観葉植物の顧客離脱を防ぐには~栽培状況、枯らせた経験、虫への忌避感と購入 Preventing houseplants customer churn:Analysis of the influences of withering-up experiences and aversion to insects on purchase propensity

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観葉植物を、継続的に人々の生活に取り入れてもらうには、どうしたらよいか。2021年11月、特別調査を行い、リピート購入の阻害要因として、特に「枯らせた経験」と「虫への忌避感」の2点を焦点に、栽培実態や購入状況との関連を調べた。
仮説1 鉢を枯らした失敗体験が、ユーザーの離脱につながっているのではないか? → 枯らせた場合の再購入意向は、枯らせた経験が多いほど低くなる傾向あり。枯らせた場合、「もっと丈夫な植物を選ぶ」(45%)が最多。
仮説2 虫への忌避感が、購入の阻害要因になっているのではないか?→ 購入経験に応じて、虫への拒否感の程度は異なる。虫が出るなら「買わない」は、購入者では 13%、過去の購入経験者では19%、見込客(購入経験はないが購入意向あり)では33%。虫の存在は、かなりの程度、購入の妨げになりうる。栽培経験を積んでも虫への忌避感が薄らぐとは限らないが、たくさんの植物を育てる人では、「害虫以外」の虫への拒否感は和らぐ。虫は生物多様性の担い手でもある。忌避感を和らげるコミュニケーションも必要ではないかと思われる。調査は、農林水産省の資金で実施。国産花き生産流通強化推進協議会の鉢物規格検討事業の一環。



1 概要

(1) 概要

調査は、国産花き生産流通強化推進協議会の鉢物規格検討事業の一環。協議会から仮説と課題、質問内容の提案を受け、「消費行動調査」の一部に組み込んで実施した。
調査設計、分析、報告は筆者(青木)
観葉植物調査報告_本文リンク_Link_report

(2) 実施方法

日時:2021年11月17日(水)~18日(木)
調査方法:インターネット・アンケート(マクロミルのモニター対象)
回答者:日本国内の20~50代男女、全520名。この中から自宅用観葉植物の購入経験者208名を抽出、栽培実態等は、主にこの208名に質問。うち、今年1年の購入者は63名。

(3) 注意

観葉植物調査は、急遽、「消費動向調査」(n=520)中の分岐設問として実施したため、回答者数が少ない。直近1年の「自宅用」観葉植物購入者に限ると、63名。そのため値に偶然以上の意味がありそうかどうかの統計検定ができない部分が、随所にあることに注意。データの信頼性を上げるためには、本来、スクリーニングを行い、十分な回答者数を確保してから調査する必要がある。

2 仮説とその検証

(1) 仮説1 枯らせた経験、その購入意向への影響

(1)-1 鉢を枯らせた失敗体験が、購入の阻害要因となっているのでは?

→ 枯らせた場合の再購入意向は、枯らせた経験が多いほど低くなる傾向がみられた。
「よく枯らせた」人では(枯らせた後)「もう一度購入」したい人は24%にすぎず、「枯らせたことはない」人の67%とは、開きがある。
なお、枯らせた場合の対応では、「もっと丈夫な植物を選ぶ」(45%)が最多。

図表 枯らせた経験と再購入意向
Fig1wilt_repurchace_intent

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


(1)-2 枯らさずに育てられれば、植物を増やすと言えるか?

→ 育てた鉢数が少ない人では、「よく枯らせた」人の割合が高い。 1鉢しか育てたことがない人では。約3分の1が「よく枯らせた」(最初の鉢を枯らせてしまった恐れ)。10鉢以上では「よく枯らせた」は皆無。今年の購入率は、栽培経験が1鉢のみでは2割未満(19%)だが、10鉢以上では46%になり、リピート購入で植物を増やしている可能性。 一方、5年以上栽培している(いた)人の25%は、1鉢だけ。因果関係かどうかは検証が必要。「最初の1鉢」と2鉢目以降増やしていく段階で枯らせた経験を作らないことは大切。

(2) 仮説2 虫への忌避感、購入意向への影響

(2)-1 植物は好きでも、虫への忌避が購入の阻害要因になっているのではないか?

→「植物は好きだが虫は苦手」な人は64%、「虫が出るなら買わない」人は26%(「植物に興味がない」人を除くn=439)。 購入経験に応じて、虫への拒否感の程度は異なる。虫が出るなら「買わない」と答えた人の割合は、最近1年間の購入者では 13%、過去の購入経験者では19%だが、見込客(購入経験はないが購入意向あり)では、3分の1にのぼる。 栽培経験を積んでも、虫への忌避感が薄らぐとは限らないが、たくさんの植物を育てる人では、「害虫以外」の虫への拒否感は和らぐ。虫は生物多様性の担い手でもある。忌避感を和らげるコミュニケーションも必要ではないかと思われる。

 図表 「虫が出るなら買わない」購入経験別
Fig2_insectphobia_purchase

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


(2)-2 資材や設置環境の見直し、ケアの提案で対処し、購入のハードルを下げられるか?

→ 虫対策資材への潜在ニーズは、「虫が出にくい土壌」21%、「土以外の土壌」15%(全体、n=439)。 購入経験者(n=208)では、虫へは「薬剤」(41%)と「薬剤を使わない対処」(35%)が多い。「植物が好き」(購入理由)と「5年以上栽培」の人はいずれも、薬剤を使わない比率の方が高い。
「販売店に相談」は平均15%だが、栽培経験1~2年の人では25%。相談したから続けられたのか、続けてから相談したのか、因果関係は不明。ケアに関する相談や情報提供には、特に初心者からミドルユーザーへの移行ステージのニーズがありそうである。


3 ポイント

(1) 観葉植物の購入状況

● 観葉植物(インドアグリーン)の購入経験・購入意向(回答者抽出)(Q1)(n=520)
購入経験者は243名(全520名中、47%)。うち、この1年間の購入者は70名(14%)、この1年は購入していない人は173名(33%) 。購入意向のある未購入者は22.3%。

図表 観葉植物(インドアグリーン)の購入経験・購入意向
Fig3_Purchase

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


● 観葉植物の購入用途 (Q2)(n=243) (自宅用購入者抽出)
購入経験者243名に、用途を尋ねた。86%は自宅用、プレゼント用は25%。以下、主として「自宅用」購入経験者208名に対して、購入理由や栽培実態を尋ねていった。

● 自宅用観葉植物の購入理由 (Q3)(n=208)
購入理由は「癒されたい」が65%で突出。「おしゃれだから」46%、「植物が好き」32%。

(2) 観葉植物の栽培状況

● 置き場所 (Q4)(n=208)
観葉植物の置き場所は、「居間」が73%で圧倒的、次いで玄関18%、寝室11%。屋外は、ベランダや庭・畑それぞれ1割前後。

● 育てている観葉植物の大きさ (Q5)(n=208)
植物の大きさ(高さ)は、過半数が20㎝未満(51%)。大きくなるほど少なくなり、1m以上では8%に満たない。

図表 育てている植物の大きさ
Fig4_Plant_height

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


● 栽培鉢数 (Q8)(n=208)
栽培鉢数は、「2~5鉢」が46%で最も多く、「1鉢」だけも41%。5鉢以下が全体の88%。
栽培鉢数については、現在育てていない場合は、過去の経験として答えてもらっている。

図表 鉢数と今年1年間の購入の有無
図5_Pots_2021Purchase

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


● 栽培経験(年数)(Q9)(n=208)
栽培年数1年未満(この1年に育て始めたか、過去に1年未満で育てるのを止めた人)は17%。「5年以上」は、3割超を占めた。

図表 栽培年数
Fig6_Years_cultivation

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


(3) 植物を枯らせた経験と日持ち期間期待値

● 枯らせた経験 (Q6)(n=208)
半分以上が「ときどき枯らせた」(51%)と答えている。「よく枯らせた」は22%。

図表 観葉植物を枯らせた経験
Fig7_wilt

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


● 枯らせた場合の再購入意向 (Q7)(n=208)
枯らせてしまった場合、「もっと丈夫な植物を選ぶ」(45%)が最多だが、39%の人は「もう一度購入したい」。 枯らせたら「もう購入したくない」は、全体では10%に満たなかった。
植物のケアや交換サービスは、サブスクのような形(非所有)ではまだ需要がない。自分の植物についてケアや相談サービスを選択肢として設け、複数回答にすれば、別のニーズの兆候をとらえることができたかもしれない。

図表 枯らせた場合の再購入意向
Fig8_after_wilt_repurchase_intent

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


● 満足する日持ち期間(Q10)(n=520)
全員に、満足する日持ち期間を尋ねた。1年程度以下で満足する人は、4割に満たない。8割以上の人が満足するには、1年以上の日持ちが必要。また、そもそも「観葉植物は枯れないものだ」と考える人は、24%にのぼる。

(4) 虫への忌避感と資材・相談サービスへのニーズ

● 虫への忌避感と対応(Q11)(n=439)
「植物は好きだが虫は苦手」な人は、64%に達した。「虫が出るなら買わない」26%。
虫が出にくい資材への潜在ニーズは、「土壌」21%、「土以外の土壌」15%。
虫について、忌避感の程度や対応を全員に尋ね、うち「植物に興味がない」(16%)人を除く439名について集計したもの。

図表 虫への忌避感と反応
Fig9_insect_aversion

出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)


● 観葉植物購入者の虫対処法(Q12)(n=208) 栽培経験者に対し、虫への対処法を尋ねたところ、「薬剤」(41%)と、「薬剤を使わない対処」(35%)が多い。15%の人は「販売店に相談する」と答えた。

4 課題

(1) サンプルサイズと結果の信頼性の問題

「消費動向調査」(n=520)中の分岐設問であるため、回答者数が少ない。自宅用観葉植物の購入経験者として208名を抽出したが、うち、今年1年間の購入者(現ユーザー)は、63名しかいない。後の145名は、今年1年間は購入していない人。
セグメント別に分析する際、統計的に偶然以上の意味があるとみなしうるかどうか、検定が難しい箇所が多くある(もし複数回同じ調査をしたら、異なる結果になる恐れがある)。検定できないからと、結果が誤っているという意味にはならない。しかし、調査の信頼性を上げるためには、回答者数を増やすべき。そのうえで、再検証することが望ましい。

(2) 質問票の設計

植物のケアや交換サービスは、まだ需要が定量化できなかった(Q7)。選択肢の文章や選択方式の工夫次第(複数回答にする)で、需要の兆候をとらえることができたかもしれない。   また、栽培経験5年以上で、虫が出にくい土壌への選好が落ちることなど、本調査からは理由のわからない結果がある。できれば、聞き取りや別の調査(自由回答)で探った方がよい。

(3) 因果関係が成り立つかどうか?

調査結果から「枯らさずに育てられた → 植物を増やす」という仮説について、経験と購入率等を分析して、一定の線的な対応関係は見い出せた。ただ、直接的な「因果」関係が成り立つとまで言える状態にはない。「枯らせない」→「購入増」のプロセスの間で、たとえば「品目」や「植物への傾注度」のような、中間で媒介となる潜在要因が働いていないか?仮説を練り、設問を組み立てて調べるべき。


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引用について

引用は、基本的に自由。引用者の責任でご活用ください。
引用時は出典を記載(以下は引用例、いずれでも可、形式は自由)
出典:国産花き生産流通強化推進協議会(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには』(調査委託:ゲルダ・リサーチ)
出典:青木恭子(2021)『観葉植物の顧客離脱を防ぐには 』国産花き生産流通強化推進協議会
Source: Aoki, Kyoko (2021) Preventing houseplants customer churn:Analysis of the influences of withering-up experiences and aversion to insects on purchase propensity. Council for Japanese Flower Production and Distribution Enhancement.


本調査は、農林水産省の助成で実施された。
This research was funded by the Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Japan.

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