花の消費選好2023年~No.3 ホームユース切り花の価格感度、母の日の花贈り Consumer Preferences for Flowers Japan 2023 - No.3 Price sensitivity for home use cut flowers and Mothers Day flower gift
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花の消費選好に関する2023年版データ。旧「花の消費動向調査」の後継版。ポイント解説第3回目は、ホームユース切り花の価格感度と、母の日の花贈りについて。
価格感度(季節の花・10本程度の花束)を測ると、全体平均では3700円程度で「高い」と感じ、「安い」と思いはじめるのは、1370円を下回る頃から。自宅用の実購入者に絞ると「安い」は1775円、推定購入額(商品の限定なし)は1966円。
母の日の購入頻度は「ほぼ毎年贈る」が21%。「2~3年」「4~10年」に1回が 12%ずつ。母の日の花贈りについては「感謝」「うれしい」などポジティブなコメントが多い。カーネーションに対しては、一択への違和感と満足が混在。
実施概要はページ下部に掲載。調査は、農林水産省の資金により、国産花き生産流通強化推進協議会が実施した(令和5年度持続的生産強化対策事業のうち「ジャパンフラワー強化プロジェクト推進事業」)。
Japanese Consumer Preferences for Flowers: 2023 Edition - Report 3. Price sensitivity of home-use cut flowers and Mother’s Day flower gift.
We mesured the price sensitivity of seasonal flower bouquets (10 stems). On average, consumers consider a price of around 3,700 yen as “high” and perceive it as “affordable” when it drops below 1,370 yen. However, for actual buyers of home-use flowers, the “affordable” threshold is approximately 1,775 yen, with an estimated purchase amount of about 1,966 yen. Concerning Mother’s Day flower purchases, around one fifth of respondents give flowers “almost every year.” Those who purchase flowers “every 2-3 years” and “every 4-10 years” account for approximately 12% each. When it comes to carnations, there is a mixed sentiment of satisfaction and weariness due to the limited choice, as carnations are perceived as the only flower option.
Funding for this research was provided by the Ministry of Agriculture, Forestry, and Fisheries in Japan. The study was conducted by the Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement, with Gerda Research being entrusted with the task of analyzing the survey.
花の消費選好 2023年_報告書_Link_report
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6 ホームユース切り花の価格感度
(1) 自宅用季節の花束(10本)の設定で、価格感度を聞く
ホームユースを、需要分散=川下での物流対応の一手段ととらえ、その普及を図るうえで、主要なネックとなっている「値付け」をどう設定すべきか。価格高騰の折、悩ましさが募りがちではないだろうか。そこで、「自宅用・季節の花・10本程度の花束」という想定で、生活者の価格感度を探ってみた。
「高さ25~40㎝程度、季節の花を中心に10本前後入った自宅用の花束」に対して、次の4つの価格について数字で答えてもらい、生活者の心理的受容価格幅を調べた。
「高すぎて買えない」と思いはじめる価格(上限30000円)
「高い」と思いはじめる価格
「安い」と思いはじめる価格
「安すぎて買いたくない(品質が疑わしい)」と思いはじめる価格
まず各価格の平均値を求め、以前に紹介した花の購入状況のデータと合わせて分析。また、購入価格帯から平均購入額を試算して、購入経験・用途別に、受容価格の幅を比較した(購入価格帯の質問では、季節の花10本という指定はしていないため、平均購入額は参考値)。
(2) 受容価格
全体では、平均6000円弱で「高すぎて買えない」、 3700円程度で「高い」。
「安いと思いはじめる」のは 1370円くらいから、ということがわかった。
図表 価格感度 全体
自宅用の花の実購入者に絞ると、もう少し許容範囲が上で、平均購入額は1966円となり、「安い」と思う価格=1775円を1割程度上回る額を払ったようである。ただし、平均購入額については参考値としたい。値は購入価格帯の質問から計算しており、そこでは「季節の花10本」という限定はないからである。
一方、「安い」と思いはじめる平均額は、この1年花を買っていない人では 1250円、花を買ったことのない人では 980円で、実購入者より500~800円程度低い。想定購入額は、それぞれ、1036円、1171円(10000円以上の外れ値を除くと865円)となる。 いま花を買っていない「未顧客」向けには、「安い」を若干下回る価格でお買い得感を持たせないと、手が出にくいかもしれない。
図表 購入経験別 価格感度
(3) PSM(価格感度測定)
この設問では、PSM(Price Sensitivity Measurement(価格感度測定))の枠組みを援用した。PSMは価格受容性調査の一つで、メーカーや小売で、値付けや価格戦略において、非常に普及しているマーケティング・リサーチ手法である。
PSMでは、商品・サービスについて、生活者の「内的参照価格」を探り、商品・サービスに対する許容額の「幅」を推測する。 PSMで指標とされる4つの価格を、以下に掲げる。いずれも、「高すぎる」「高い」「安い」「安すぎる」のうち2つの線が交わる交点にあり、プライシング(値付け)の際に考慮すべき次元を表す。
図表 値付け時に考慮すべき4つの次元
「最適価格」(「高すぎる」と「安すぎる」の交点)は、高すぎも安すぎもしない、つまり、お客さんにとって、価格面での拒否感が最小になる地点である。ただ、利益が上がる点かどうかは、別の問題である。
「妥協価格」は、そのカテゴリーの商品の相場感に近い。「この品なら、これくらいするものだろう」と、お客さんが心理的に妥協する価格。図表はインテージのシステムの計算で、特に妥協価格では、安い、高い双方が競り合う、生活者の心理の曖昧さを織り込んだ表現になっていることに注意。
自宅用の花の実購入者を対象にしたグラフでは、平均購入額は1970円で、「最適価格」(1390円)と「妥協価格」(2270円)の間に位置している。縦軸は累積%で、x軸の値に至るまでの選択率の累積値を表す。
「下限価格」(1010円)は、「高い」と「安すぎる」の交点で、この金額を下回るにつれて、品質への不安が優勢になっていく。図では、最適価格を下回ったところで、それまで1割もいなかった「安すぎて買いたくない」が(左上にむかって)急増し、「下限価格」を下回ると(だいたい1000円以下)、うなぎ登りに「買いたくない」が増していく様子がわかるだろう。
「上限価格」(3900円)は、「高すぎる」と「安い」の均衡点である。これ以上の価格では「高すぎる」が急上昇し、量はさばけなくなる。スペックを上げても購入されなくなっていく閾値なので、全体の売上の最大化を考えれば、価格政策的に「上限」になるという理屈である。
ただし、これは一般論にすぎない。供給そのものが限られている場合、レアもの、特別な新商品、ブランド品など、意図的にこの額より上回る値付けをして、プレミアム感を出すという価格戦略も選択肢である。供給が絞られ、かつ魅力ある商品なら、上限価格を超えても「高すぎて買えない」とは思わない顧客層はいるので、この人たちにフォーカスした値付けをすればよい。
価格感度は、店のステータスや業態によっても異なると考えられるので、顧客の利用状況の調査で業態・店舗別に同じ質問をしてみると、興味深い結果になるかもしれない。
図表 PSM 最適・妥協・上限・下限価格 自宅用の花 購入者
7. 母の日の花贈り経験
(1) 母の日の花贈り頻度
需要(物流)が集中する典型的物日として、「母の日」に注目し、購入頻度と生活者の感じ方を聞いてみた。
母の日の花贈り頻度は、「ほぼ毎年贈る」が全体の21%。ついで、「2~3年に1回」と「4~10年に1回」が1割台でほぼ並ぶ。
全体の15%は、「贈らない・贈れない」(母親が存在しない、贈っても拒否されたなど)。
図表 母の日の花贈り 頻度
(2) 母の日の花贈り 経験と意見(自由回答から)
母の日と花について、自由回答を分類した。
一番多いのは「なし・特になし」139人。具体的な書き込みでは、最多が「感謝」48人、「喜ばれる」44人、「いいこと」(31名)など。
カーネーションについては、シンプルに肯定的に受け入れている人たちと、「一択に違和感」「カーネーションや紫陽花以外を選ぶ」など、飽和感漂うコメントが混在している。ただし、カーネーションは定番で選びやすく、満足している人は、特に意見をしないサイレント・マジョリティであるかもしれない。
贈られる側の世話の手間を考慮して、「枯れる・世話が大変」(22人)と考える人たちもいる。「喜ばれない」ため花を選ばない人たちも、一定数存在(「母は花が嫌い」など14人)。「花以外」を選ぶ人も多い(26人)。
花と他のカテゴリーの品のコラボでの贈り方「花にプラスα」(4人)には、まだ伸びしろがある。先に、購入価格帯のデータで明らかになったように、1500円以下のカジュアルなブーケのギフトには一定の需要があるので、取り組む価値はあるかもしれない。
なお、ここでは、簡易的に各人のコメントを1人1カテゴリーに限定して振り分けた。文を品詞に分解した形態素単位での分析ではない。同じ分類でも、ニュアンスに揺らぎがある。個々の自由回答は、全体の単純集計表とともに、報告書に公表予定。
図表 母の日の花贈り 自由回答 主な内容
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2023)「花の消費選好」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)
調査概要
概要
花の消費動向と環境意識について、継続調査。現在は農林水産省の実証事業として、国産花き生産流通強化推進協議会が実施。主要な設問の枠組みと2017年以前のデータについては、認証会社であるMPSジャパンから提供を受けた。2023年度は、物流課題対処として規格や価格関連の新項目を設けた。
調査、分析、報告:青木恭子
実施方法
日時:2023年8月13日(月)~8月14日(火)
調査方法:インターネット・アンケート(「インテージ」のモニター対象)
回答者:日本国内の20~50代男女、全500名
設問項目
消費関連の継続データを蓄積。一方、2023年は、物流2024年問題関連のセクションも設けた。一部項目はブログでは省略。
● 花、植物の購入(継続)
今年1年の花および植物の購入率、購入用途、経路、金額、頻度、購入する日や場面、重視点、購入内容
● 日持ち保証販売(継続)
家庭での花の管理状況、日持ち保証販売の認知率、利用率、利用意向
● 表示、認証、環境対応(継続)
表示の重視点、環境ラベルの認知率・購入率、栽培情報重視度
● 物流課題対処 最適サイズ、規格外・未利用部位ニーズ、物日(2023年度特別調査)
好まれるサイズ、アップサイクルの選好、ホームユースの価格感度、物日の購入状況:母の日の花贈り
この記事の引用例 以下は例。著者の解釈も含める場合は、著者名でも可。この通りでなくてもよい。
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2023)「花の消費選好 2023年」(調査委託:ゲルダ・リサーチ)
出典:青木恭子(2023)「花の消費選好」国産花き生産流通強化推進協議会
Source: Aoki, Kyoko (2023) Consumer Preferences for Flowers Japan 2023. Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement.
本調査は、農林水産省の助成で実施された。
This research was funded by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan.
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