花店利用者調査2024年~3.スクリーニング調査から 10店・業種の推奨意向(NPS)、推奨に響くポイント、環境対応資材へのプレミアム価格受容性 Flower shop customer survey 2024: Customer Evaluations

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「花店利用者調査」2024年版、要約3回目はスクリーニング調査から。花・植物を販売する10店・業態について、休眠・離脱客を含む利用経験者を募り、他者への推奨意向(NPS, Net Promoter Score)をキーに、顧客評価と推奨に響く項目を分析する。また、包装材等の資材を、バイオや再生材など環境対応に置き換えた場合、どれくらいの価格増を受容可能かについても調べた。
対象店・業態は、日比谷花壇、青山フラワーマーケット、花専門店、イオン、ヤオコー、スーパー、カインズ、ユニクロフラワー、花と雑貨などのコラボ店舗、オザキフラワーパーク(東京・練馬区の大手ガーデンセンター)。回答者は関東圏在住の20~50代。 2024年1月末実施。スクリーニング調査の本来の目的は本調査の対象店3店の最近1年以内の利用者を抽出することだが、その過程で用いた設問への回答にも有益な情報が含まれている。調査概要はページ下部参照。
Results from the 2024 Japan Flower Shop User Survey are in. The surveyed shops include Hibiya Kadan, Aoyama Flower Market, and Aeon. This summary focuses on flower shops’ customer evaluations, measured by Customer Satisfaction indices and NPS (Net Promoter Score) .
簡易版報告書(2024年事業報告会プレゼンファイル=詳細版は後日公開予定_Presentation material(Full report in preparation)


● 顧客推奨度(NPS, Net Promoter Score)

NPSとは

NPSは顧客推奨度といって、企業やブランドへの愛着や信頼度を表す指標である。商品・サービスについて、他人にどれくらい勧めたいかを0(最低)~10(最大)まで11段階で尋ねる。顧客満足度よりも収益との結びつきが分かりやすいと指摘するデータが出てきている。また何よりも1問で済み、計算も簡単なので、最近、顧客の評価を調べる際には、NPSが一般的になっている。

今回は、推奨度についてはNPSを採用した。スクリーニング段階で用いたのは、本調査3企業以外のブランド・業態と比較できること、また、休眠・離脱ユーザーの評価もわかるからである。なお、複数店利用者は、いずれか1店・業態をランダムに指定して答えてもらっている。
NPSスコアは、
推奨度(NPS)= 推奨者(0~10段階中、上位2段階の9,10と答えた人=TOP2)の割合ー批判者(0~6までの評価)の割合
である。「TOP2」に当たる強い支持層の厚みが、ブランドの熱量を表す。「推奨者」は熱量を湛えたロイヤルティの高いユーザーで、ブランドの伝道者とみなされる。
「批判者」は10段階で0~6までと広く、不満を抱えた層だけでなく、中程度の評価まで含まれることになる。
最後に、10段階で7~8、つまり「上の下~中の上」程度の評価者は、「中立者」と呼ばれ、スコアには直接カウントされない。というか、分子には乗らない。しかし、全体の一部として分母には含まれるため、NPSスコア上、「中立者」はどちらかと言えばネガティブに働く。それなりの品質で、コスパも考えて工夫して、平均的にはお客さんたちは満足してくれていたとしても、熱量ある支持層を築けないと、NSPではいま一つふるわない評価になってしまう。

さらに、日本では回答傾向が控えめと言われ、マイナスになりやすい。「このブランドは 自分は大好きだけど、価格やテイスト面で、あの人にはどうかなあ」などと、他者の嗜好まで配慮した末、「8くらいにしておこうか」と抑えた評点になってしまうと、NPSスコアは下がる。日本では、社内で工夫して顧客アンケートを取ったものの、NPSスコアを出してみて がっかりする担当者が少なくないのではないか。ちょっと気の毒に思う。

結局、NPSは、スコア単独でなく、どんなポイントが推奨に影響しやすいか、とか、利用頻度・購入額など収益に関わる要因との関係など、他の項目とセットで分析することに主眼を置いた方がいいと私は考える(なお、NPSは単価や頻度など収益に関わる項目との結びつきが認められるという研究が出てきているので、花店でも別の機会に試みてみたい。ただ花は商材として大きすぎ、用途も購入者の傾向も多様で、ざっと見たところ、まだ意味ある結果は見いだせていない)。

花店については、スクリーニング段階では10店・業態の利用経験者すべてに尋ねている。たまたま10年前、20年前に1度だけ利用したきり、というような回答者も少なからず含まれていると推測されるため、下の図では、最近1年以内の利用者についての結果を示す。スコア自体は上に書いた事情でマイナスになりやすいため、ここでは敢えて示さない。計算は簡単なので、気になる方は自分で計算してみてほしい。結果はあまり気にしないでほしい。また、本調査回答者に絞れば、NPSスコアは改善し、日比谷花壇では推奨者が批判者を上回っており、プラスになっている。

図表 NPS顧客推奨度 10店・業態 最近1年以内の利用者 SC_NPS_active10_2024


図表 NPS 本調査対象店(現ユーザー) SC_NPS_active3_2024


● 推奨に影響を与える項目

次に、推奨に際し、どんな要因(10項目)が、どのくらいプラス あるいは マイナスに働いているかを尋ねた。各項目について、「1.非常にマイナスに影響している」から「10.非常にプラスに影響している」まで、10段階で答えてもらっている。

一見して、花の小売では、「価格」「コスパ」では差別化が難しいということがわかるだろう。そんな中、ユニクロフラワーは 頭一つ抜き出ている。
オザキフラワーパークは、利用経験者は27名と少ないのだが(スクリーニングが主目的なので、重複店利用者は本調査回答店に優先配分し他という事情もある) 、さすがに苗・観葉植物から花木、山野草まで、扱う植物のバラエティの幅・深さにおいて東京でも群を抜く店だけあって、「品揃え」が他を抑えて最も高い評価となっており、推しを駆動している。イメージや品質でも強みがある。興味深いのは、「スタッフへの声をかけやすさ」では5.9と、スーパーの花売場と並んで評点が最低になっていること。ある意味、品揃えの豊かさゆえの結果と思われる。私はオザキフラワーパークに行くたび、必ず何鉢も買い込む(そうせずにいられない)が、曜日や時間帯にもよるものの、ケアの仕方を聞きたくても、スタッフがなかなか見当たらない。非常に知識豊かでも人数が少ないので、他のお客さんに応対中だったり多忙そうだったりする。
量販、特にスーパーでは 「品揃え」がネックになりやすい。イオンは平均に近いが、スーパー一般では「品質」「サイズ・ボリューム」とスタッフの知識・スキルなども課題領域と映る。

図表 推奨に影響を与える項目
SC_NPS_point_2024


推奨への影響について、10段階の評価をポジティブ/ネガティブに大別し、可視化してみた。推奨に「非常にプラス」の上位2段階TOP2(9,10)、「ややプラス」(6~8)、および下位5段階(1「非常にマイナス」~5まで)のマイナス評価の比率を対比している。

いずれかの店・業態の利用経験者全体についてのグラフを見ると、デフレ時代が続いたこともあってか、全体では「価格」のネガティブな影響は突出はしていない。ここではむしろ、スタッフの接客・スキルの評価の「非対称性」に注意を払っておきたい。つまり、スタッフ関連は、推奨にマイナスに影響しやすい一方、プラスで高い評価を得るには、ややハードな項目であるようにみえる。サービスの中で、難易度の高い領域と言えるかもしれない。

図表  推奨影響項目 ポジティブ/ネガティブ 全体(過去のユーザーを含む利用経験者)  SC_NPS_negpos_all_2024


本調査の3店の現ユーザーに限って分析した。ネット販売には当てはまらない項目があるため、ネット利用者(リアル店舗併用者含む)は除いて集計している。
日比谷花壇の実店舗の現ユーザーでは、4割弱が「品質」が「推奨に非常にプラス」と答えている。「イメージ」も大きく寄与している。「スタッフのスキル」の貢献度では「非常にプラス」が3割にも上り、他の追随を許さない。

青フラの場合、ホームユース比率が高いこともあってか、顧客の目は「価格」や「コスパ」に厳しい。「イメージ」はとても良く、日比谷花壇と同程度に推奨にポジティブな影響を与えている。物日など混みやすい店があるためか、スタッフへの「声のかけやすさ」は評価が分かれるところ。

イオンは以上2社と対照的に、「価格」や「コスパ」よりも、「品揃え」や「日持ち」の方が 推奨にはマイナスに働いている。「スタッフの知識・スキル」については、店舗のタイプ・時間帯にもよるが、スタッフが不在で相談できない場合もあるという事情を考慮すべきだろう。

図表  推奨影響項目 ポジティブ/ネガティブ 現ユーザー  SC_NPS_negpos_Hibiya_2024

SC_NPS_negpos_AFM_2024

SC_NPS_negpos_AEON_2024


● 環境対応資材の受容価格

花束(1000円)に対し、環境資材を使った場合、どれくらいの価格アップを受け入れてもらえそうか?
「ロスや廃棄品の再生材」、「生物由来資源(バイオマス)素材」、「リユースやリサイクル可能なデザイン」、「土中で生分解される花生けスポンジ(フローラルフォーム)」、「減農薬で育てられた花・植物」、以上5種類について、受け容れ可能な上乗せ額について回答してもらった。回答は、上述の10店・業態を利用したことのない人含む全員に尋ねている。

全体では どの環境資材でも、受け容れられるのは 平均30円台前半増までである。しかし、本調査3店の現ユーザーに限ると 40~50円台なら受容可能。減農薬の花・植物なら、増分は平均約50円アップ程度となる。

図表 環境資材 平均割増受容額 花店非利用者含む全体、本調査回答者 SC_Eco_WTP_mean_2024


実際に値付けする際には、平均額よりも、何円までなら何割の人が払ってくれそうか、その分布の方が重要だろう。
価格帯ごとの受容額の分布を見ると、非購入者を含む全体では 半数弱が 「0円」、つまり慣行品と同額で、環境資材であっても何のプレミアム価格も認めない。一方、1000円の花に対して、100円増しまでであれば、4割強の人が何らかの上乗せ価格を受け容れるという結果になっている。

しかし、本調査回答者(現ユーザー)に限ると、環境資材に対し何らかの割増額を示した人は7割程度となり、負担自体への抵抗感は薄れる。特に、日比谷花壇の利用者の間ではプレミアムの受容幅がやや高く、1割弱の人が 150円以上の上乗せ(「150~200円増」と「201円増~」の合計)を許容している。資材別では、減農薬の花・植物に対して、青フラと日比谷花壇では、150円以上割増でもいいという層が11%にのぼる。つまり、この1割強の顧客は、慣行品に対して15%以上のプレミアムがのることについて、理解を示してくれている。
こうした資材への転換により、花の生産消費に関わるどんな課題が、どう改善や解決に向かっていくのか。徐々にサステナブルな実践が浸透し、それが当たり前となる日に向かって、適切な説明とコミュニケーションを積み重ねていくことが求められる。

この調査でも、コスパや価格は利用者の評価の焦点の一つであることは明らかで、花の値付けは悩ましさを増している。もちろん、サステナブルな資材や花の導入は、一義的には単価アップを目指すものではない。とはいえ、価格動向と花産業の持続可能性という2つのベクトルの間で、どんな均衡点を見出すのか。価格戦略にも、それぞれの花店の方向性が問われていくのではないか。


図表 環境資材 割増受容額の分布 花店非利用者含む全体
SC_Eco_WTP_dist_all_2024

図表 環境資材 平均割増受容額 本調査回答者 SC_Eco_WTP_dist_HibiyaAFMAeon_2024



調査概要(スクリーニング調査)

・日時:2024年1月29日(月)~31日(水)
・調査方法:ネットモニター・アンケート(インテージ)
・対象企業・業態(スクリーニング):日比谷花壇*、青山フラワーマーケット*、花専門店、イオン*、ヤオコー、スーパー、カインズ、ユニクロフラワー、花と雑貨などコラボ店、オザキフラワーパーク(いずれも花・植物とその関連商品コーナー対象、*印は本調査対象店) ・回答者:関東一都六県在住20~50代男女。スクリーニング調査(7020名)で該当者を抽出、本調査に回答依頼。スクリーニングについては、4984名分を納品・分析(データクリーニング後)。
・主な調査項目:利用状況、用途別利用金額、NPS(推奨度)、推奨に影響を与える項目、環境資材の価格プレミアム。
・農林水産省の実証事業として、国産花き生産流通強化推進協議会が実施(令和5年度持続的生産強化対策事業のうち「ジャパンフラワー強化プロジェクト推進事業」)。
・企画・調査設計・分析および報告:ゲルダ・リサーチ 青木恭子
花店利用者調査2024年_報告=作成中_Link_full report_in preparation


目的

・小売の視点から、物流負荷低減に貢献しうる川下ニーズを探る。
・花小売店の業態別利用状況と、利用者の評価を把握する。
・花店の顧客が重視するポイント別に、顧客評価への貢献度、底上げすべき点を明らかにする。
・環境対応資材・花きに対する価格の受容性を調べる。

対象企業・業態 回答者数

スクリーニング回答者数 n構成比男:女平均年齢有配偶率東京都比率 
単位n
全 体4984100.051 : 4941.746.235.3 
        
注:20~50代男女で関東一都六県在住者を対象


引用について

引用は、基本的に自由。ご自身の責任でご活用ください。(以下、引用例をいくつか挙げますが、この通りでなくても結構です)
・出典:国産花き生産流通強化推進協議会「花店利用者調査 2024年」
・(著者の意見・解釈に関する場合は以下でも可)出典:青木恭子(2024)「花店利用者調査」国産花き生産流通強化推進協議会
・Source: Aoki, Kyoko (2024) Flower shop customer survey 2024: Purchasing behaviour and customer evaluations by business category. Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement.

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本調査は、農林水産省の助成で実施された。 This research was funded by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan, and conducted by the Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement. Gerda Research was commissioned to do the survey.