ。環境負荷を減らしていくには、データが不可欠だ。データがなければ、こうした漸進的な農薬削減アプローチは不可能である。
 この目標のためには、花業界に対し、透明性を意識し、データに関する所有と当事者意識を強め、新しい市場の要求に対応できるように準備させなければならない。
 最善の方法は、イエス、ノーで白黒をはっきりさせるのではなく、量販と討議しながら、プラクティスを改善していくことだろう。さらなる「カイゼン」だ。このアプローチは、今後数年で重要性を増すはずである。
 大事なことは、生産者自身が、何をすべきかについてもっと責任感を持つことである。フェアトレードやMPSの認証を持っているからといって、それ以上改善がないのではいけない。認証は、グッド・プラクティスを保証するものではない。新しい考え方では、認証は、生産者のデータの取得と記録、意思決定を助け、花き業界でデータを集め、改善のために努力することである。

(4) FSIバスケットの変更

● 環境領域の新設
FSIバスケットは、先週、変更が発表された。従来の「社会」と「環境・GAP」の2グループから、「社会」「GAP」「環境」の3つのグループ構成になる予定である。
新しく加わった「環境領域」では、元からバスケットに参加しているケニアのKFC、コロンビアのフロルベルデ・サステナブルフラワーズ認証とともに、新しくMPSが加わった。KFCとフロルベルデは、3グループの交点(それぞれの要求事項に対応した認証)になっている。

FSI認証バスケットの変更
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出典:FSI提供資料を元に著者(青木)作成

● MPS-ABCはGAPと組み合わせでバスケットへ
(MPS-ABC は旧FSIバスケットには含まれていなかった。その理由を聞いた際の答え)
MPS-ABCは、グッド・プラクティスへのリンクがなく、最低限果たすべきミニマム要求がない。達成すべきバーがなく、法への言及もない。農薬の記録をきちんとつけていればすべてOKであるが、望ましい農業プラクティスに触れられていない。農薬に関しては、購入記録、農薬保管、登録切れ農薬の処理、散布時の保護用具使用、散布は男性のみなど、私が思い当たるだけで20項目以上の決定的に重要な項目が、MPS-ABCには含まれていない。何かエキストラなことをする以前に、とにかくまず、法令遵守の項目が必要だ。

 3年ほど前に、MPSの経営陣の前でプレゼンテーションをしたのだが、オランダの法令水準は高く厳しいので、MPSはオランダでは理屈に合うし、法で規定する以上の内容をめざす管理ツールとして有効である。しかし、他国ではどうだろう。日本やケニアやコロンビアのような国では、法令の実効性ある執行が難しかったり、法律自体がなかったりする。法令自体が低い水準にある他国においては、MPSには課題が残る(不十分である)。
 そこで私は、MPSの取締役会に対して、参加者の法律順守を義務付けるGAPと、きちんとした記録管理を要求するMPS-ABCを組み合わせれば、非常によいシステムができるはずだとアドバイスした。それから1年くらい経ち、今は、まずMPS-ABCに参加していれば、オプションとしてMPS-GAPも取れるようになっている。MPS-GAPはFSIバスケットに入っている。こういうわけで、現在、オランダやドイツの生産者が大勢MPS-GAPを取得している。
 MPS-Aをとったとしても、MPSではキク、バラ、ユリなど栽培品目ごとに比較が難しい。キクのレベルとユリのレベルをどう比較できるのか。ある品目でMPS-Cであっても、他の品目のMPS-Aよりもレベルは高いということもありうる。これはMPS-ABCの「内部のゲーム」である。それは何の保証を与えるものではない。

 MPSの場合は、複数の認証を組み合わせなければいけない。新しい環境スコープの中では、ケニアのようなリスク国では、今までは満たすべき基準は、社会と環境の両方だったが、今後はGAPも加えた3つの基準をクリアしなければならなくなる。バーをさらに上げている。FSIのGAP領域は、グローバルG.A.P.だけに限らず、MPS-GAPやフロルベルデのGAP関連基準全般を含む。 (編注・MPS本部の販売部門統括マネージャー、Remco Jansen氏への聞き取り調査によれば、将来的には3つのカテゴリーは統合され、1つになる構想だという。同氏は、FSIバスケットは認証間のハーモナイゼーションに有効に働いており、競争より協調して動いており、FSIはとてもうまくいっていると語っていた)。

(5) 2020年以後

 FSIは、2020年までに90%の花きを持続可能にという目標で活動してきた。2020年で活動が終わるわけではない。次の段階に向けて、準備を進めて、新しい戦略を立てている(編注:Remco Jansen氏も、「FSI2020は始まりに過ぎない」と言っていた)。もちろん、メンバーが続けることに興味を持ってくれればの話で、興味がなければ2020年で終わるが、今のところ、メンバーは関心を持ってくれているので続くだろう。
 FSIロゴも、FSI2025に向けて、新しくしなければならない。実は、このロゴは、ユルンさんの娘さん(21歳)がデザインしたものである。娘さんはデザイナーで、写真も上手い。

4 日本の花産業と花輸出

(1) 日本の花のリスク

● 透明性に欠ける日本の花は、リスクが大きい
日本は生産者の高齢化で、難しい面はあるだろう。しかし、たとえばイオンのような大手の場合はどうか。イオンは、大きなサステナビリティー・キャンペーンをしている。
コロンビア、ケニアやエクアドルなどの生産者は、データ中心に透明性を示す運営モデルに移行している。だから、日本の生産者から花を買うイオンのような大手は、より大きなサプライチェーン上のリスクに直面するだろう。花がどこから来るのか、サプライチェーン上のデータに欠ける日本の花は、他国の花よりリスクが大きいことになるからだ。

● 輸入・調達面での日本のリスク
日本の花輸入も変わるだろう。大手の量販は、サプライチェーンの透明性を求めるようになる。クラシックや他の輸入会社を通して入ってくる花について、「ケニア産の赤いバラ」ではなく、透明性がわかる「〇〇農場の赤いバラ」を選ぶようになるだろう。
他の生産国はコンプライアンスを重視し、法令に則り、環境に配慮して生産された花々を市場に出している。日本はそうした対応をしないと、残った品(環境や社会に配慮していない花)しか調達できないリスクにさらされる。サプライチェーンの透明性は、データを中心にして担保されていく。
イオンは全体的な透明性をめざしている。昨年、リマ(ペルー)でグローバルGAPの会議で、イオンのサステナビリティに関するプレゼンテーションを聞いたが、とても優れていた。

(2) 輸出の困難:日持ちJAS認証は機能しない、FSIメンバーは日本の花は買わない

● 取りうる方策:包括的システムを作り、MPSとGAPを接合
(日本の花きの認証スキームの俯瞰図の紹介。日持ち認証2つと輸出用のJAS日持ち品質認証の3つがある一方、国際認証のMPS-GAPを除き、国内で妥当な価格のGAPがなく、法令遵守、労働安全、環境対応(MPSは参加者数が少ない)などの分野はカバーされていないことを説明したうえでの、ユルン氏の答え)
法令遵守や労働安全などの分野をまとめて、包括的なシステムを作り、GAPのプラクティスとMPS-ABCを接合するのが、MPSジャパンの役割なのではないか。オランダや他の国でも、同じやり方で対処してきた。それしか方法はないのかもしれない。

● FSIメンバーは、2020年以降、日本の花を購入することはできなくなる
日持ち認証というのは、品質だけを扱っているようだ。日持ちは確かに大事だが、人や環境も重要だ。日持ちだけしか扱っていないJAS認証では、輸出は難しいだろう。それは機能しない。
すべてのFSIメンバーは、もはや、日本の花を購入することはできなくなるだろう(All FSI members will not be able to buy any Japanese products anymore)。
私のところには、南アフリカやオーストラリア、ニュージーランドの生産者団体からも、問い合わせが来る。彼らもまた、FSIバスケットの原則について心配している(編注:取材から約10日後の2019年5月31日、南アフリカのSIZAサステナブル農業基準が、FSIバスケットの社会領域に参加)。
どこの生産者でも、FSIバスケットの要求水準を満たしていなければ、2020年以降、ダッチ・フラワーグループを通じて、大手卸売市場や大手の取引先に花きを売ることはできなくなる。彼らは(FSIバスケットの)認証のない花は、もう買わなくなる。  

● 環境に悪い花は、花き業界全体のイメージにリスク
(高級専門店でも、販売は無理かとの質問への答え)
専門店であっても同じことだ。私はオランダで、生産者とさんざん議論した。彼らは非常に毒性の強い農薬を使い、非常に美しい花を生産している。彼らは、その強い農薬がなければ、花は栽培できないという。私は彼らにはっきり言い渡した、「2020年以降、世界は、完全に、あなたたちの花なしでやっていく。花は自然からの贈り物だ。化学農薬は自然にはよくない。失うものばかりだ。そういう花は買わない。あなたたちは破産するだろう」
 強い農薬を使っての生産はクレイジーだ。生産者を辞めるか、別の花を作るか、解決法を見つけるかだ。そんな花は、FSIメンバーや、ヨーロッパの国は買わない。
それでもどこかにマーケットはあるかもしれないが、花き業界のイメージに対するリスクになるだろう。強い農薬を使った美しい日本の花、これをブーケに入れて母親に贈るだろうか?他のすべての生産者が環境負荷を減らし、透明性を確保しようとしているところで、一人の生産者がそれに従わなかったとしたら、その生産者は花き業界全体をリスクにさらすことになる。これは花市場への新しい見方だ。
環境保護団体のグリーンピースは、市販の花をジューサーにかけて、ラボで成分分析して公表する。環境に悪い農薬が検出されたら、花業界全体に大きなダメージとなる。

● OECDのガイドラインに従わなければ、日本政府にもリスク
日本の花のJAS認証は、政府認証でも、日持ちにしか焦点を当てていない。政府が、OECDのガイドライン で定められた義務を履行せず、環境と人々を尊重し保護しなければ、どうなるか。
日本政府はOECDのガイドラインに署名している。また、国連の「責任ある企業行動指針」(行動規範)を遵守する立場にある。その同じ政府が、これらの行動規範に従わず、責任ある調達原則にも対処していないとするなら、日本の政府に問題があることになる。

(3) アルディでキク販売停止:農薬の知識豊富な量販に、生産者は負ける

 何か新しい考え方を始めるには、数年かけてでも、まず少なくともアジェンダを創り出すことである。次のステップは何か、自分の観察、市場やNGO、政府、主な取引先のしていることをよく見て、何が次のステップかを考えることだ。基準を定め、データを集め、透明性を確保し、法令を遵守する方向で、ステップを踏んでやっていけばよい。  もしアジェンダがなければ、どうなるか。グリーンピースは日本の安代(あしろ)のリンドウを手に入れて、化学農薬の残留をテストし、問題が出れば公表して、「日本の花は買うな、世界の環境を汚染しているから」と発信するだろう。
 ドイツやオランダ、イギリス、スイスなどでは、大手量販はみな、入荷するすべての花の残留農薬をチェックしている。花き業界側でも、生産者のレベルで残留農薬の試験をして、知識の水準を上げて備えなければならない。小売は今や、毒性のある農薬について、非常に知識が豊富になっている。生産者は何も知らない。小売と生産者の間には、いまはバランスがない。小売と議論したら、常に生産者は負ける。
 量販のアルディの担当者は、「もしキクの生産者が、農薬について次のステップをとらなければ、我々は欧州中のアルディでキクの販売を止める」と言った。しかし、キクの生産者はしかるべき対応をとらなかったので、アルディは実際に、2019年の1月18日以降、キクの販売を止めた。ユリやバラ、他の花はあるが、キクはなくなった(編注:オンラインのページにはキクがある。特定の生産者・団体のキクを止めた、ということか?)。量販がこういうスタンスをとるようになっているので、対策をとろうとしない生産者は困るだろう。

(4) 処方箋 アジェンダを持ち、ステップを踏んで進めること

 なすべきことは、まずアジェンダをもち、ステップを踏んで進めていくことだ。生産者を助けて、ソリューションを見つけ、量販と討議して、生産者と小売との関係にバランスを見出すことだ。小売と話し合い、生産者が「対応をとるから、2年待ってくれ」と言えば、小売も納得するだろう。
 これは口で言うほど簡単ではない。オランダでも、小規模な生産者は認証を取らないし、問題もある。
 市場の観点からすれば、環境に悪い花でも、売ることはできるかもしれない。しかし、人間の視点からすれば、我々は、花や植物は、環境や社会や他人の犠牲の上に生産を続けるべきではない。だから、そのような方向に、生産者を助けていかなければならない。
 花き産業は、循環(サーキュラー)的システムの下でなされるべきであり、また気候変動にネガティブな影響を与えるものであってはならない。10年以内には、疑問はなくなるだろう。バラをとって、食べ物の上に飾って(食べて)もよくなるだろう。
 ゲームのルールを変えなければ、我々は負けるだろう。

(5) アジアの花

 東南アジアのキクは、国内向けでも中国や日本向けでも、何の認証もいらない。しかし、認証のない花は、もうヨーロッパや北米の市場には売れなくなるだろう。日本は日持ちしか気にしないなら、日本に売れということになる。しかし、花業界としても、個人としても、これではゲームの敗者である。
 ベトナムのダーラット・ハスファームのように、認証を取得し、記録管理もきちんと行い、改善を重ね、よいプラクティスを積み重ねている会社もある。こういう会社なら、欧米にも売れるだろう。

(6) 花は自然からの贈り物

 花き産業は、サーキュラーで気候にもポジティブなシステムに変わらなければならない。花は自然からの贈り物だ。自然から搾取したり、自然の犠牲の上に成り立つものであってはならない。そんな気持ちで取り組んでいる。
 私が日本に行ったとき、28歳だった。日本で学んだことは、非常によい経験だった。
 現在、私のネットワーク、自分の知識、知人、一緒に働いているグループ、FSIとオランダの社会経済審議会での仕事のコンビネーション、すべてがパワフルで、いろいろうまく事が運んでいる。

参考資料 1 主なFSI会員 (インタビュー当時)

生産・輸出団体、卸売市場小 売認証、資材等NGO、公益団団体
ADOMEX(葉物輸出)アホールド・デレーズクリザール(処理剤等)AIPH(国際園芸家協会)
Afri flora (エチオピア・バラ生産)アルディDudutech(ケニア、IPM技術)BSR her +project(女性地位向上、国際NGO)
Ancef(イタリア花き輸出入業者協会)BRO(スウェーデン 花き小売 Interflora AB)フェアトレード・インターナショナル(認証)Hivos(平等、サステナビリティ国際NGO)
Anthura(ラン・アンスリウム協会)efloristFlower trade consult(花き取引、コンサル)パートナー・アフリカ(英国 倫理的貿易)
Ascolflores(コロンビア花き輸出協会)FLEUROP-INTERFLORA(スペイン 花小売・配送ネットワーク)フラワーウオッチ(オランダ 花き日持ち品質管理)WWF(スイス 世界自然保護基金 国際NGO)
BGI(ドイツ花卸売・輸入貿易協会)イケアGlastuinbouw(オランダ温室園芸技術) 
ダッチ・フラワーグループPflanzen Kölle(ドイツ 園芸植物生産、ガーデニングセンター)グローバルG.A.P.(認証) 
Decorum(オランダ 花き生産者協同組合)Royal Lemkes(オランダ 園芸植物流通)グリーンヤード(ベルギー 生鮮青果・花き流通サービス) 
デュメン オレンジ(種苗)toom(ドイツ REWEグループDIYストアKoppert(生物学的防除技術) 
E.Den Dekker(オランダ 花き貿易)Waterdrinker(オランダ 花き、園芸植物販売)LTG Glaskracht(オランダ 花き、温室栽培技術開発) 
EHPEA(エチオピア園芸生産輸出協会) MPS(認証) 
Expoflores(エクアドル花き生産者・輸出業者協会) ラボバンク(オランダ農業協同組合銀行) 
FleuraMetz(オランダ 花きサプライヤー) Tuinbranche(オランダ ガーデニング協会) 
フロラホランド(花市場) Verdel(オランダ 花小売卸売ソリューション) 
Floriculture orchidaceae(ラン協会)   
Holla Roses(エチオピア サステナブル バラ生産)   
KFC(ケニア・フラワーカウンシル)   
Marginpar(オランダ アフリカ産花輸入)   
Pfitzer(オランダ 切花輸出入、園芸)   
Royal Van Zanten(オランダ 種苗、栽培)   
Salm Boskoop(ポルトガル、オランダ ラベンダー、植物生産販売)   
ユニオンフローレス(ベルギー 花き国際取引促進協会)   
VGB(オランダ花き仲卸・買参者連盟)   

出典:The Floriculture Sustainability Initiative (FSI)をもとに、筆者(青木)作成

参考資料 2 日本と世界の花き認証 課題領域のカバー状況

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注:日本のMPS-GAP(2018年秋導入、国際認証・審査員海外のため割高)、またフェアトレード、有機の花もあるが、いずれもまだほとんど普及していない。MPSは国際認証のため、「世界」に分類。
作成:青木 (2019)