花小売店の顧客満足度 2021年JCSI日本版顧客満足度生花店カスタム調査 農林水産省実証事業 (Customer satisfaction survey on flower shops:2021 JCSI Japanese Customer Satisfaction Index custom survey)

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サービス業としての花小売店の水準を顧客の立場から客観的にとらえ、中小の経営体の多い花業界に対して、現場での改善や経営方針策定のためのデータを提供することを目的に、農林水産省の資金を得て、顧客満足度調査を企画した。業種横断的な比較ができるよう、公益財団法人 日本生産性本部の協力を得て、日本最大級の消費者調査であるJCSI日本版顧客満足度調査(Japanese Customer Satisfaction Index)の枠組みを用いて、カスタム調査を実施した(JCSI公式調査ではない)。花小売、特に対面販売店を対象にした大規模な顧客満足度調査は、おそらく世界でもほとんど例をみない。わかったことは…

  • 日比谷花壇は、花小売のみならず、日本の主なサービス企業の中でも、突出して高水準の顧客満足を得ている 高価格であっても、コスパ評価は量販を凌ぐ
  • 青山フラワーマーケットは、顧客評価からみれば、品質を誇る「専門店型」+利便性に秀でる「量販型」の折衷業態である。このモデルには、さらなる市場機会があるのでは
  • ホームセンターのカインズは、コスパが顧客満足に直結しやすい
  • スーパーはお供え需要が3~4割を占めるものの、季節性なども重視されている 顧客満足向上には、品質知覚を上げることが先決
  • どのチェーンでも、利用者の2割程度は何らかの不満を抱えている。不満の芽を早期に摘む努力と、クレーム対応制度(たとえば日持ち保証販売)の整備が急がれる


引用について

顧客満足度調査には、小売やホテルなどがサービス改善のために独自に行うアンケート調査から、専門のリサーチ会社が多業種の企業について行う大規模なものまでさまざまある。今回用いたJCSI日本版顧客満足度調査は、米国版顧客満足度調査(ACSI)のスキームに準拠しており、世界の同種の調査と共通の枠組みを備えている。長年、数多くの企業で実務に生かされ。そのシステムは広く信頼されている。
調査結果の引用は自由だが、JCSI公式調査ではないことと、企業の広報宣伝への利用は、許されていないことに注意して、引用者の責任で利用してほしい。
引用時は出典を記載してほしい。 例「出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)」
なお、花を扱う小売業態は多様で、上位集中度が低い業界構造であるため、この調査結果を直接的に業界の代表値とはみなすことはできない。また、調査は個別企業のランキング付が目的ではない。実践がよく知られた有力チェーンを取り上げ、データを提示することで、花店や花業界はじめ、長期的な公共の利益に資することを願って、企画した。
CS調査報告_本文リンク_Link_report


1 概要

(1) 概要

 花小売のサービス業としての水準を把握し、顧客満足の構造を明らかにすることを目的に企画。日本生産性本部サービス産業生産性協議会(SPRING)に依頼して、日本最大級の消費者調査であるJCSI日本版顧客満足度指数(Japanese Customer Satisfaction Index)の枠組みによるカスタム調査を実施した。JCSIとして発表される公式調査ではない。農林水産省実証事業次世代国産花き産業確立推進事業の一環として実施。SPRINGからは、ローデータと主要6指標の合成スコアの提供を受けた。企画、集計、分析は筆者(青木)。

 対象企業:花小売専門店2社、量販店(花売場)4社(青山フラワーマーケット、日比谷花壇、カインズ、イオン、ヤオコー、コープみらい) 
 日時:2021年2月26日(金)~ 同3月3日(水)
 調査方法:インターネット・アンケート
 回答者:日本国内の20~70代男女、全1611名。回答企業で、直近1年間に2回以上購入した人。各社300人前後。コープみらいは93人と少ない。

図表 回答者数、属性

 対象企業回答者数 n構成比 %同居率 %男:女 %平均年齢 歳首都圏一都三県 %有配偶率 %
 全 体1611100.0%88.6%39:6152.762.3%75.4%
1青山フラワーマーケット30719.1%84.4%39:6144.981.1%65.8%
2日比谷花壇31019.2%85.2%38:6251.867.1%68.1%
3カインズ30919.2%92.2%51:4952.340.5%77.7%
4イオン31919.8%89.7%34:6656.428.2%79.6%
5ヤオコー27316.9%91.6%32:6856.487.5%82.8%
6コープみらい935.8%90.3%31:6959.487.5%88.2%
注:3.カインズ~6.コープみらいについてはいずれも、店舗内の生花売場での会計を伴う利用について尋ねている。
出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(2) 質問項目

 顧客満足指標、感動指数・失望指数、品質評価項目(サービスのポイントごとの評価)、不満対応評価、口コミ人数(肯定・否定)
 この店を選ぶ理由、よい点・よくなった点、コロナ対応
 購入内容、利用頻度、1回当たりの利用金額 など

2 利用状況

(1) 購入回数、購入内容

 最近1年間の購入回数をみると、全体では、年2回が31.5%、年3~4回のユーザーが45%を占める。スーパーでは、自宅に飾ったりお供えの仏花等の定期的購入が多いと思われ、月1回以上買う人が1割を超える。
 購入内容は自由回答で記入されているため、コーディングし、テキストマイニングを行った。選択式ではなく、購入内容を網羅的に把握できるわけではない。全体では、仏花など日常のお供え関連の購入への言及が23.6%と多い。青フラでは、「アレンジ・ブーケ」が3割、「バラ」(5.6%)に人気。日比谷花壇では「プレゼント用」が8%以上、ギフト需要が目立つ。「誕生日」はじめ、お祝いの場の演出に選ばれている。お供え品購入は青フラでは2.6%、日比谷花壇では5.5%で、量販と対極をなす。

図表 購入内容 花小売全体

順位購入内容度数全体に占める割合
1生花61137.9%
2お供え・墓参り38123.6%
3アレンジ・ブーケ18411.4%
4鉢物935.8%
5バラ815.0%
6花の名(主要品目以外)774.8%
7プレゼント533.3%
8苗物513.2%
9カーネーション503.1%
10観葉植物412.5%
出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(2) 購入頻度

 最近1年間に2回以上会計をした人が調査対象のため、年1回はゼロ。年2回が31.5%、年3~4回が45%。ライトユーザー(年2回以下)、ミドルユーザー(年3~11回)、ヘビーユーザー(年12回以上)と分類すると、ヘビーユーザー(月1回以上)は青フラ2.6%、日比谷花壇4.2%に対し、スーパーでは1割を超える。

図表 購入頻度 ライト/ミドル/ヘビーユーザーの割合

購入頻度

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(3) 1回当たりの利用金額

 1回当たり平均購入金額(試算)は、日比谷花壇が5,735円で群を抜く。2000円以下~20000円以上の11段階で回答、隣接する選択肢間の中央値を出して算出した。全体平均は2690円で、4000円以下が8割。量販では7~8割が2000円以下。質問票は最低価格帯が2000円の設定(変更できない)で、特に日常使い中心の店では上振れしている恐れがあり、参考値である。
 日比谷花壇では、2000円以下~20000円まで、幅広い価格帯に分散して顧客が付いており、「1回20000円以上」の高額購入者も3.2%いる。日常使いから高級ギフトまで、異なる用途・セグメントの顧客を、バランスよく引き付けていると推測される。

図表 最近1年間の1回当たり購入金額

1回当たり購入金額

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


図表 1回あたり購入金額平均(参考値)

 購入金額(円/回)
全体2,690
青フラ2,837
日比谷5,735
カインズ1,893
イオン1,796
ヤオコー1,462
みらい1,366
注:平均購入金額は、2000円以下では1000円、それ以上は隣接する価格帯の中央値(例えば「2000円」と「4000円」の中央は「3000円」)、20000円以上は21000円として計算。下限が2000円以下と高めに設定されているため、仏花など日常使い中心の店では実際の支出額と乖離する可能性がある。
出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


3 顧客満足の構造

(1) 因果モデル

 顧客満足6指標(事前期待、知覚品質、知覚価値、顧客満足、ロイヤリティ、推奨意向)を基本に、顧客満足の「因果モデル」が用いられる。

 顧客期待:花店の商品・サービス水準に対する規範的期待、企業ブランドへの期待
 知覚品質:主観的な品質評価
 知覚価値:時間的・金銭的コストに対する主観的品質評価、価格への納得感、コストパフォーマンス、値打ち感
 顧客満足:全体満足、選択満足、利用による生活満足
 推奨意向:クチコミ(顧客満足の効果)
 ロイヤルティ:将来の再購入意向、関連購買、購入頻度拡大、選択時の第一候補(顧客満足の効果)

 このモデルでは、顧客期待、知覚品質、知覚価値の評価がお互いに結び付いて顧客満足につながり(原因系)、満足・不満足の結果として、推奨やロイヤルティに影響を及ぼす(結果系)という「因果」の連鎖が想定されている。この流れに沿って、顧客満足の構造が定量的に示される。指標間の影響関係も数値化でき、業態ごとの顧客満足の構造が可視化される。こうしたフレームワークは、世界的に普及している。
 主要6指標算出のベースとなる設問(21問)は全業種共通で、各指標3~4問のスコアを合成し、100点満点に調整した指標値を得る(SPRINGの独自アルゴリズムで算出)。顧客満足6指標の設問はサービス業全体で共通なので、業種・業態を超えて、満足度比較やベンチマーク先評価を可能にしている。

(2) 顧客満足度

 花小売店の顧客満足総合スコアは、73.8(100点満点)。
 日比谷花壇は顧客満足度(80.8)をはじめ6指標すべて首位で、全方位でまんべんなく強い。ホテルや飲食など他のサービス関連のトップ企業に比肩する水準。品質知覚が駆動力となっているが、知覚価値についても、高い客単価にもかかわらず、量販を凌駕している。知覚価値は、金銭的・時間的コストと品質を比較考量したパフォーマンス評価で、質に対する割高/割安感を示す。
 青フラのスコアは、日比谷花壇(専門店)と量販の中間的なポジションにある。青フラの顧客満足度は75.4、知覚品質は75.7で品質の高さが認められている一方、知覚価値は全体平均を下回っており、コスパ評価はやや弱い。
 量販では、カインズの顧客満足度(72.2)が最も高い。専業2社が全体を引っ張り上げる構図になっている。量販は、品質に対する評価がやや低位にある。
 ロイヤルティは忠誠という意味で、顧客が継続的に利用して利益をもたらしてくれそうかどうかの目安となる。財やサービスの性質(例:コモディティ)、アクセスなどの要因による表面的なロイヤルティと、内的な愛着心を伴う真のロイヤルティがある。利用理由等を参照しながら判断が必要だろう。

図表 顧客満足主要6指標 平均スコア

 顧客期待知覚品質知覚価値顧客満足推奨意向ロイヤルティ
全 体71.571.371.873.868.668.8
青山フラワーマーケット75.875.771.275.472.270.7
日比谷花壇80.878.877.380.776.676.1
カインズ69.268.671.172.267.668.7
イオン67.366.869.570.463.964.3
ヤオコー65.768.370.371.464.165.7
コープみらい65.565.470.470.363.163.0


平均スコア グラフ

CS6指標グラフ

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)



(3) スコアの分布

 上のスコアは、「平均」である。次に、回答を10階級に分けて、分布をみてみる。この度数分布表(ヒストグラム)は、今回の報告の中で最も重要な図表の一つであり、この分布の形を頭に入れておくと、後の結果はだいたい想像がつく。
 量販では上から3番目~真中の階級に山があり、「中」くらいの満足層が中心である。
 一方、日比谷花壇の顧客満足は、最上位、上位2階級(トップ2)が突出して高い。青フラの顧客満足分布は、品質に優れる専門店と利便性重視の量販の混合型で、最上位層(2割)と中満足層の2つのピークがある。推奨意向など、他の指標の分布を参照すると、この傾向はもっとわかりやすい。

図表 スコアの度数分布表(ヒストグラム)

顧客満足度

度数分布表_顧客満足度

推奨意向

度数分布表_推奨意向

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


量販が取りうる一つの戦略は、顧客満足度の分布を青山フラワーマーケット型の構造に変えていくことかもしれない。そして、バックキャスティングにより、この目標に至るための個別施策を考える。量販では現在、顧客満足の高いTop1層は、一桁台にとどまっている(12%~17%)。彼らがどんな顧客かを知り、この比率を青フラ(21.5%)なみの2割に高める。同時に、中程度に集中している顧客満足度の分布を、少しずつ右方向に移し、全体の満足の水準を上げていく。

(4) サービス業全体における、花小売の水準

 花小売トップ(日比谷花壇)の顧客満足度は非常に高く、サービス業として他業界・他業種に遜色ない。品質や価値(品質を考慮した価格パフォーマンス)、顧客満足、推奨意向、ロイヤルティ(継続利用)ともに首位。全方位で、まんべんなく強い。
 JCSIの枠組みでシティホテルや外食などサービス業の他業界と比較したところ、日比谷花壇の顧客満足度(100点満点で80.7)の水準は、サービス産業全体で俯瞰しても、トップクラスにあることがわかった。顧客満足度では、最上位の満足層が最多。コストパフォーマンス評価は量販を凌ぐ。日比谷花壇は、サービス業としての基礎が確実で、花小売店の優れたモデルの一つである。

図表 サービス産業の顧客満足6指標 花小売店と他業界・他業種 トップ企業とスコア(JCSI2020年度調査より抜粋)

CS指標_業界比較JCSI

データ:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会(SPRING)「JCSI 日本版顧客満足度調査」(2020年度) 資料より抜粋して作成し、SPRINGの許可を得て掲載。花小売はカスタム調査。花以外はJCSI公式調査の結果で、上位企業のランクは公開されている。


(5) 実店舗 vs ネット・通販

 購入店の自由回答を元に、ネット・通販利用者を抽出した。日比谷花壇はEC化が進んでおり、ネット利用率は9%に上った。青フラは1%(3人)、量販ではコープみらいで通販1名のみ。
 ネットの顧客満足度は、実店舗を上回る傾向が認められる。ネット利用者間では、特に事前期待のスコアが顕著に優位で、ブランドに信頼を置く高関与な客層と言えるかもしれない。一方、日比谷花壇では、ネットの推奨意向は、実店舗をやや下回る。お悔みのネット利用があり、口コミを増やすとは答えにくいかもしれない。

図表 主要6指標 実店舗 vs ネット・通販

ネットvs実店舗

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(6) 顧客満足の構造

 顧客期待 →、知覚品質・知覚価値 → 顧客満足 → 推奨・ロイヤルティまでの指標間の影響関係の強さを、構造方程式モデリングにより分析した。ダイアグラム(パス図)の数値(パス係数、原則±1.0の範囲内)は、変数の影響の強さを表す。日比谷花壇では、品質 → 顧客満足に至る総合効果が0.84と高い。品質が優れていると知覚されるとともに、品質 → 価値の経路のパス係数が0.84と突出(他の企業は0.7前後)している。品質評価のスコアが高位にあり(78.8)、「コストを凌ぐ品質」と納得感を伴って総合的な満足度がブーストされているのが、日比谷花壇の顧客満足の構造である。
 カインズは、他社と比べて、価値 → 顧客満足の直接効果(0.63)が強い。言い換えると、顧客満足はコストパフォーマンス駆動型といえるだろう。イオンは、知覚品質 → 顧客満足への直接効果(0.41)が相対的に高く、知覚品質(66.8)を上げていけば、顧客満足の向上に寄与すると予測される。

図表 顧客満足の構造 パス図 日比谷花壇、カインズ、イオン

SEM_日比谷花壇

SEM_カインズ

SEM_イオン

R言語(Lavaan package)使用
出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


4 感情の指数化

(1) 失望指数

「感情指標」は、利用時の失望と感動の度合(各10段階)を複数尺度で尋ね、スコア化したものである。うれしい驚き、ワクワク感といったポジティブな感情は、顧客満足をブーストしうる一方、失望や怒りのようなネガティブな感情は一気に満足度を下げ、蓄積されてきたよい評価を台無しにしてしまいかねない。  失望指数は、「がっかり」、「いらいら」、「苦痛」、「つまらない」、「腹立たしい」、「不愉快」、「心配」の7項目で構成される。10点満点。スコアが高い方が、失望が深い。
 日比谷花壇は全体的に失望度が低い。特に「がっかり」(2.3)、「つまらない」(1.9)が抑えられている。他の5社では、「がっかり」2.7~3.0、「つまらない」2.2~2.5と、失望感がやや目立つ。
 量販4社と青フラは、スコアの傾向が似ている。コロナ禍では、店舗の環境や商圏の広さ、他の客の行為などの要因により、不愉快や心配を招くケースも想定される。

図表 失望指数
失望指数

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(2) 感動指数

「びっくり(良い意味で)」、「うれしい」、「楽しい」、「興奮(良い意味で)」、「感動した」、「わくわく」、「リラックス」、「安心」、「穏やかな」の9項目。スコアが高い方が、感動の度合が高い。 感動指数においては、花小売専門店2社と、量販4社との違いが顕著である。日比谷花壇と青山フラワーマーケットの専業2社は、「楽しい」(日比谷7.2、青フラ7.1)を筆頭に、感動が多次元にわたり、深い。花店のサービスは、利用者に、高水準の情緒的充足をもたらしているようである。

 青山フラワーマーケットは失望指数では量販と、感動指数では専門店(日比谷花壇)と傾向が似ている。
 量販の感動指数は4~5点台にとどまる。わくわく感はじめ感動の演出について、大きな開拓余地が残されている。感覚的充足感は、コモディティである仏花等ではなかなか満たせそうにない。バラエティや雑貨を好む顧客もいるので、「うれしい」や「楽しい」など高めたい感情要素を定め、企業のコアバリューと整合性を保ちつつ、デザインやMDと連動して訴求していくような統合的戦略を練るべきかもしれない。

図表 感動指数
感動指数

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(3)「感動」は、推奨意向とロイヤルティ(継続利用)を強める?

 花専門店では、感動の次元が広く深い。感動指数の9つの項目を合成し、「感動」として指標化して、試験的に顧客満足主要6指標の因果モデルに組み込んでパス解析を行い、影響関係を可視化してみた。矢印の方向が因果で、係数の値が大きいほど影響関係が強いとみなす。
 暫定的な結果から考えられるのは、「感動は主に品質評価を押し上げ、顧客満足に寄与する」、また「感動は口コミ(推奨意向)を若干高める方向に働く」という可能性である。日比谷花壇は、感動から品質へのパス(0.33)がやや強く、感動が品質知覚に響いていると推測できそうである。

図表 感情の顧客満足への影響 パス解析 日比谷花壇、量販4社(参考値)

日比谷花壇

感情SEM_日比谷花壇


量販4社(n=994)

感情SEM_量販4社

R(Lavaan package)使用
出典:青木恭子(2021)『花小売 顧客満足の構造』国産花き日持ち性向上推進協議会(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


5 サービス品質(SQ、Service Quality)評価

(1) サービス業として備えるべき基礎体力

 サービス品質評価(SQ)は、サービス提供プロセスに沿って、顧客満足に影響するポイントを可視化し、改善につなげる狙いがある。情報提供、店舗の機能性、清潔さ、スタッフ、品揃え、顧客対応、品質管理など、サービス業として押さえるべき基礎体力的な事項が網羅されている。今回の調査のSQでは、専門小売店の実店舗向け汎用設問が用いられている。集計に当たっては、ネット・通販利用と思われる回答者は除いた(n=1577)。7点満点。
 顧客満足が高い企業は、基礎的品質項目の一つ一つで、着実に要諦を押さえる。日比谷花壇は、34ある項目のほとんどでトップで、特にスタッフの態度や振る舞いについては、抜きん出ている。
 青フラで最も高い項目は「交通の便がよい」ことで、これは利用理由の自由回答結果と符合する。カインズは、表示やPB・オリジナル商品など、商品関連の項目で強みを発揮している。

図表 サービス品質(SQ)評価(汎用項目、7点満点)
SQ_サービス品質項目7点満点

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(2) 花小売店向けSQ

 花小売店カスタム設問として、「少量でも買いやすい」、「鮮度の良さ」、「エコな花・植物」、「季節感ある旬の花・植物」、「日持ちの良さ」の5項目を追加した。実店舗、ネット合わせ全員対象に集計している。7点満点。 「少量での買いやすさ」(平均5.3)では、イオンが5.5で最もスコアが高い。「季節感のある旬の花」(5.3)の扱いについては、青フラと日比谷花壇の評価が拮抗している(5.6)。 「鮮度のよさ」(5.2)は、日比谷花壇が高い(5.6)。「日持ちの良さ」(5.0)も、日比谷花壇(5.6)のみ高水準。一方、青フラ(5.1)と量販(4.6~4.9程度)は大差ない。
 ネット・通販(3社)の日持ち評価は、実店舗を下回る。ただ、ネットはギフトや慶弔の特別な日向けが多く、日持ち品質の最適化基準や評価軸は自宅用と異なるかもしれない。

図表 花小売店向け SQ スコア一覧表(7点満点)

花小売 品質項目全体青フラ日比谷花壇カインズイオンヤオコーみらい
n161130731030931927393
少量でも買いやすい5.35.35.15.45.55.45.3
鮮度の良さ5.25.35.65.04.85.14.9
エコな花・植物4.64.65.04.74.44.44.3
季節感ある旬の花・植物5.35.65.65.15.05.04.7
日持ちの良さ5.05.15.64.94.64.94.6
出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(3) エコな花・植物

「エコな花・植物」の評価は、高いとは言えない。7点満点で4.6、日比谷花壇のみ5.0とやや上だった。そもそも、「エコ」を標榜する、あるいはそれを裏付ける仕組みに準拠して売られている花・植物は、日本の実店舗にはほとんどない。それでは、「エコ」は、どの段階でどう評価されているのか。日比谷花壇を例に、主要指標との影響関係をモデリングしたところ、エコは、推奨意向やロイヤルティとは一定の相関があることがわかった。「エコ」は、顧客満足までのサービス評価のメイン経路を通らずに、何か別の潜在因子を経て、推奨意向を上げる方向に作用する可能性がある。 現状では、現実の商品やサービスに対する評価というより、漠然と、社会貢献活動、植物の生命力を象徴的に喚起する店舗空間や、企業イメージのハロー(後光)効果など、さまざまな要素が渾然一体となった評価にとどまっていると推測される。

**図表 「エコな花」評価と、顧客満足指標の関係(日比谷花壇)

エコな花 CS指標相関図

注:数値はSpearman順位相関係数。いずれも.1%水準で有意。0.4以下は低い相関、0.4~0.7は相関関係ありとみなされうる水準。
出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)

6 不満対応

(1) 花店利用者の2割程度は、何らかの不満を感じている

 いずれの企業においても、利用者の2割前後は、最近1年の利用で、何らかの不満を感じたことがある。しかし、不満を誰かに伝える人は、不満を感じた人の4人に1人程度にとどまる(回答者全体の5.6%)。 あとの4分の3 (全体の16.3%) は、不快感や違和感、失望感を抱きつつ、沈黙している。不満の芽を小さいうちに摘み、対応していくことは、顧客満足度調査の一つの役割である。

図表 最近1年間の利用で、不満を感じた割合 (全体、n=1611)

最近1年間利用時の不満(全体1611)

出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


(2) リカバリー品質

 クレームへの迅速かつ的確な対応は、顧客の不満を鎮め、悪評や顧客離脱を防ぐ。これは「リカバリー品質」と呼ばれる。リカバリーに最も貢献するのは、「適切な返品手続き」(7点満点で5.4)で、プロセスの透明性や納得感が大切である。
 日持ち保証販売は、クレーム対応+リカバリー品質向上=顧客満足のための仕組みとして、再定義できる。日持ち保証販売は、顧客満足の観点から見れば、「顧客の不満を吸い上げ、クレーム対応とリカバリー品質の向上を織り込んだ仕組み」である。日持ち保証販売を、顧客満足とロイヤルティ向上のための施策として再定義すれば、経営方針上の位置づけがより明確になるだろう。

図表 クレーム対応評価 (全体、「不満を伝えた」人対象 n=91)

  nスコア(7点満点)
 不満を伝えた 計91 
1連絡先の提示745.0
2迅速な問題解決795.1
3適切な返品交換、補償695.2
4適切な返品手続き725.4
5対応の適切さ915.3
出典:国産花き日持ち性向上推進協議会(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)


7 利用理由、優れた点

(1) この企業を選ぶ理由

 利用理由と優れていると思う点について、自由回答を形態素解析、コーディングして、テキストマイニングを行った。
 花小売全体では、「近い」こと(22.7%)が利用理由の首位。量販の回答者が多いため、「ついで買い」(12.5%)も有力な理由で、アクセスや利便性が上位を占める。
 利用理由をクラスター分析し、樹形図(デンドログラム)に図示した。近い関係にある語(コード)が線で結ばれ、クラスター(塊)として色分け表示されている。併合の段階が早い方が、類似が強い。左の横棒は、語の出現頻度を表す。「花」や「良い」は、それ自体は汎用的な語だが、どんな文脈で、どんな語と共起するかを調べるためにコード化してある。樹形図を見ると、「花」という言葉は、まず「日持ち・鮮度」と、次いで「品揃え」と結びついてクラスターを形成し、続いて「かわいい」「きれい」のような情動と連なっていく。

 日比谷花壇の選択理由の特徴は、「信頼」(13.9%)や「ブランド」(12.0%)という語に象徴されると言ってよい。量販では、近さや価格、他の買い物と一度で済ませられることなど、機能面での利用理由が上位に来やすい。ホームセンターのカインズでは、「近い」こと(27.3%)が最大の利用理由である。イオンでも、「近さ」(25.8%)や「ついで買い」(24.4%)ができることが、利用理由の上位を占める。

図表 利用理由(全体)

利用理由 上位語(全体)
順位利用理由 頻度(%)
1近い22.7%
215.7%
3買い物ついで12.5%
4良い10.6%
5アクセス・立地8.6%
6価格8.4%
7便利6.7%
8品揃え6.5%
9自宅3.5%
10日持ち・鮮度3.4%


利用理由 クラスター分析 樹形図 (全体)

利用理由_樹形図_全体

KHCorder使用
出典:青木恭子(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)、国産花き日持ち性向上推進協議会


 青山フラワーマーケットの利用理由としては、「アクセス・立地」(24.1%)、「近い」(17.2%)、「便利」(8.9%)など、利便性が上位を占めた。次いで「おしゃれ・センス」の良さ(11.0%)、「アレンジ・ブーケ」(6.2%)。「珍しさ」(1.4%)は少数。利用理由と顧客満足の程度との関係を、対応分析により可視化した。顧客満足度のスコアに応じて、上位2層(Top2 = 80点以上)、中位4層(Mid4 = 40~79点)、下位4層(Low4 = 0~39点)に分類した。そして、顧客満足の度合と、利用理由として挙げられた言葉を、同時に2次元平面にプロットした。青フラのTop2層には、接客、ディスプレイや雰囲気など、店舗での感性的な顧客体験の魅力が響いていると思われる。主な利用理由である「アクセス・立地」は度数(円のサイズ)が大きく、中程度の満足層と近いポジションに重なっている。

図表 利用理由(青山フラワーマーケット)

利用理由 上位語(青山フラワーマーケット)
順位利用理由 頻度(%)
1アクセス・立地24.1%
2花      21.3%
3近い17.2%
4良い14.4%
5おしゃれ・センス11.0%
6便利8.9%
7品揃え6.9%
8アレンジ・ブーケ6.2%
9好み・気に入る5.2%
10きれい・素敵4.8%
利用理由と顧客満足度 対応分析(青山フラワーマーケット)

利用理由_対応分析_青フラ

KHCorder, R言語使用
出典:青木恭子(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)、国産花き日持ち性向上推進協議会


(2) この店の優れている点

 優れている点として挙げられるのは、全体では「品揃え」(21.4%)や「接客」(12.2%)が最上位。「きれい・かわいい」(10.1%)、「低価格・手頃」(9.9%)が1割程度ある。  青フラは、品揃え(18.8%)が、アレンジ・ブーケ(17.2%)と一体で評価されている。キッチンブーケなど一連の作り置きブーケは、サイズ、バリエーション、価格設定のわかりやすさ、選びやすさ、手軽さ、都会の生活シーンにマッチした提案力など、多面的に支持を集めている。店頭のディスプレイ、接客など、店舗空間における顧客体験の演出も好感されている。
 日比谷花壇では、「接客」(18.5%)や「仕立て」(9.5%)のように、スタッフの技術とコミュニケーション力が優れているという評価が際立つ。オーダーしたブーケの出来栄えについては、「期待を超える」という表現が見られた。ただし、ここではコーディング・ルールは全体のものを適用しており、多様な感情表現を含む内容の定量化には改善を要する。
 カインズは、自社独自商品を含め、品揃えの豊富さ(36.5%)に対する評価で群を抜く(6社全体では21.4%)。
 イオンでも品揃え(23.1%)が上位に来る。特に、夕方以降や物日、コロナ禍の最中でも欠品が少なく、商品のボリュームが維持されていると指摘するコメントがいくつもみられ、調達力が優れているとみなされている。「きれい・かわいい」や「接客」をよい点として挙げる利用者が、それぞれ1割程度いることにも注目したい。

図表 優れている点 上位語(青山フラワーマーケット、日比谷花壇、カインズ、イオン)

順位青フラ頻度(%)日比谷花壇頻度(%)カインズ頻度(%)イオン頻度(%)
1品揃え18.8%接客18.5%品揃え36.5%品揃え23.1%
2接客18.0%質が良い16.4%低価格・手頃17.1%低価格・手頃13.2%
3アレンジ・ブーケ17.2%品揃え12.1%生花7.2%きれい・かわいい10.9%
4きれい・かわいい17.2%きれい・かわいい9.9%新鮮7.2%接客10.4%
5センス・おしゃれ16.4%生花9.5%接客6.3%生花9.9%
KHCorder, R言語使用
出典:青木恭子(2021)『花小売 顧客満足の構造』(受託先:日本生産性本部 サービス産業生産性協議会)、国産花き日持ち性向上推進協議会


8 まとめ

(1) 花小売上位企業の顧客満足度は非常に高く、サービス業として他業界・他業種に遜色ない

 トップの日比谷花壇は、品質や価値(品質を考慮した価格パフォーマンス)、顧客満足、推奨意向、ロイヤルティ(継続利用)ともに首位。全方位で、まんべんなく強い。JCSIの枠組みで他業界と比較したところ、日比谷花壇の顧客満足度(100点満点で80.7)の水準は、サービス産業でもトップクラスにあることが明らかになった。楽しさやワクワク感など情動的充足を伴う顧客体験が、高い満足をもたらす駆動力として働く。
 ネット販売の比率も1割はあるとみられ、実店舗とほぼ同レベルの優れた評価を得ている。低価格から高価格帯まで、幅広く顧客が付いており、回答者の利用1回当たりの顧客単価は5735円で突出しているが、価格やコスト以上の価値があると納得感を持って受け止められており、コスパ評価は量販をはるかに凌ぐ。
 サービス品質項目(SQ)の水準も、30数項目の一つ一つで着実に高く、高い顧客満足を下支えする、サービス業としての基礎体力の充実を物語る。花小売の優れたモデルの一つとして、ベンチマーキングに値する。

(2) 花専門店~量販の中間業態には、市場機会がある

 青山フラワーマーケットは、花専門店と量販の中間的なポジションにある。顧客満足度の分布をみると、全体の2割を占める最上位(90点以上)の満足層と、「中の上」の満足層との、2つのピークがある。「中の上」に山があるのは、花小売における量販のパターンと一致する。個性的でバラエティに富む品揃えや、クリエイティブなディスプレイ、優れた接客で、専門店として独自の文化を築き、幅広い層から好感を持って受け入れられているうえ、ロイヤルなファンを引き付けている。その一方、利用理由の上位を占めるのは「アクセスの良さ」である。プリパックのブーケの手軽さ、選びやすさが好評で、顧客層の重心は利便性重視の「中の上」の満足層にある。こうした配分で、総体としては、日比谷花壇に次ぐ水準の顧客満足度を実現している。青フラを専門店と量販の折衷業態の成功モデルの一つととらえ直せば、品質、コスパ、利便性をバランスさせる連立方程式の立て方次第で。さまざまな市場機会が開かれると考えられる。量販側からの折衷モデルもありうるだろう。

(3) 量販店の顧客満足向上には、品質知覚の底上げが鍵になる

 量販店では、購入内容をみるとお供え用・墓参りの比率が3~4割を占めている。お供えの安定調達と一定の品質水準の維持は依然として重要であるものの、高い満足にはつながりにくい。量販店の利用理由は、利便性や価格、ついで買い、品揃えが上位にくる。
 カインズでは、コスパが顧客満足に直接影響しやすい。一方、スーパーでは、季節感や楽しさなど感性的な充足を重視する顧客が多い。しかし、花を買ってわくわくした、うれしかったという情動的充足が弱く、品質評価の推進力を欠く。
 量販、特にスーパーにおいて、顧客満足の向上を図るうえで重要なのは、青フラとは反対に、知覚品質の底上げを通じて、品質に対する価値の知覚水準を上げることだと考えられる。イオンは花店の選択肢が少ない地域にもあり、必ずしも価格志向でない顧客層が含まれる可能性がある。イオンでは相対的に、品質の知覚が顧客満足に直接的に影響しやすい。

(4) 「感動」は、推奨意向とロイヤルティ(継続利用)を強める?(仮説)

 花専門店では感動の次元が広く、深い。うれしい、楽しい、わくわく、リラックスなど9つの感動要素をまとめ、合成指標化して、顧客満足との関連をモデル化したところ、あくまで暫定的な分析ではあるが、感動は、主に品質評価を押し上げ、顧客満足に貢献するのではないか、また、感動は、特に推奨意向を若干高める方向に働くのではないか、と推測される。

(5) 花店利用者のうち、2割程度は、何らかの不満を感じている

 いずれの企業においても、利用者の2割前後は、最近1年以内の利用時に、何らかの不満を感じたことがある。しかし、不満を誰かに伝える人は、不満を感じた人の4人に1人程度にとどまる(回答者全体の5.6%)。 あとの4分の3 (全体の16.3%) は、不快感や違和感、失望感を抱きつつ、沈黙している。

(6) リカバリー品質: 不満への適切な対処には、手続きへの納得感や透明性が大切

クレームへの対応が迅速かつ的確なら、顧客の不満が鎮められる。これは「リカバリー品質」と呼ばれる。クレーム対応の巧拙は「リカバリー品質」を左右し、対処が優れていれば、悪評や顧客離脱を防ぐ緩衝となりうるだけでなく、顧客満足やロイヤルティが以前より強まる場合もある。花小売店において、リカバリーに最も貢献するのは「適切な返品手続き」(7点満点で5.4)で、手続きへの納得感や透明性が大切である。
日持ち保証販売の普及度はまだ低いが、クレーム対応+リカバリー品質向上=顧客満足とロイヤルティ向上のための施策として再定義すると、経営における位置づけが明確になり、その重要性がより明確になるのではないか。

(7) サービス業としての「基礎体力」:顧客満足の高い会社は、サービス品質項目の一つ一つを、着実に押さえている

 サービス品質項目(SQ)は、スタッフの顧客対応、品揃え、陳列、利便性、価格や表示の適切さ、情報提示、サービス提供体制など、サービス業としておさえるべき基礎的な品質項目(数十項目)のリストである。サービス提供の流れに沿い、顧客満足に影響する具体的なポイントを可視化し、改善や経営方針の検討につなげる狙いがある。顧客満足に成功している会社は、一つ一つの品質項目において、確実に評価が高い。サービス業としての基礎体力の充実が、顧客満足を下支えする。

(8) 環境対応(エコな花)は、現状では未開拓で評価は低いが、推奨意向を上げる可能性がある(データは、報告書参照)

 環境対応は未開拓な分野であり、現時点で、商品・サービス評価のコアな回路を通じて、顧客満足度との関連を検証できる段階にはない。「エコな花・植物」の評価は、全体に高いとは言えない。むしろ、企業の社会的貢献活動のように、利用経験の周辺領域で、企業イメージのハロー(後光)効果を含むと推察される。現状では、エコの評価は品質や価値の評価とは結びつきが弱く、推奨意向と正の相関があるらしい。

9 「顧客満足」以前の課題

(1) まず、従業員の幸福を

 顧客満足は、企業が価値を提供し、それを支持してくれる顧客との関係を大切にし、顧客と共に価値を育てていくというプロセスの中核にある。価値を伝える活動を、顧客との接点で担うのは、個々の従業員である。経営学の研究では、従業員はパートナーであり、従業員満足は顧客満足と連動していることが指摘されている。顧客満足を追求するなら、まず、スタッフの満足度を上げることが先決だろう。
 従業員の満足(ES)と幸福は、顧客満足に影響を及ぼす。従業員満足には、扱いの公平さ、職場の働きやすさ、創意が生かせる環境、金銭的待遇など、様々な要素がある。花店の現場の仕事は、肉体労働、頭脳労働であるうえ、顧客の前では同調・共感と同時に、自己の感情の抑制や忍耐が要請される感情労働でもある。創造性も求められる。顧客満足を追及するなら、何よりも先に、現場の負担増ややりがい搾取につながらないように、配慮が必要だろう。

(2) 花の「品質」は多元的

「品質」は多次元であり、品質の「知覚」が顧客満足を左右する。他の農産物と比べて、日本の花は、産地や生産方法等の情報やアイデンティティを欠いたまま、売られていることが多い。社会環境認証やGAPが普及しておらず、環境、生物多様性、人権に対する配慮や法令遵守に関して、その裏付けも表示もない。この面での品質基盤は脆弱である。対応を誤ると、品質の知覚や企業イメージを傷つけてしまう。

図表 花きの品質次元

品質次元内 容
外的品質形態、色、サイズ、香り、均一性、健全性、活着、物理的・生理的障害や病虫害の有無
流通品質納期、納品量、安定供給(量、質)、希少性、信用、情報提供
環境・社会品質環境配慮(化学農薬・肥料削減、IPM)、労働者の安全、人権保護
経営品質経営戦略、経営の健全性、管理能力、法令遵守、ガバナンス
知覚品質顧客・消費者が知覚する品質
情報品質生産・流通情報の活用、デジタル化、情報提示、コミュニケーション
出典:青木恭子(2019)『世界の花き認証 ~環境・社会認証の普及と多元化する「品質」』、国産花き日持ち性向上推進協議会、に加筆。
外的、流通、環境・社会品質については次の文献を参考。鶴島久男(2003)「栄養系花き苗の品質と品質管理」『農業および園芸』(養賢堂)第78巻第10号、1140~1146頁。土井元章(2016)「花卉の品質管理技術の発展と課題」今西英雄他『日本の花卉園芸 光と影』、ミネルヴァ書房。


 海外では、花きでも認証やGAPを取引条件とする小売が増えてきた。世界の花き貿易のハブである欧州では、FSI (The Floriculture Sustainability Initiative)が中心となり、「花きの90%をサステナブルな生産・流通に」「カーボン・フットプリントの削減」という数値目標と達成年を掲げ、世界の花き業界や政府・国際機関、NGOとのパートナーシップで活動している。日本でも、2020年、政府によるビジネスと人権に関する行動計画が出された.環境や人権配慮の責を負うのは、量販など大手企業やその直接の取引先だけではなく、国内外の二次、三次、中小の間接的取引先や、小規模自作農を含めて、サプライチェーン全体で対応を求める動きが加速している(OECD-FAOガイドライン)。ただ、日本の花業界では、GAPや環境認証の存在の意味が深く問われることなく、輸出に必要という文脈で理解されているきらいがある。FSIの方針は貿易上の基準認証のルールに織り込まれていることも影響している。しかし、一義的には、GAPも環境認証も、地域や産業、自然、人すべて含めた総合的な「エコシステム」の持続性のために必要なものである。輸出しないならこうした取り組みが不要というわけではない。もし、環境や他者の幸福を損ないかねない形で生産・流通されていたとしたら、その花は「高品質」と言えるだろうか? 5年後、10年後にも、そう言えるだろうか? 日本においても、もし持続可能性についての意識が高まれば、環境配慮や公正は、新しい「品質」次元を構成するようになるかもしれない。食品やコスメ、アパレルの一部ではその兆しがある。

(3) 価値と文化

 顧客満足度を測る質問は、顧客が自分の選択に満足したか、生活が豊かになったかということであり、抽象度が高い。調査で知ろうとしているのは、突き詰めれば、その企業が真の価値を生み出しているかどうか、その価値が言語化され、顧客にしっかり届き、顧客がコミットメントしてくれて、一つの文化を醸成するに至っているかどうか、ということにほかならない。
今顕在化していないニーズをどう創るかについて、顧客満足度調査が、直接の回答を与えてくれるわけではないが、顧客との関係を構築していくための示唆は与えてくれるだろう。





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